音楽関係者も必見! 映画『カメラを止めるな!』の衝撃
たった2館の上映からはじまって、話題が話題を呼び、社会現象にまでなっている映画『カメラを止めるな!』
ほぼ新人監督に、ほぼ無名俳優が出演する、制作費300万円のこの映画の、どこに人々を熱狂させるパワーが秘められているのか......? すっかりこの映画に魅了された一人、林田直樹が読み解きます!
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
※ネタバレを若干含む内容です。未見の方はご注意ください。
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ゾンビ映画なんて、一生観ないだろうと思っていた。
そもそもホラー系は大の苦手である。血がドバドバ流れたり、首や手がちぎれ飛んだりするような、心臓に良くない悪趣味な映画は、そういう専門家(?)に任せておけばよいと思っていた。
ところが、巷でのあまりの評判に、何の前知識もなく、たまたま足を運んでみて、あまりの面白さに衝撃を受けた。
ゾンビの襲撃に震え上がったあとに、両目から涙が滲むくらいに、笑い転げた。
こんなに腹の底から笑ったのは、一体何十年ぶりだろうか、というくらいに。
終わってみればすっかりこの映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が好きになり、ネットオークションでパンフレットやTシャツを買いこむほどのファンになってしまった。
ちなみに、トップの写真は、私がプレゼンターをつとめるクラシック専門インターネットラジオOTTAVAの天王洲スタジオで撮影したもの。番組のなかでも「カメラを止めるな!」についてTシャツを着ながら紹介したほどである。
なぜそんなことをするのか。
自分も「カメラを止めるな!」のコンセプトに賛同であり、少しでもこの素敵な制作チームの仲間になりたいという気持ちになったからだ。
ああ、クラウドファンディングに参加しておけば良かった。
ほぼ新人監督、ほぼ無名の俳優たち。
制作費はたったの300万円——そのうち半分ほどは、ネット上で呼び掛けて集めた、すなわちクラウドファンディングでやっと調達したお金なのだ。(プラットフォームはラ・フォル・ジュルネやOTTAVAが使っているのと同じモーション・ギャラリーである)
6月23日に映画を公開したときは、2館での上映がスタートだった。カネのかかったメディアでの展開、プロモーションなど皆無だったことだろう。商業映画とはとても言えるレベルではなかった。
それが、この夏あれよあれよという間に、「ネタバレ厳禁」の共通ルールのうちに、SNSを中心に自然発生的に口コミが広がっていき、いまや全都道府県で200館以上もの大規模ロードショーとなり、その勢いはとどまるところを知らない。
NHKをはじめテレビ各局でのニュースでも取り上げられ、芸能人や映画評論家の相次ぐ賞賛コメントも手伝って、もはや社会現象と化している。
大ヒット作につきものの“著作権侵害疑惑”騒動も、一種の便乗商売とみていいだろう。
感染拡大(パンデミック)と、映画の中でのキーワード「ポン!」をひっかけた「ポンデミック」という新語も登場した。ちなみにSNSでのハッシュタグは「#カメ止め」である。
とにかく、映画館に足を運んでみて、その大盛況ぶりに驚いた。私の知る限り、最近のどんなメジャーな映画よりも、客席がぎっしり埋まっていて、しかも上映中の客席の湧き方が半端ない。
*
なぜ、ここまで「カメラを止めるな!」が受けているのか?
ファンの一人として思うのは、この映画には、汗と血と涙を流し、泥にまみれながらも、不器用でも必死に生きている、あらゆるジャンルのクリエイターたちに対するエールが感じられるのだ。
あなたには経験はないだろうか?
プロデューサーやクライアント、上司や雇用者から無理難題を押し付けられたことが。現場で働く者としての良識を踏みにじられ、上からの命令にも機嫌よく従い、理想や誇りを捨て、ものわかりよく自粛し忖度し、妥協に妥協を重ねなければいけなかったことが。
もっともリスクを取らない人々が、要領のいい人々が、もっとも多くのカネを手にする。もっとも泥にまみれて、ボロボロになりながら頑張っている不器用な人々が、もっとも安いギャラしか手にしていない。
そんな現実に直面したことはないだろうか?
しかし、言うまでもない。本当に輝いているのは、称えられるべきなのは、額に汗して現場で格闘している者たちなのである。「カメラを止めるな!」が多くの人々から共感を呼んでいる理由のひとつが、まさにそういう現代的問題に触れているからでもある。
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もうひとつ大切なことは、この映画が、ある物事を表側と裏側から見たときに、これほどまでに正反対の意味を持ちうるのか、ということを鮮やかに示している点である。
映像作品のみならず、ニュースで報道されるような画面すべてにも共通の、そつのない予定調和。もっともらしさ。うすっぺらで見え透いた「感動」の作り物。嘘。そういったものに対する、強烈なカウンターパンチがここにはある
それは、クラシックでもロックでもジャズでも、等しく音楽にとって重要なテーマでもある。
この世の中に氾濫するあらゆるニセモノに対して苛立ちを覚えている人こそ観るべき、ライヴでリアルな映画だ。
これを、ただのゾンビ映画として遠ざけることほど、もったいないことはない。
全国90館以上で絶賛上映中
とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる! 大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。
”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話。
監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山﨑俊太郎 大沢真一郎 竹原芳子 浅森咲希奈 吉田美紀 合田純奈 秋山ゆずき
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