アンダンテ:歩くを意味する動詞andareの現在分詞! 時代と共に意味が変化
楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第93回は「アンダンテ」。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
さて、この言葉はよく目にするのではないかと思います! アンダンテ、です! 「歩くくらいの速さで」と訳される言葉で、テンポ表記などに用いられます。
イタリア語で行く、進む、歩くを意味する動詞andareの現在分詞の形で、andanteと書きます。英語のgoingが、andanteに対応する言葉ですね。このアンダンテという言葉の歴史、非常に深いのです!
アンダンテという言葉が音楽に使われるようになったのは、17世紀ごろです。しかし、この時代のアンダンテは、現在のアンダンテの意味とは大きく異なっていました!
18世紀の主要な音楽事典がどのような定義をしているか、見てみましょう。すると、アンダンテの意味として次のように書いてあります。
動詞のAndareからの派生。
アンダンテとは、規則的な足取りで進むこと。特に通奏低音に対して用いられ、その際はすべての音が等しく、音を分離して弾く。
ブロッサール(1703年)
イタリア語の動詞andareからの派生。
規則的な足取りで進むこと。アンダンテは、通奏低音だけでなく、それ以外のパートへの指示として使われる。すべての音符が等しく、同じ方法で演奏されなければならない。そしてアダージョよりも、若干速く演奏する必要がある。
ヴァルター(1732年)
なんとテンポそのものの説明は、ヴァルターの最後の一言のみです。そしてアンダンテが、特に通奏低音に対して用いられていたことがわかります!
そして、「規則的な足取り」「すべての音を等しく」と説明がありますが、これは17~18世紀の演奏習慣が大きく関係しています。
当時は、ノート・イネガルという演奏法があり、スウィングのようなリズムで演奏することがありました。アンダンテという言葉は、通奏低音はこのスウィングをしないように、規則的な歩みで演奏してね、という意味で用いられていたのです。なので、アンダンテと書いてある場合には、テンポを揺らすことや、ルバートすることには注意が必要です!
フリードリヒ・エアハルト・ニート(1674〜1708)や、レオポルト・モーツァルト(1719〜1787)も、アンダンテは「自然な足取りで」、と述べていますが、同時にアンダンテをテンポ表記としても用いており、通奏低音の奏法だけでなく、テンポを意味する言葉でもあったことがわかります。
例えばマッテゾン(1681〜1764)も、「アンダンテは、走るわけでもなければ、這うわけでもない。遅すぎず、速すぎないテンポ」と述べています。
しかし、音符一つひとつを規則的な足取りでしっかり演奏するには、速すぎても遅すぎても、なかなか難しいものです。アンダンテは、それぞれの音符をきちんと、心地よい足取りで演奏できるちょうどいいテンポで、ということなのです。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハは、平均律クラヴィーア曲集第1巻の第24番ロ短調の前奏曲に、Andanteという指示を書いていますが、テンポだけでなく、「規則的な歩みで」という意味合いも強かったのでしょう。
J.S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻〜第24番 ロ短調より前奏曲 Andante
そして、のちにノート・イネガルのスウィング奏法が影を潜めるようになり、次第にアンダンテがテンポのみを意味する言葉となりました。
アンダンテは、時代の歩みと共に、少しずつ意味合いが変化した言葉だったのです!
アンダンテを聴いてみよう
1. モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》K.492〜第4幕より「牡の山羊と牝のヤギは」(Tempo di Menuetto、元々の表記はAndante)
2. ベートーヴェン:アンダンテ・ファヴォリ(お気に入りのアンダンテ) WoO.57
3. ブラームス:交響曲第4番 作品98〜第2楽章 Andante moderato
4. シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ
5. シェーンベルク:ピアノ協奏曲〜第1楽章 Andante
6. シュニトケ:合奏協奏曲第1番〜第1楽章 Andante
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