森崎ウィンの『蜜蜂と遠雷』出演その後——歌手活動のルーツと両親の教え
音楽家の子ども時代から将来の「音楽のタネ」を見つけるこの連載。
第2回のゲストは、映画『蜜蜂と遠雷』でマサル・カルロス・レヴィ・アナトール役を演じ、クラシック・ファンの間でも人気の高まった俳優で歌手の森崎ウィンさん。森崎さんは他にも、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』で主役のトニーを演じたり、映画『キャッツ』でミストフェリーズ役の吹き替えをされたりと、歌手としての才能を活かした仕事もあります。
10歳までミャンマーで過ごしたという子ども時代から日本でのデビュー、そして現在まで、森崎さんの「タネ」を探りました。
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...
本格的に音楽に目覚めたのは十代のとき
森崎 幼少時代は、ミャンマーのヤンゴンで祖母と暮らしていました。祖母は英語教室を開いていて、そこで英語の歌を流したり時には自分で歌ったりもしていたので、自然に洋楽に親しんでいました。10歳で日本の両親の元に来て、中学2年生の時にスカウトされて現在の事務所に。そこからダンスや演技のレッスンが始まったんですが、最初は部活動の延長みたいな感覚でしたね。
2008年、高校2年生のときにドラマで俳優デビュー。同時に、ダンスボーカルユニット「PRIZMAX」のメンバーとしても活動をスタートさせます。
森崎 メンバーのひとりがすごく音楽好きで、いろいろなアーティストを教えてくれたりして影響を受けました。そんな中で好きになったのがコブクロさんで、彼らの曲を弾き語りしたいと思ってギターを始めました。 そのうちに“あれ、このコード、別のメロディもハマる”とか“ここってこんなキックを使ってるんだ”とか面白い気づきがたくさんあって、自然に自分でも曲を作るようになっていました。
実際に「表現する」立場になってから意識的に音楽を聴くようになったという森崎さんですが、作曲は完全に独学、ギターやピアノ、コンピューターを使って作曲しているそうです。その後2020年3月に「PRIZMAX」が解散。そして8月には、「MORISAKI WIN」名義で1st EP「PARADE」をリリース、ソロ歌手としてのメジャー・デビューを果たしています。
「クラシック沼」の手前まで来ている?
私たちクラシック・ファンにとっては、2019年公開の映画『蜜蜂と遠雷』のイメージが強くて、もしかしてあのマサル役からクラシックが好きになったりして…とほのかな期待を抱いていたのですが……。
森崎 マサルを演じていた時には、それまで堅苦しいと思っていたクラシックだけれど意外に身近なものだな、と感じていたんですが、その身近さがその後ずっと続いていたかと言われるとそれはないんですよね(苦笑)。クラシックって、1曲の中に起承転結があるので、やっぱり優雅で余裕のある人の音楽だと思うんです。僕はとにかく“前へ、前へ”とガツガツ行くタイプなんで、あんまり優雅な時間が持てなくて……。
それでも音楽は好きなので、移動中に聴いたりしています。あ、そうだ! そういえばこの間、移動中に“今日は余裕が欲しいな”と思ってSpotifyでクラシックのプレイリストを流したんですよね。どれだったかな……。
そう言いながら、スマホでSpotifyのプレイリストを探し始める森崎さん。すると、ありました! その名も「Morning Classical」。
森崎 1曲が長いのもクラシックが苦手なところなんですが、これなんか1曲2、3分で聴きやすいな……。それと、部分部分ではポップスにつながるようなキャッチーなものがあって、そこだけ取り出してリピートして聴いていたいって思います。
実は筆者も、あまりに長い曲は苦手(こんな仕事ですが)。それに「キャッチーなところを繋いでエンドレスで聴きたい」気持ちも、ものすごくよくわかります! ということでしばし、「クラシックを気軽に聴く方法」をあーでもない、こーでもないと話していると、森崎さんから意外な一言が飛び出しました。
森崎 僕が唯一好きなクラシックの曲があるんですよ! これです(とハミングで歌い始める)。
森崎さん、それはポール・モーリアの「恋はみずいろ」で、かつては「セミ・クラシック」などと呼ばれたジャンルなんですが、なぜそんな古い曲を……。
森崎 あー、これクラシックじゃないのかー、残念(笑)あと、ディズニーやジブリのクラシックやジャズのアレンジとかもよく聴くんですが…….。
伺っていると森崎さん、クラシックの沼の入り口まであと少し、というところまで来ている感じがしてなりません。ミュージカルに出演したときには「オペラはミュージカルの元になっている」ということを知り、いつかはオペラを観に行く機会を作りたい、とも語っていたので、何か策を考えて森崎さんをクラシック沼に落とす……じゃなくて、クラシックを好きになってもらうための良い計画を一同で考えていきたいと思います(笑)。
両親から受け取った、大切なメッセージ
30歳でソロ・アーティストとしてデビューし、「やりたいことをやるためには、やらなければならないことを誠実にやっていくことが大事だとわかった」と語る森崎さんですが、芸能界に入ってしばらくは、本当に自分がこの仕事に向いているのか半信半疑だったそうです。
森崎 本当にこの仕事で食べていく、という気持ちが固まったのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』(2018年)に出演したときですね。このとき初めて、“お前はここでやっていっていいんだよ”と言われた気がして、何があってもこの世界で食っていくという決意が固まりました。
当初は芸能界入りを反対していたご両親ですが、今はミャンマーから日本に連れて来てくれたことを両親に感謝している、と語る森崎さん。それは、日本の、しかも東京という大都市に住むことで、視野を大きく広げることができたからだそうです。
森崎 両親はとても厳しい人で、特に母からはいろいろなことを教えてもらったな、と思います。今でもよく覚えているのは、“ごめんなさい、ありがとうは言えるのが当たり前。言うタイミングを間違えないようにしなさい”という言葉。人との関係を築いていく上で相手のことをよく見て、考えなければいけないという教えは、今の仕事を続けていくためにも大切だなと感じています。
やんちゃで「自分が世界の中心」という子どもだった森崎さんが、世界に目を開くきっかけとなったのは、やはりご両親の存在が大きかったようです。
アンテナをたくさん立てていれば「楽しいこと」が「見つかる」。そうして見つけた「楽しいこと」を大事にするのが何よりも大切だという森崎さんだからこそ、芝居に音楽にと多彩な活動を続けることができるのかな、と思ったインタビューでした。そしていつか是非! オペラ劇場にお連れしたいと思います(笑)。
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