
「Yamaha Fellowship Concert 2026~若き名手たちによる競演~」ならではの希望に満ちた演奏を聴く愉しみ

国内外の音楽文化の発展に寄与するため、1999年から次代を担う逸材への支援を続けてきた、ヤマハ音楽振興会による「ヤマハ音楽支援制度/音楽奨学支援」。
第2回となる成果披露コンサート「Yamaha Fellowship Concert 2026~若き名手たちによる競演~」が、2026年8月30日(日)にヤマハホールで開催されました。夏の終わりの日曜日の銀座を彩る、多彩な楽器と最高峰の俊英によるコンサートの模様をレポートします。

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...
国際的に活躍する俊英が一堂に会したフェローシップコンサート
次代を担う音楽家たちへの支援の成果披露コンサートは、第一線へ躍り出ようとするライジングスターたちが、磨いた腕を発揮し聴衆を魅了する競演の舞台。なかでもヤマハ音楽支援制度「Yamaha Fellowship Concert」は、多彩な楽器と最高峰の俊英たちが一堂に会する夢のひとときだ。
ヤマハ音楽振興会による「ヤマハ音楽支援制度/音楽奨学支援」は1999年にスタートし、国内外の音楽文化の発展に寄与するため、次代を担う逸材への支援を続けてきた。成果発表の「Yamaha Fellowship Concert」は昨年初開催。待望の第2回となる今回は、引き続き、音楽プロデューサーに、2018年度奨学生でもある指揮者・ピアニストの大井駿さんを迎え、2022~2026年度奨学生の7名が登場。テューバやファゴット、クラシックギター、ピアノ、ヴァイオリンと、多様な楽器のソロが繰り広げられた前半と、めずらしい編成による名曲《動物の謝肉祭》の後半で構成された。
溢れる思いが伝わる、それぞれの音楽
コンサート冒頭を飾ったのは、クラシックギターの原田斗生。現在英国王立音楽院修士課程で学ぶ。今年4月に日本人ギタリスト初となるロンドン「プリンス賞」総合優勝など国際コンクール入賞・優勝歴を数多くもち、ファーストアルバムが『レコード芸術』特選盤に選出、来年2月にウィグモアホールでのコンサートが控える、すでに気鋭の国際的スターだ。ブローウェル《ラ・グラン・サラバンダ》では、どんな高速ポジション移動であれ高速パッセージであれ、ラ・フォリアが秘める陰影感を立ち上らせる成熟した好演を聴かせた。
テューバの島圭佑は、ハノーファー音楽演劇メディア大学を修了、今年10月からハンブルク音楽演劇大学で学ぶ。ソロのコンサートがめったにないテューバだが、ヤマハ音楽支援制度によって欧州各地のオーケストラのオーディションに挑戦する研鑽を積み、「テューバの発展に貢献したい」という島の夢を支える。プログ《3つのミニチュア》の両端楽章では、どんな細かなパッセージも隅々まで豊かな響きでピアノの森本隼太と掛け合い、小気味良い。とりわけ、ホール全体に行き渡る豊かな表情の響きでの第2楽章には胸を打たれる。豊かな響きと高い技術——テューバの魅力を多くの聴衆に気づかせてくれる俊英だ。

イザイ《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番》を、楽器から明澄な響きを引き出しながら、溌剌と聴かせたヴァイオリンの篠﨑千響は、現在桐朋女子高等学校在学中。幼少時から国内外のコンクールで頭角を現してきた逸材に、いち早く出会えるのもフェローシップコンサートの楽しみのひとつだ。
ピアニストの森本隼太は、まろやかな美しさを纏いながら1音1音クリアな響きでラヴェル《クープランの墓》~〈トッカータ〉を聴かせた。象徴派の雰囲気が色濃いフランス世紀末に育った作曲家のなかでも、お伽噺など幻想の世界を繊細に描いたラヴェル独特の想像の世界へと一瞬にして引き込む好演。エコール・ノルマルから、今後ロンドン王立音楽大学で巨匠D.アレクセイエフに師事予定。動向を注目すべき存在だ。
中1でジュニアギターコンクール優勝、中3でGLC優勝、とジュニア世代の2大会を制覇して高3でCDデビューした、クラシックギターの俊英・大谷恵理架。大谷の弾いたバリオス《最後のトレモロ》は、フェローシップコンサートのもたらす贈り物のひとつであろう。完璧にコントールされた粒ぞろいのトレモロを背景に、深い陰影感で織り成されていく旋律に、会場は静まり返った。6月にリール高等音楽舞踊学校を卒業し、10月からはドイツで学ぶ予定。さらなる深化を聴ける来年2月のコンサートも楽しみ。
東京藝大附属音高・東京藝大を経てウィーン国立音楽大学を卒業、修士課程で学ぶピアノの今井理子。藝大で江口玲に、ウィーンではネイガウスの後任として“ロシア・ピアニズムの領袖”と謳われたナウモフの弟子アンナ・マリココヴァに師事する今井の響きはさすが。プロコフィエフ《ロメオとジュリエット》からを遠くまで響く芯のある深い音で聴かせた。ひときわ好演だったのは、第2部で演奏した森本隼太とのルトスワフスキ《パガニーニの主題による変奏曲》。「トップレベルのアンサンブルに参加できる」と欧州留学の喜びを語った今井と、16歳からサンタ・チェチーリア音楽院の伴奏科で学んだ森本は、遠慮することなく、見事に個性を放ちながら溶け合う高度なアンサンブルを展開。じっくり室内楽を楽しむファンが増えている日本のクラシック音楽シーンにとって、期待の新星だ。
前半最後を飾ったファゴットの松本拓也は、チューリッヒ芸術大学修士課程に在学中。自分の演奏スタイルを模索しながらじっくりと準備を重ね、コンサートの数日後にはミュンヘン国際音楽コンクールへの出場を控えていた。美しい変幻の和声感漂うビッチュ 「コンチェルティーノ」を、陰影豊かな好演で聴かせた松本。「マイナーで説明が難しい楽器なので魅力を知ってもらえる活動がしたい」と熱を込めて語る。
フレッシュな響きが飛び交った《動物の謝肉祭》
後半は、新星たちによるアンサンブル。
クラシックギターの大谷と原田によるピアソラ《タンゴ組曲》第1曲は、沸き立つ躍動感が群を抜く。タンゴの踊りのなかで濃厚になっていく情感の機微も見事に立ち上り、早熟の逸材2人の奥深いピアソラは絶品だった。

森本&今井のルトスワフスキに続き、コンサート掉尾を飾ったのがサン=サーンス《動物の謝肉祭》。親しみやすい表情で愛すべき象の姿を描き出したテューバの島、繊細な響きで魚たちが泳ぐ水槽の世界を映し出したクラシックギターの原田と大谷、そしてファゴットの松本とヴァイオリンの篠﨑が掛け合い、またテューバの温かな音が会場を満たした白鳥など、逸材たちが最大級の力を放った名演は忘れ難い。異なる楽器を奏でる若き音楽家たちが一堂に会し、それぞれの音色と個性を響かせ合う。その共演を実現した編曲の妙も見事だった。多彩な才能が集い、互いの音楽を引き出し合う。それこそが、Yamaha Fellowship Concertならではの魅力だ。
「Yamaha Fellowship Concert 2026~若き名手たちによる競演~」は、夏の終わりの銀座の日曜日を彩る華やかな風物詩になるだろう。来夏の開催が待ち遠しい。

日時:2026年8月30日(日)15:30開演
会場:ヤマハホール
出演:篠﨑 千響(ヴァイオリン)、松本 拓也(ファゴット)、島 圭佑(テューバ)、原田 斗生(クラシックギター)、今井 理子(ピアノ)、大谷 恵理架(クラシックギター)、森本 隼太(ピアノ)、大井 駿(本コンサート音楽プロデューサー、指揮)
曲目:
第1部
L.ブローウェル:ラ・グラン・サラバンダ
A.プログ:テューバとピアノのための3つのミニチュア
E.イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番ホ長調Op.27
M.ラヴェル:《クープランの墓》より 第2曲 フーガ、第6曲 トッカータ
M.ファリャ:ドビュッシーの墓にささげる賛歌
A.バリオス:最後のトレモロ
S.プロコフィエフ:《ロメオとジュリエット》より 10の小品 Op.75 より 第4曲 少女ジュリエット、第6曲 モンタギュー家とキャピュレット家
M.ビッチュ:ファゴット・コンチェルティーノ
第2部
A.ピアソラ:《タンゴ組曲》より 第1曲
W.ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲
C.サン=サーンス(編曲:藤森さな):《動物の謝肉祭》より
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