レポート
2025.03.13
インドのモノ差し「ガジェヴ in インド」前編

ガジェヴが巨匠メータと共演でインド・デビュー!~西洋圏外でのクラシック受容を考える

足繁くインドに通うクラシック音楽ライター高坂はる香さんによる連載「インドのモノ差し」。今回は、インド唯一のプロ・オーケストラのリハーサルと演奏会をレポート。この演奏会で巨匠ズービン・メータの指揮のもと、インド・デビューを果たしたアレクサンダー・ガジェヴさんへのインタビューから浮かび上がった、インド、ひいては日本を含む「西洋圏外」で「西洋クラシック音楽」を演奏することの意味を考えます。

取材・文
高坂はる香
取材・文
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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インド唯一のプロオケに、インド出身の巨匠メータが登場!

以前この連載でご紹介した通り、インドには現在、プロの西洋クラシック・オーケストラがひとつだけ存在しています。

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ムンバイのナショナル・センター・フォー・パフォーミング・アーツ(NCPA)の会長の声掛けで誕生した、シンフォニー・オーケストラ・オブ・インディア(SOI)。カザフスタン人のヴァイオリニスト、マラト・ビゼンガリエフさんを音楽監督として2006年に創設され、近年は春と秋に定期公演が行なわれています。

常駐の団員は20名ほどで、その約半分がインド人。他の数十人は、シーズンになるとカザフスタンやロシアから集められるという形です。指揮者やソリストには世界トップクラスの音楽家が招聘されることも多く、そういった公演では数日間の定期演奏会も完売となります。

ムンバイといえば、世界的指揮者、ズービン・メータさんが生まれ育った場所。彼は若いころから何度か世界のトップオーケストラとムンバイで“凱旋公演”を行なっていますが、SOIとの共演は2023年が初めて。以後は毎年共演しており、80代後半を迎え、ついに彼の中に祖国のオーケストラに寄与する気持ちが芽生えたのだろうか……と感じております。

コンサート会場であるNCPAのジャムシェッド・ババ・シアターのエントランス前

そんなメータさん、2025年春シーズンもSOIの定期演奏会に登場。しかもその1公演のソリストがアレクサンダー・ガジェヴさんだというので、聴かないわけにはいきません! ちょうど自分の毎年恒例インド滞在シーズンと重なっていたので、リハーサルからしっかり見てまいりました。

ちなみにこちらの公演、S席が17,000 ルピー(日本円で約28,000円)。その前の年の春定期(ゲルゲイ・マダラシュさん指揮、ソリストはバリー・ダグラスさん)はS席1,500ルピーでしたから、メータさん出演公演は文字通り桁違いの価格設定となっています。

ガジェヴ×メータでショパン2番をインド初演!! 3日にわたったリハーサル

ピアノ・ファンのあいだではおなじみ、2015年浜松コンクール優勝、2021年ショパンコンクール第2位のガジェヴさん。メータさんとは、2024年6月にフィレンツェ五月音楽祭管とショパンの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏していて、今回のインド公演もメータさんのご指名だったようです。

ゆっくりとした足取りのメータさん、そこに寄り添ってガジェヴさんがステージに現れると、オーケストラから歓迎の拍手が起こります。

ショパンのピアノ協奏曲といえば、ピアノが入る前のオーケストラのパートが長いことで知られますが、メータさんはその部分から何度も止めながら、丁寧に音楽を作っていきます。

リハーサルは一般的なプロのオーケストラよりしっかりめの3日間

途中、客席で聴いていたビゼンガリーエフ音楽監督に「このオーケストラはもっと音量出せるの?」と尋ねるメータさん。「出せるならもっと音を出そう、ピアニストの音がブリリアントなのだから!」と言って、オーケストラを鼓舞していました。

ガジェヴさん曰く、「ショパンのピアノ協奏曲第2番をSOIが演奏するのは初めてで、関係者の話からすると、これがインド全体での初演なのかもしれない。14億人の国での初演だよ!」とのこと。なんだか嬉しそうでした。

初日の休憩中、ガジェヴさんの楽屋を訪ねると、オーケストラのスタッフが持ってきてくれたインドの軽食、サモサを食べているところでした。

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