トッパンホール~聴衆の想いをかなえ演奏家の可能性を引き出す「ホールの中のホール」
ハイクオリティな“おとなの遊び場”として知られるトッパンホールは、一つひとつの公演で演奏家とともに汗をかき、それが聴き手の満足感にもつながる幸福なサイクルが生まれている場所。“西巻道場”ともいわれる若手が成長していける場としても、クラシック音楽シーンをリードし続けています。ホールがもっと面白い場所にならないか、と語るそのご本人、プログラミング・ディレクターの西巻正史さんにお話を伺いました。
1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...
2000年10月の開館以来、トッパンホールは「コンサートホールの中のコンサートホール」としてクラシック音楽シーンをリードし続けている。
コンサートを創り、その喜びを分かち合う、文字通りクリエイティヴなホール。わたしたち聴き手の想いをかなえ、演奏家の新たな芸術的可能性を切り拓く愛すべきヴェニューなのだ。
そしてここには、内外のアーティストと深い絆で結ばれているプログラミング・ディレクターの西巻正史さんがいる。
西巻「ホールはおとなの遊び場。この言葉が好きでよく使うのですが、最近はこのおとなの遊び場がもっと面白い場所にならないだろうか、もっと面白くしますよ、との思いでコンサートを企画しています。
それで3つのモットー(もっと)です。もっとチャレンジしたい、もっとスティミュラス(刺激的)に、そしてもっとディープに。
ユニークで、ちょっとクレイジーで、でも音楽の価値やその本質を見失うようなことのないように。3つじゃなくなってしまいましたね(笑)」
選曲ミーティング、時間をかけたリハーサル……若手アーティストを育てる“西巻道場”
トッパンホールは、個人のリサイタルも室内楽も音楽祭も、創る。
西巻「室内楽はとにかく面白いですし、奥が深いですよね。私たちのホールは、アーティストやホールのスケジュールにもよりますが、リハーサルにかなりの時間をかけます。公演の半年ぐらい前からリハーサルが始まることも珍しいことではありません。
今のアーティストは上手いので、少しのリハーサルで合わせて、当日ゲネプロ(最終リハーサル)があって夜本番という流れでも、ある程度の演奏にはなるでしょう。でもそれでは駄目なのです。面白くない。アーティストのためにもお客様のためにもなりません。
選曲ミーティング、時間をかけたリハーサルを経験した若手のアーティストたちが“西巻道場”と呼んでくれて、私も気に入って(その言葉を)使ったり書いたりしましたが、アーティストのみなさんには、僭越ですが、汗をかいてもらいたいと思っています。それは制作する私たちも、です。私からアーティストに、公演テーマや曲目、曲順などを提案することも多いです。
そうした取り組みがコンサートに付加価値をもたらしますし、お客様の満足感につながります。プログラムづくりをめぐって、アーティストとは、とことん話し合います。その上でリハーサルに入ります。新たな課題や予想もしなかった素晴らしい効果も出てきます」
ハイクオリティなランチタイムコンサートで、トッパンホールに“デビュー”するのは、いかが?
“おとなの遊び場”、アーティストと一緒に汗をかく“西巻道場”のほかにも“弦のトッパン”、(歌曲の復権を求めて始まった)“リートの森”など、トッパンホールの特質を端的に示す好ましいキャッチは、多い。西巻さんは以前こんなことをも話してくれた。コロナ禍前のホール企画者座談会での懐かしい取材メモからご紹介する。
西巻「ランチタイムのコンサートといえば、一般的には親しみやすい小品がよく演奏されますよね。それも素敵ですが、トッパンホールのランチタイムコンサート(12時15分開演、入場無料だが全指定席、要予約)は、登場する若手の音楽的なパーソナリティにスポットをあてます。名曲、有名曲、小品を並べたミニリサイタルではなく、そのアーティストが何を学んできたのか、何をどう弾きたいのか、初めてトライする曲を含めて次につながるプログラムを一緒に考えます。
ランチタイムコンサートでトッパンホールにデビューした若手が、リサイタルシリーズやアンサンブルのために帰ってくる──この流れも定着してきました」
2023年4月以降もテノールの宮里直樹(4/6)、ピアノの實川風(7/6)、五十嵐薫子(8/4)が登場する。トッパンホールへまだ出かけたことのない方、この120回を超えるハイクオリティなランチタイムコンサートで、トッパンホールに“デビュー”するのは、いかが。もちろん憧れのトップアーティストが披露する、とっておきのレパートリーに狙いを定めるのが先でも構わない。
“弦のトッパン”が満を持して挑む、常設のクァルテットによらないクァルテットの世界
2023年春のコンサートで目をひくのは「トッパンホールアンサンブルVol.11─ウィーンの街に響いた弦楽四重奏曲」だ(4/25)。“弦のトッパン”が満を持して挑む、常設のクァルテットによらないクァルテットの世界が近づいてきた。
今をときめく周防亮介、NHK交響楽団の猶井悠樹、読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラの柳瀬省太、カルテット・アマービレの笹沼樹という、トッパンホールとは相愛の4人だが、「所属」も個性も異なる面々が奏でるウェーベルン、ベートーヴェン、シューベルトへの期待は、まさに尽きない。
リゲティ生誕100年、バースデーにあわせた2日間のコンサート
西巻「トッパンホールは2023年10月に23周年を迎えます。今は2022/2023シーズンの後半ですが、ジェルジ・リゲティの生誕100年、それもバースデーにあわせた2日間のコンサート<リゲティに感謝を込めて…>に、ぜひお出かけ下さい(5/28、29)。リゲティのスペシャリスト、ピアノのトーマス・ヘルほか、ホルンの福川伸暢、ヴァイオリンの毛利文香、ヴィオラの赤坂智子、クァルテット・インテグラによるリゲティ尽くしのコンサートです。川口成彦がチェンバロを弾くのもいいでしょう?
世界的にも注目を集めるコンサートと自負しています。トーマス・ヘルは『生誕の地ルーマニアでも100歳の誕生日に弾いてほしいと声がかかったのだけれど、エチュード全3巻を弾くトッパンホールを優先したよ』とまで言ってくれました」
クラシック音楽はもっと面白くなる。その面白さをあぶりだし、お客さんと味わい尽くしたい
主催公演は百花繚乱。ピアノの匠ジャン=クロード・ペヌティエの80歳アニヴァーサリー・リサイタル(5/2)、フォルテピアノのクリスティアン・ベザイデンホウトとヴァイオリンの平崎真弓(5/10)、ピアノのアンナ・ヴィニツカヤ(5/31)、森谷真理&大西宇宙のヴェルディ(6/9)、ピアノのベフゾド・アブドゥライモフ(6/13)、ヴァイオリンの山根一仁の無伴奏バッハ(7/20)と、名前をアップするだけでも心躍るが、さらに素晴らしいのはそのプログラム。演奏家の歩み、今、これからを映し出す選曲が惜しげもなく並ぶのだ。
西巻「10月からの新シーズンもどうぞお楽しみに。チャレンジの気持ちを忘れずにやってまいります。クラシック音楽、室内楽はもっと面白くなる——その面白さをあぶりだし、お客さんと味わい尽くしたいです」
トッパンホールはやはり「コンサートホールの中のコンサートホール」である。
[運営]株式会社トッパンホール
[座席数]408席
[オープン]2000年
[住所]〒112-0005 東京都文京区水道1-3-3
[問い合わせ]Tel.03-5840-2222(チケットセンター)
https://www.toppanhall.com/
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