「弦楽四重奏第10番 変ホ長調《ハープ》」——ウィーン占領に苦しむなか書かれた作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ウィーン占領に苦しむなか書かれた作品「弦楽四重奏第10番 変ホ長調《ハープ》」
フランス軍による占領期間中は、町のいたるところを横行するフランス兵と行き交うことすら耐えがたく、ベートーヴェンは自由な散歩に出かけられなかった。大自然の中を散歩することを好み、散歩中に浮かんでくる楽想をポケットスケッチ帳に書きとめるのが習慣だったベートーヴェンにとって、これは精神的に大きな苦痛であった。7月26日にブライトコップフ・ウント・ヘルテル社に宛てた手紙(BB392)には「私にとってどうしても欠くことのできない田舎暮らしをいまだに楽しむことができない状況です」と述べている。それでもこの夏には新たに弦楽四重奏曲「変ホ長調」作品74(愛称《ハープ》)やピアノ・ソナタ《告別》と、《ソナチネ・ファチーレ(易しいソナチネ)》という表題によるピアノ・ソナタ「ト長調」作品79の作曲を進めている。
作品74の「変ホ長調」四重奏曲は、第1楽章の両主題間の移行句に置かれたピツィカート奏の8小節のもつハープのような響きから《ハープ》の愛称で知られている。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)110、228ページより
フランス兵によるウィーンの占領は、出版社に手紙で嘆くほどベートーヴェンの作曲活動にとって大きな壁だったようです。思うように作曲が進められない中、3作品がこの時期に書き上げられました。
「弦楽四重奏第10番」が《ハープ》と呼ばれる由縁となった第1楽章。どんな風にピツィカートが響くのか、注目してみてください。
「弦楽四重奏第10番 変ホ長調《ハープ》」Op.74
作曲年代:1809年夏〜秋(ベートーヴェン38歳)
出版:1810年11月ブライトコップフ&ヘルテル社(ライプツィヒ)
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