「ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》ニ短調」——頻繁に現れる十字架の音形
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
頻繁に現れる十字架の音形「ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》ニ短調」
「3つのピアノ・ソナタop.31」の2曲目。通称《テンペスト》と呼ばれるこの曲。作品の解釈を尋ねた弟子のアントン・シンドラーに「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」とベートーヴェンが語った、という逸話からついた通称ですが、信憑性が疑問視されています。
小山 (第1楽章について)その後につづくもうひとつの主題にクロイツ音型(十字架音型)、「ラ-ソ♯-ラ-シ♭-ラ」が出ているのも特徴的ですね。「ハイリゲンシュタットの遺書」の時期にこういう音型が使われているということは、そこにベートーヴェンは何某かの意味を込めていたのではないかと思ってしまうのですが。
平野 第2楽章にもクロイツ音型が出てくるのですよ。ターン(主要音を取り囲むように動く装飾音。たとえばターン記号がついている音がドの場合、「レドシド」などと奏する)がとても多いのですが、ターンも一種のクロイツ音型ですからね。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ「傑作の森」への道のり』(音楽之友社)118ページより
クロイツ(十字架)の音型は、バロック時代によく使われていました。最初と最後の音が同じ近接する4音の組み合わせによって、4つの分枝をもつ十字架を表します。今回の音源では第1楽章の0’54秒頃から現れます。
また、この作品は平野さんによれば調性関係などから、ベートーヴェンがカデンツァ(本来演奏者によって即興される部分)を作曲するほど好んだ、モーツァルトの「ピアノ協奏曲第20番 ニ短調」からの影響があったかもしれないとのこと。ベートーヴェン版カデンツァの演奏で併せて聴いてみましょう。
「ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調《テンペスト》」Op.31-2
作曲年代:1802年(ベートーヴェン32歳)
出版:1803年4月ネーゲリ社、同年6月ジムロック社
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