「ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い《戦争交響曲》」——当時の超人気作品! しかし作品をめぐってトラブル発生
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
当時の超人気作品! しかし作品をめぐってトラブル発生「ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い《戦争交響曲》」
9月中には《ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い》作品91
(通称《戦争交響曲》)の作曲に着手した。一方、10月13日付の『ウィーン祖国新聞』にメルツェル発明のクロノメーターに関する記事が掲載され、ベートーヴェンを含む数人の有力な作曲家たちの称賛の言葉が紹介されている。メルツェルはイギリス旅行の旅費を捻出するために、パンハルモニコンで自動演奏させるための《ウェリントンの勝利》を、オーケストラでも演奏できるようにパート譜作成を勧める。
クロノメーターとは1分間の拍数を測定できる機械のことで、パンハルモニコンは自動演奏できる楽器のことです。ウェリントン率いるイギリス軍がフランス軍に勝利した様子を描く《ウェリントンの勝利》は、これらを発明したメルツェルがベートーヴェンに依頼した自動演奏用の作品だったのです。オーケストラ版が初めて演奏されたのは、1813年12月8日の戦没傷病兵救済チャリティー・コンサートでした。「交響曲第7番 イ長調」作品92との同時公開初演がメインとなったこの演奏会は大成功を収めました。しかし《ウェリントンの勝利》をめぐって、ベートーヴェンとメルツェルの間にトラブルが発生してしまうのです。
作曲の契機はメルツェル考案の自動演奏装置パンハルモニコンのための音楽であり、メルツェルからの委嘱作品ではあったが、オーケストラ演奏パート譜まで作成したベートーヴェンは作品の所有権を主張し、メルツェルの所有権を拒否したのである。こうした対立の中メルツェルはベートーヴェンに無断でオーケストラ・パート譜を作成したウィーンを離れ、ミュンヘンで3月16日と17日に《ウェリントンの勝利》をメイン・プログラムとする演奏会を開き相当の収入を得る。この情報を伝え聴いたベートーヴェンはメルツェルを告訴する一方で、急遽この作品の浄書スコアを作成してイギリスの摂政皇太子に献呈し、メルツェルがイギリスで勝手にこの作品を演奏できなくさせた。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)138、140ページより
演奏するたびに聴衆を熱狂させた《ウェリントンの勝利》。超人気作品であったが故に、所有権争いが起きてしまったのでしょうか。
「ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い《戦争交響曲》」Op.91
作曲年代:1813年(ベートーヴェン42歳)
初演:1813年12月8日
出版:1816年2月アルタリア社(ウィーン)、他国内外16都市で出版
交響曲第7番と同時初演
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