~「作曲家の思いを最優先で」演奏する深さ~

プレスラー追っかけ記 No.16<推薦盤:その3>

読みもの
2018.10.13

94歳の伝説的ピアニスト、メナヘム・プレスラー。これは、音楽界の至宝と讃えられる彼の2017年の来日を誰よりも待ちわび、その際の公演に合わせて書籍を訳した瀧川淳さんによる、プレスラー追っかけ記です。
再び来日する日を待ちわびて、CDを聴きながら溢れる想いをしたためた瀧川さんからのオススメ盤を紹介します。

瀧川淳 翻訳者・熊本大学準教授・音楽教育学者
瀧川淳
瀧川淳 翻訳者・熊本大学準教授・音楽教育学者
『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』(ウィリアム・ブラウン著)訳者。 音楽教育学者。音楽授業やレッスンで教師が見せるワザの解明を研究のテーマにしている。東京芸術...

前回からのつづき

この他(ボザール・トリオ結成以前の初期のものを除けば)、プレスラーさんのソロ・アルバムは以下の2枚があります。

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番、シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番、ショパン:夜想曲第20番遺作(BIS、BISSA1999、2013、2015国内流通仕様)

●シューベルト、モーツァルト、ベートーヴェン(La Dolce Volta、 LDV12、 2013)

ショパンとモーツァルトは、プレスラーさんがアンコールでよく演奏する曲。いくつかのアルバムに収録されており、聴き比べれば彼がいかにライブの中で自分が生み出した音と対話しながら次の音をつないでいるかがよくわかるでしょう。

ベートーヴェンもシューベルトも実に楽譜に忠実。ベートーヴェンのソナタについては、『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』の中でも大きく紙面を割いてメトロポリタン美術館で行なったレクチャーが収録されています。

2013年に録音された瀧川さんの推薦盤。「Vienna Tales(ウィーンからの物語)」とサブタイトル付きで紹介されているサイトなどもある

プレスラーさんは楽譜をバイブルに、作曲家の思いを最優先でと『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』の中で何度も語っていますが、これら2人の作曲家の作品の演奏を聴くとそれがどういう意味かがはっきりとわかります。 

しかも不思議なことに、楽譜に忠実であればあるほど2人の作曲家の個性が色濃く聴かれ、そしてプレスラーという個性が強烈に発揮されるのです。「楽譜に忠実に」と言うのは簡単ですが、プレスラーさんを聴くとその深さに驚愕させられます。

しかし私のオススメは、上記推薦盤の2枚目に収録されているベートーヴェンのバガテル。6曲からなる小品ですが、かの「第9」を書き上げた後に書かれた最後のピアノ作品です。それぞれがベートーヴェン芸術の集大成と言ってもよいでしょう。

プレスラーさんは、一つひとつの楽曲の個性を的確に捉え、それぞれを理想的な形で奏します。彼は、20世紀のロマンチックな演奏スタイルに教育を受け、そして現代にまで生きた芸術家ですが、ロマンと現代が彼の中で高次に調和して、彼の音色やリズム感に表れていることを証明するには、このバガテルが一番でしょう。

 「プレスラーさん、かっこいい!」と感じたのは、この演奏を聴いた瞬間です。

(つづき)

メナヘム・プレスラー Menahem Pressler

1923年、ドイツ生まれ。ナチスから逃れて家族とともに移住したパレスチナで音楽教育を受け、1946年、ドビュッシー国際コンクールで優勝して本格的なキャリアをスタートさせる。1955年、ダニエル・ギレ(vn.)、バーナード・グリーンハウス(vc.)とともにボザール・トリオを結成。世界中で名声を博しながら半世紀以上にわたって活動を続け2008年、ピリオドを打つ。その後ソリストとして本格的に活動を始め、2014年には90歳でベルリン・フィルとの初共演を果たし、同年末にはジルベスターコンサートにも出演。ドイツ、フランス国家からは、民間人に与えられる最高位の勲章も授与されている。また教育にも熱心で、これまで数百人もの後進を輩出してきた。世界各国でマスタークラスを展開し、またインディアナ大学ジェイコブズ音楽院では1955年から教えており、現在は卓越教授(ディスティングイッシュト・プロフェッサー)の地位を与えられている。

10月13日(土)※公演中止

メナヘム・プレスラー シューマン・リサイタル with マティアス・ゲルネ

2018年10月13日(土) 19:00 開演(※公演中止)

サントリーホール 大ホール

※この公演は、プレスラーさんの健康上の理由により公演中止になりました

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