「ピアノ・ソナタ第25番 ト長調《カッコウ》」——好きな人へ贈った易しいソナチネ
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
好きな人へ贈った易しいソナチネ「ピアノ・ソナタ第25番 ト長調《カッコウ》」
1810年、ベートーヴェンはテレーゼ・フォン・マルファッティ嬢に恋心を抱いていました。本日ご紹介するピアノ・ソナタは、彼女に贈った作品です。
4月に書かれたと思われるグライヒェンシュタインへの手紙、というより使い走りに手渡された伝言メモのようなもの(BB436)に「ここにテレーゼと約束したSがある。しかし、僕は今日は彼女に会えないので、それを君から渡してほしいのだ。みなさんに僕からよろしくと伝えてほしい。僕は彼女たちと一緒にいるときが大変に気分がよいのだ」と書いている。ここにある「S」とはソナタのことであり、おそらく前年夏の短期間に作曲していた《易しいソナチネ》と表記されたピアノ・ソナタ「ト長調」作品79であろう。同じころに作曲されたピアノ・ソナタ「嬰ヘ長調」作品78ではない。「嬰ヘ長調」には《テレーゼ・ソナタ》の愛称があるが、こちらのテレーゼはテレーゼ・フォン・ブルンスヴィク、つまり、ヨゼフィーネの姉のことである。テレーゼ・フォン・マルファッティのピアノ演奏の技量では《カッコウ・ソナタ》の愛称で呼ばれる「ト長調」ソナタ——ベートーヴェンは「ソナチネ・ファチーレ(易しいソナチネ)」と呼んだ——こそテレーゼに約束した「S」に違いない。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)115ページより
ベートーヴェンの親友であるグライヒェンシュタインは、テレーゼ・フォン・マルファッティの妹と交際していました。彼がきっかけとなってテレーゼと出会うことになったのです。
手紙の内容や、「易しいソナチネ」と呼んでいた作品を贈ったことから、ベートーヴェンの彼女を想う心の内が窺えますね。
ちなみに今日のテレーゼは、昨日ご紹介したピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調《テレーゼ》の献呈者テレーゼ・フォン・ブルンスヴィックとは別人です。
「ピアノ・ソナタ第25番 ト長調《カッコウ》」Op.79
作曲年代:1809年(ベートーヴェン38歳)
出版:1810年11月ブライトコップフ&ヘルテル社
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