レポート
2026.07.13
海外クラシックNEWS~from イタリア

モンテヴェルディ・フェスティヴァルで《ポッペアの戴冠》 当時のスタイルを再現

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は6月のイタリアの音楽シーンから、オペラと音楽祭のレポートをお届けします。

野田和哉 Kazuya Noda
野田和哉 Kazuya Noda

東京生まれ。明治大学文学部を卒業後、1983年からイタリア在住、ピアチェンツァのG・ニコリーニ音楽院声楽科を卒業。30年以上前に『音楽の友』への執筆を始め、現在にいた...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

クレモナのモンテヴェルディ・フェスティヴァルで上演された《ポッペアの戴冠》から。左端がポッペアを歌ったベネデッタ・トッレ ©Lorenzo Gorini

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毎年6月にクレモナで開催されるモンテヴェルディ・フェスティヴァルは、第43回となる今年も意欲的なプログラムで多くのファンを魅了した。

同市内のポンキエッリ劇場のほか、いくつかの教会が会場となるが、5月28日にはその前祝いともいうべき、チェチーリア・バルトリのリサイタルが行われた。彼女は周知のとおり現在のバロックの最高峰ともいえるメゾソプラノで、このフェスティヴァルに登場するのも初めてではない。

筆者はこのリサイタルには行っていないが、6月20日にポンキエッリ劇場で上演された《ポッペアの戴冠》を鑑賞することができた。13日の初日と20日の2回しか上演されなかったのはもったいない気もしたが、ほかにも様々なイヴェントが短期間に開催されていることを思えば、これ以上を望むのは無理だと納得する。

ちなみに、オペラだけでも《ポッペアの戴冠》のほかに、マウロ・モンタルベッティ《女帝テオドーラ》という委嘱作品、パーセル《ディドとエネアス》、フランチェスコ・カヴァッリの没後350周年を記念した《テーティとペレオの結婚》が上演されている。これらがすべてポンキエッリ劇場で上演されるわけではないが、そのほかの会場でコンサートもあるとなれば、クレモナのような中規模都市で、これだけのイヴェントが提供されることに感心せざるを得ない。

《ポッペアの戴冠》の舞台から ©Lorenzo Gorini

さて、筆者が観たプレミエ《ポッペアの戴冠》だが、指揮はポール・アグニュー、オーケストラはレザール・フロリサン、演出はロベルト・カタラーノ。主な出演者はポッペア役がベネデッタ・トッレ、ネローネ役がマーヤン・リヒト、オッターヴィアがマーラ・ガウデンツィ、セネカがフェデリコ・ドメニコ・エラルド・サッキ。登場人物が多いので全員の名を紹介することはしないが、出演者のなかにはカヴァッリ・モンテヴェルディ・コンクールの入賞者もいる。

公演は、歌唱スタイルはもちろんモンテヴェルディの時代のスタイルを再現しているのだが、オーケストラもピリオド楽器を使用したバロック作品を専門にしているだけあって、音楽的には500年以上前の雰囲気に想いをはせたくなる。

とくに主役を演じたトッレは熱演で、カーテンコールでの拍手もひときわ大きかった。ネローネ役のリヒトやセネカ役のサッキも同様に大きな喝采を浴びた。彼らの歌唱を聴きながら、誰かが言っていた、「音楽と台詞の乖離はモンテヴェルディからすでに始まる」という言葉を思い出した。

賛否が分かれた演出

だが演出はまったく違ったインパクトを与える。このオペラの物語は当然紀元1世紀のローマを舞台としているのだが、演出家のカタラーノはそのような具体的な時代や場所の設定を取り払い、一見しただけでは衣裳や舞台装置の意味がわかりにくい。というより、むしろそれらを意図的に排除しているということらしい。そのことによって、ポッペアとネローネの、みずからの情熱に従ってのみ生きようとする試みと、常識、モラル、善悪の対立といった実世界とのコントラストを浮き彫りにしようというのがこの演出の意図だ。

このような演出には常に賛否が分かれるが、正直に言って筆者はついていくのに多少苦労した。ただしこれはあくまで個人の感想であって、公演自体は成功であったといえる。歌手たちはヴェテラン、新人を問わずそれぞれの役をよく演じていたし、オーケストラと歌手の息もよく合っていた。アグニューの指揮は音楽をよどみなく進行させることによって、公演全体にたるみが生じるのを防ぎ、ドラマの緊張を保つのに成功した。

ところで、前述のパーセル《ディドとエネアス》はクレモナ市内ではなく、マントヴァのビビエーナ劇場で、半演奏会形式で上演された。かつてモーツァルトも演奏したことがあるというこの劇場での上演は、このフェスティヴァルに対する支持が広がりつつあることを示しているともいえよう。

野田和哉 Kazuya Noda
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東京生まれ。明治大学文学部を卒業後、1983年からイタリア在住、ピアチェンツァのG・ニコリーニ音楽院声楽科を卒業。30年以上前に『音楽の友』への執筆を始め、現在にいた...

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