ベートーヴェンとプロイセン王の偽ダイヤ事件
年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第23回は、「第九」を献呈したお礼にベートーヴェンが受け取った、プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世からのとんでもない贈り物を紹介します。ベートーヴェン、ご立腹!
神戸市外国語大学教授。オーストリア、ウィーン社会文化史を研究、著書に『ウィーン–ブルジョアの時代から世紀末へ』(講談社)、『啓蒙都市ウィーン』(山川出版社)、『ハプス...
あの「第九」のご褒美がまさかの……
《合唱付き》として親しまれる交響曲第9番。その完成稿を、ベートーヴェンは当初、ロシア皇帝アレクサンドル1世に献呈するつもりでいた。
しかし、ウィーンでの初演の翌年に皇帝が死去したため、作曲家は献呈先をプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世に変更。1826年9月、スコア手稿のコピーを王に宛てて送付した。
ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱付き》
ベートーヴェンはプロイセン王の反応をあれこれと予測し、また、音楽出版業者ショットは、王の手元に手稿が届く以前に出版されたスコアが流通しないよう、予約購入者への発送を控えるほどに慎重な対応をとっていた。
スコアを受け取ったフリードリヒ・ヴィルヘルムは、パトロン気取りの口調で返信し、「敬意のしるしとしてブリリアントカットのダイヤモンドの指輪を遣わす」と書き添えた。この一言は、内心、爵位の授与を期待していたベートーヴェンをいたく落胆させることになる。
上:まばゆい輝きを放つブリリアントカットのダイヤモンド
しかも、その後、送られてきた指輪をウィーンの宮廷宝石細工師に鑑定依頼したところ、指輪の石はダイヤどころか、素材のよく知れない「赤っぽい石」であることが判明したのだった。宝石職人はこの指輪の価値をわずか300グルデン(約36,000円)と見積もったが、憤懣(ふんまん)やるかたないベートーヴェンは、得体の知れない貴石をこの職人にすぐさま言い値で売り払ったという。
プロイセン王の誠意を欠いた態度が、晩年のベートーヴェンの心をますます翳(かげ)らせたことに、疑いの余地はないだろう。
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