読みもの
2024.05.02
特集「クラシック音楽の素朴な疑問に答えます」

ソロと合唱で歌い方は違うの? メゾソプラノ歌手の鳥木弥生が回答!

読者の皆さんから募集した、クラシック音楽にまつわる素朴な疑問に答えていただく特集。合唱団に所属する方から、ソロとの歌い方の違いについて質問がありました。
答えてくれたのは、ONTOMOナビゲーターとしてもお馴染みのメゾソプラノ歌手の鳥木弥生さん! 動画も撮影したので、実際に違いがあるのかないのか、聴いて確かめてみてください。

疑問に答える人
鳥木弥生
疑問に答える人
鳥木弥生 メゾ・ソプラノ歌手

武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....

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読者の皆様から寄せられた疑問

今、あるオーケストラの合唱団で歌っています。いわゆるソロで歌うときの歌い方と合唱の歌い方は違うものですか?

ズバリ、違いは「ない」!

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「歌い方」というのは「発声法」と「表現法」の双方と「心持ち」などもなのかな、と思ってお答えします。そして、そのあらゆる意味において、ソロか合唱かで違うことは「ない」「ないべき」とお答えしたく存じます。例えば心持ちで言うと、一人でハイCを長く伸ばせと言われたらドキドキしてしまうけど、合唱団と一緒なら余裕! とかはありますが、本来はどんな場合であっても同じほどよい緊張感で歌えるのが理想ですし。

ただ、発声法や表現法は常に一定というわけでもなく、ソロか合唱か、ではなく、歌唱する曲の様式、内容、音楽の流れによって変わるものです。

それゆえに、ソロで歌うよりも、合唱で歌うほうが、一人の人がより多岐にわたる様式、より多くの作品を演奏することができます。なぜかというと、一人の人間の声の色がカバーする表現の幅より、複数の人の声を合わせたほうが、より多くの種類の色を作り上げる可能性が高くなるからです。

つまり、ソリストはその合唱のアドバンテージに立ち向かうほどの表現力をひとりで持たなくてはいけない、という責任があるということにもなります。だからドキドキするんです(笑)。

「合唱=自分の色を消して周りに合わせる」ではない

質問をされた方の意図には、もしかしたら、合唱の場合は周りに合わせて自分の色を消して歌う、というようなイメージがあるのではないかな? とも思ったのですが、それでは、せっかくの合唱の強みが失われてしまうことになります。

逆に、ソロだからと様式や内容、流れを無視して歌うことは、作品を壊すことになります。

ソロであろうが、合唱であろうが、それぞれが自分の持つ声を使い、その色をうまく混ぜ合わせて、いつも全部真っ黒! などにならないよう、その曲やフレーズや、ハーモニーに相応しい色合いを作る、というのが合唱をまとめる指揮者や指導者の仕事でもありますし、特に合唱とソリストが時に相対したり、時に同じ音や言葉で声を合わせたりする作品では、歌唱する全員がそれを一緒に目指せたらいいな、と思います。

もしつい目立ってしまう声、とかがあったとしても(笑)、皆が自分本来の声で歌っているならば、人間同士、魅力的な良い色彩を描けるのではないでしょうか。

人間が歌ってきたさまざまな歴史とバリエーションがある

今回のご質問は大人の方からだと思いますので少し話は逸れますが、私が一番しっかりと合唱をやっていたのが、小学生のときでした。当時、私はウィーン少年合唱団の歌声が好きで「天使の歌声」を意識していましたが、周りのお友達には、歌えば「声が妖怪みたい」と言われたり、喋っても「何その声!劇団の人?」と笑われたりしていました……!

そんななか、私が入っていた合唱部の先生はことさらに私を押さえつけることはせず、私はアルトパートで旋律でもないメロディを非常にのびのびと歌っていました。もしかしたらそのときに、あまり周りに合わせろと言われすぎていたら、歌が嫌いになっていたかもなあ、と感謝しています。

私は常々、楽譜がある時代からでも1000年をゆうに超え、もしかしたら何百万年もあるかもしれない、人間が歌ってきた歴史の中で、どんな時代にもいろんな声の人がいたんだろうなあ、と想像して楽しんでいます。ヴェルディやワーグナーがまだいない時代にも、ヴェルディやワーグナーを歌うのにぴったりな声の人はいただろうし、そんな人たちもモンテヴェルディやヘンデルを歌ったり、なんなら洞窟で小鳥や小鼠の鳴き真似をして獲物をおびき寄せていたかもしれないわけです。なんかちょっと変だなあ、とか思ったり、思われたりしながら!

現代の私たちにとって「歌」にさまざまな歴史とバリエーションがあることが、自由で幸いなことであってほしいと思っています。

実際に演奏動画で体感あれ!

今回は、DOTオペラ公演ヴェルディ《レクイエム》ブラックフォード版日本初演(2024年3月3日に北とぴあさくらホールにて公演実施)に出演された合唱団Coro Libroの皆さんにご協力いただき、ヴェルディの《レクイエム》より「ラクリモーザ」を撮影! ソリストが一人でメロディを歌ったあとに、同じメロディを合唱に溶け込んで歌います。歌い方が変わっているか変わっていないか、実際に聴いてみましょう。

疑問に答える人
鳥木弥生
疑問に答える人
鳥木弥生 メゾ・ソプラノ歌手

武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....

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