
文化と光あふれる住宅建築の名作 土浦亀城邸で、体感するシューベルト・プログラム

建築家・土屋亀城(1897–1996)がどのような音楽を、どのような感覚で聴いていたのか。「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」は、昭和初期の住宅建築を代表する名作・土浦亀城邸で、音楽作品を演奏し、対話によって思考を深める、全6回の対話型演奏会シリーズ。
9月16日(水)にひらかれるシリーズ第3回は、「内面としてのロマン派:シューベルト」。今ここでシューベルトを聴く企図を、本演奏会シリーズで総合監修・ナビゲーターを務める、音楽学者の久保田慶一先生に伺いました。

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
建築と音楽を対話で紐解く深い体験
——「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」はどのような演奏会シリーズでしょうか。
久保田 今回の演奏会シリーズのコンセプトは、建築と音楽の接点として、6つの視点から音楽を聴くことにあります。構造、くつろぎ、内面、色彩、均整、素材という視点です。
建築には構造が必要ですが、音楽には楽器、音階、音楽のそれぞれの構造があります。自宅で人々はくつろぎ、音楽を聴いてもくつろぎます。また物思いにふけって自分の内面を見つめるには、静かな空間が必要です。内装の色、全体の均整、素材がそこに住むわれわれの感性を刺激し、また同時に、やすらぎを与えます。
建築と音楽のそれぞれが作る空間を楽しむことが、今回のシリーズの目的です。建物のなかに入って「ここに住んでみたい」、「ここで音楽を聴いてみたい」という願いを叶えてくれる演奏会です。

土浦亀城邸 東京都指定有形文化財(建造物)
建築家・土浦亀城が米国でフランク・ロイド・ライトに学び、帰国後1935年に竣工した自邸。昭和10年代にあって、現代にも通じるような「健康的な楽しい暮らし」をアイデアで実現し、プライバシーのある空間も備えつつ、文化的な仲間との豊かな時間の共有も叶えた。自然光に満ちた、日本のモダニズム木造住宅を代表する名作。また土浦亀城は、バッハから20世紀音楽に至る幅広いジャンルを好み、電蓄で音楽を聴くことがこの住宅で過ごす愉しみのひとつだった。工夫にあふれた建築は見どころが多く、今回のシューベルト・プログラムと相高めあう空間に演奏会への期待が高まる。
【所在地】東京都港区南青山2-5-13
【原設計】土浦亀城・土浦信子
(1935年 品川区上大崎)
【復原・移築設計】 安田アトリエ
【実測調査・実測図面・模型制作】
東京工業大学安田幸一研究室(当時)
——シリーズ第3回「内面としてのロマン派:シューベルト」では、歌曲にも言葉があり、対話にも言葉が生まれますね。言葉の存在、人間の声が持つ魔法をダイレクトに感じられるのではないかと興味深いです。プログラムの意図や聴きどころをお聞かせください。
久保田 今回演奏される歌曲の歌詞はすべてドイツ語です。プログラムには原語の詩は掲載せずに、日本語訳だけにしてあります。
お話のなかで私が強調したいのは、声を楽器の音として聴いてくださいということです。意味を理解する必要はありません。ドイツ語の子音や母音の連続がつくる響きやリズムを、ラップを聴くように楽しんでもらえればいいと思います。ただしキーワードになる言葉の原語はお伝えして、いっしょに発音してもらうつもりです。例えば、小川を意味する「バッハBach」など。
また私のお話では、詩の内容に関連して、聴衆の方々に、ご自身の経験や記憶を辿っていただきます。今回は恋愛に関する歌曲が多いので、若い日のあるいは現在進行中の恋愛、あるいはそこまでいかなくても、子どもや孫への愛情などについて、私から質問をして、ご自身の内面を掘り下げていただきます。そのうえで、歌曲を聴くことで、その経験や記憶と音楽が「化学変化」を起こします。つまり、音楽を「わたくし事」として聴いてもらうのです。こうすることで、音楽を聴くという経験がより深くなっていきます。
例えば、東日本大震災の復興支援歌として知られた「花は咲く」がありますが、その歌を復興支援歌として聴くのと、亡くなられた祖父母の記憶を思いだして聴くのとでは、歌を聴いたときの印象が異なることは想像できますね。「わたくし事」として音楽を聴くということは、そういうことです。音楽はいかようにも聴いていいわけですね。

東京藝術大学大学院修士課程修了。音楽学博士(東京藝術大学大学院)。フライブルク大学、ハンブルク大学、ベルリン自由大学に留学。東京学芸大学教授、国立音楽大学教授・副学長、東京経済大学客員教授を経て、現在、日本大学大学院ならびに放送大学講師。専門は18世紀ドイツ音楽史。『バッハ』(音楽之友社、2021年)他、著書多数。「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」では総合監修・ナビゲーターを務める。
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