
武満徹没後30年——演奏家たちが語るタケミツ

2026年は、戦後の音楽界を牽引した武満徹がこの世を去ってから30年。彼が遺した音楽は、日本のみならず世界で愛され、演奏され、現在も多くの音楽家たちに影響を与え続けています。
”没後30年”のメモリアルイヤーに、作曲家・武満徹と親しく交流した音楽家たちが語る思い出を、原塁さんの新著『演奏家からみた武満徹 揺れる鏡にうつるもの』からご紹介します。

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
池辺晋一郎 作曲

若いころ僕は武満さんのアシスタントをしていましたが、武満さんはジャズが好きで、六本木や新宿のジャズバーによく連れて行ってもらいました。そこでレコードがかかっていたりすると、武満さんは、口に手を当てて、ミュート・トランペットのアドリブの真似をするわけです。僕も同じ遊びを家でやっていたので、二人で「ゥワ~ン」なんてやっていたら、周りの人たちから「なんだ、あそこの二人は」なんて胡散臭そうな目で見られたことを覚えています。
小川典子 ピアノ

そういえば武満さんは「もっとバタくさい音楽を書きたいと思っているのですが、僕が書くと全部精進料理になってしまうんです」とおっしゃっていました。たしかにドビュッシーの音楽はもっとクリーミーというか、油があって、武満徹の音楽は本当に澄んだ水が流れるようです。水質が違うというか。
リチャード・ストルツマン クラリネット

彼と一緒に初めて食事に行った時のことを覚えています。とても美味しい魚が出ることになっていた。それが生魚で、テーブルに運ばれてた時、まだ生きていたんです。他のみんなは食べ始めたけど、私には無理だったので、店を出て路地に座っていました。すると武満さんが出てきて、こんな風に言いました。「気分を悪くしたならごめん。でも、これも命の一部なんだよ」と。
荘村清志 ギター

当時、武満さんは僕の演奏を色々と聴いて、「荘村くんは楽譜に忠実にきちんと演奏しているのはとても良いけど、もっと旋律に酔いしれて、楽しんで、遊びながら、ギターが弾けると良いね」ということで、〈オーバー・ザ・レインボー〉を編曲してくださったそうなんです。そういう思いがあったことを武満さんが亡くなられた後に浅香さんから伺い、びっくりしました。
福田進一 ギター

武満さんには独自の気質やフィーリングがあって、「この音符はこう表記していますが、この高さで良いんですか」と聞いても「綺麗だったらどっちでも良いよ。綺麗に響く方で」と。「それ、僕が決めてしまって良いんですか」と返しても「うん、決めちゃって良いよ」と。そういう自在さのある方でしたね。
高橋アキ ピアノ

ある時、どこかで武満さんとみんなで飲んでいて、日付が変わってしまったので、秋山* が武満さんを家に呼んで、彼が武満さんにうどんを作ったりしてね。それを武満さんが「美味しい美味しい」と言って食べて、私が運転して東村山のご自宅まで送り届けたなんてこともありましたね。
*高橋アキさんの夫の秋山邦晴氏
工藤重典 フルート

《海へ》を、日本で最初に演奏した時は、音楽の友ホールでした。その時に、武満さんがリハーサルに来てくださり、久しぶりに顔を合わせることになりました。本番だけではなくて、練習から付き合ってくださったのには感動しましたね。
宮田まゆみ 笙

ある時、新宿の紀伊國屋書店の前の歩道で、ばったり武満さんにお会いしたことがあるんです。武満さんは無口なことが多いのかもしれません。私も普段無口で人見知りなので、あまり喋れないんですけど、その日はなんとなく曇り空で、その歩道で出会って「こんにちは」と言った後、何分間も二人で視線をあっちとこっちと雲の彼方にずっと飛ばして、しばらく沈黙が続いていたということがありました。
佐藤紀雄 ギター

武満さんに《樹の曲》について「ギターなんて入れても聞こえないんじゃないですか?」と尋ねたことがありますが、「いや、聞こえるんだ」とおっしゃっていました。そんな風にオーケストラでもよく使われているので、ギターという楽器が本当にお好きだったんだと思います。
ケント・ナガノ 指揮

レセプションは、初演の熱がまだ残っていて賑やかな雰囲気でした。ところが、武満さんはといえば、社交したり、ちょっとした会話を交わすよりも、何か深い考えに沈んでらしたので、庭にご案内することにしました。喧騒や社会的なしがらみから離れ、二人でじっと夕べの長い沈黙を楽しみました。小話や身振り手振りも必要ありませんでした。完璧で、深く、本質的なコミュニケーションでした。
武満徹の没後30年を機に刊行された、世界的に活躍する25名の音楽家へのインタビュー集。
武満作品の初演や録音を行なった演奏家たちに、作曲家本人から伝えられたアドバイスなどをあらためて取材するとともに、氏の晩年や没後に活動を始めた演奏家にも作品との向き合い方や取り組み方を取材。これから武満作品に取り組む演奏家や聴衆へのメッセージも。
気鋭の研究者・原塁氏が、インタビュー・構成・執筆を手掛けた。武満徹の活動やその作品をめぐる12のコラムも読み応え充分。
本書のサブタイトル「揺れる鏡に映るもの」は、武満徹の作品《揺れる鏡の夜明け》から取られている。演奏家それぞれの武満徹像、そして武満作品の演奏に映し出される演奏家の個性や音楽観が、一人ひとりの言葉から立ち現れる。
25名の音楽家
池辺晋一郎 | 作曲
小川典子 | ピアノ
リチャード・ストルツマン | クラリネット
荘村清志 | ギター
福田進一 | ギター
山口恭範 吉原すみれ | 打楽器
高橋アキ | ピアノ
篠﨑史子 | ハープ
横井愼吾 | ヴァイオリン
岡部申之 | テノール
山田 茂 | バリトン
工藤重典 | フルート
宮田まゆみ | 笙
レナード・スラットキン | 指揮
木村茉莉 | ハープ
佐藤紀雄 | ギター
甲斐史子 花田和加子 | ヴァイオリン・ヴィオラ
小泉 浩 | フルート
鈴木大介 | ギター
石川セリ | ヴォーカル
ケント・ナガノ | 指揮
北村朋幹 | ピアノ
山田和樹 | 指揮
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