「ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調《皇帝》第1楽章」——作風をも変えたトラウマと忍び寄る難聴
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
作風をも変えたトラウマと忍び寄る難聴「ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調《皇帝)第1楽章」
今日と明日ご紹介するのは、早くもベートーヴェン最後のピアノ協奏曲。冒頭のピアノのアルペジオは、さまざまな場所で耳にする第5番《皇帝》です。この作品はどんな時期に作曲されたのでしょうか。
フランス軍占領下という世情不安定な1809年であったが、いわゆる「傑作の森」と呼ばれる爆発的創作期を締めくくるに相応しい傑作が順調に書き上げられていた。そうした中で春に完成させたピアノ協奏曲第5番では、協奏曲の醍醐味のひとつであるソリストの自由即興によるカデンツァ部を設定しないという新しいスタイルを打ち出していた。これまでは完成したピアノ協奏曲は自らソリストとして早々に初演していたのだが、この作品の初演は完成から2年半以上あとのことになる。その理由には少なからず前年暮れのアカデミーでの演奏中断という失敗のトラウマと、その原因が難聴にあるということの自覚があった。もはやベートーヴェンの聴覚は、合奏アンサンブルで他人のパートに合わせることが困難なまでに衰えていた。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)110ページより
ここで言う前年暮れのアカデミーとは、以前ご紹介した「ピアノ、合唱と管弦楽のための幻想曲」op.80を披露した演奏会のことです。このときの経験と彼の難聴は、今までの作曲スタイルを変えてしまうほどの影響力をもっていました。具体的にどのような作品に仕上がったのかは明日、第2、3楽章とともにご紹介します。
「ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調《皇帝》」Op.73
作曲年代:1809年(ベートーヴェン38歳)
初演:1811年11月28日
出版:1811年2月ブライトコップフ&ヘルテル社(ライプツィヒ)
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