レポート
2026.07.12
海外クラシックNEWS~from イギリス

LGBTQ+の作曲家をフィーチャーした音楽祭「クラシカル・プライド」がロンドンで開催 

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は英国・ロンドンの音楽シーンから、6月のイヴェントとコンサートをレポートします。

原田 真帆 Maho Harada
原田 真帆 Maho Harada ヴァイオリニスト・博士(音楽)

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

「クラシカル・プライド」公演から。象徴のレインボーフラッグをステージに掲げた。ヘンリエッテ・ボスマンス「チェロ協奏曲第2番」の見事な演奏を終え、抱き合うラウラ・ファン・デル・ハイデン(vc)と指揮のオリヴァー・ゼフマン(舞台中央) ©Matthew Johnson


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今月のレポートでは「ロンドンの6月」を楽しむにふさわしいと感じたプログラムを二つご紹介したい。

まず6月といえばプライド月間だ。LGBTQ+の権利向上を啓発する世界的な運動で、イギリスでは劇場や美術館、教育機関などで象徴のレインボーフラッグを掲げる。また性的マイノリティのアーティストを特集した催しも多く企画される。

今回筆者が足を運んだのは「クラシカル・プライド」。指揮者のオリヴァー・ゼフマンがキュレーターを務めるこの音楽祭は2023年から毎年実施されており、LGBTQ+の作曲家作品をフィーチャーしている。2026年は4つの演奏会が開かれ、筆者はフィナーレにあたるロンドン交響楽団の公演を聴いた。

最初を飾るのは、今年4月に逝去したマイケル・ティルソン・トーマスが書いた《Agnegram》。ティルソン・トーマスは1988年から95年までロンドン交響楽団の首席指揮者を務めており、同団に縁が深い。続いて、この日が英国初演となったヘンリエッテ・ボスマンス「チェロ協奏曲第2番」。作曲当時パートナーであったチェリストのフリーダ・ベリンファンテに捧げられた作品で、本演奏会ではラウラ・ファン・デル・ハイデンがソリストを務めた。

休憩をはさみ、サミュエル・バーバーの《弦楽のためのアダージョ》、ソプラノと管弦楽のための《ノックスヴィル:1915年の夏》と続く。独唱はフレディ・バレンタイン(T)が美しく担った。

終曲はラヴェル《ボレロ》。プログラム・ノートでは、ラヴェルがゲイであった説の真偽は疑わしいと紹介されていた。チャイコフスキーのように社会的な影響を鑑みて性的指向を公には明かさない人が多いことを思えば、ラヴェルが生涯アイデンティティを隠し続けた可能性も否定できない。かといって、性的指向や性自認はけっして他者が決めつけてはならない。この点で、ラヴェルの作品を堂々とメインに据えるのはやや乱暴な選択のように思ったが、客層を考慮して人気曲を入れたかったのだろうか。

アンコールはロンドン・オリアナ合唱団が登場してオルフ《カルミナ・ブラーナ》の一部を歌唱した。

ふだんのロンドン響の演奏会に比べてさらに若者が多く、客席の盛り上がりはさながらライヴ会場のようだった。多分に偏った視点で言えば、これまでなじみがなかった層にロンドン響がアプローチできるよい機会にも見えた。そしてもちろん、ふだんから西洋クラシック音楽をたしなむ層には「世の中のプログラムの8割近くが亡くなった白人男性の作品(Donne Foundation、2024年)」という不均衡に、気づく機会になってほしいと願う(6月14日、バービカンホール)。

ウィグモア・ホールのアーティスト・イン・レジデンスを務めるハンフリーズが、無伴奏リサイタル

ハンフリーズ(vn)無伴奏リサイタル© Tom Wright/Wigmore Hall
フェネラ・ハンフリーズ(vn)による無伴奏リサイタルから ©Tom Wright/Wigmore Hall

緯度が高めのロンドンの6月は、22時を過ぎても西の空がほの明るい。眩しい夜を楽しむには、ウィグモア・ホールが22時から行うコンサートも選択肢だ。たとえば『音楽の友』2026年8月号でレポートしたオペラ《セルセ》のように、午後7時に始まって10時半までかかる長い演目でも、帰り道が明るいのはうれしい。いっぽう今回のウィグモアは60分構成で、コンパクトに聴けるのがよい。

この日は、今期のアーティスト・イン・レジデンスとして活動するフェネラ・ハンフリーズ(vn)による無伴奏プログラムである。ヴァイオリン1挺で奏でる新旧さまざまなソロ作品の顔ぶれは、以下のとおり:トム・クルト、キャロライン・ショウ、ニコラ・マッテイス、ローレンス・オズボーン、ルイ=ガブリエル・ギユマン、アンナ・ベルグ、ジョージ・エマニュエル・ルイス、ヘンリー・パーセル、サリー・ビーミッシュ、オリヴァー・リース、ヨハン・パウル・フォン・ヴェストホフ、フレイヤ・ウェイリー=コーエン(クルト《Études Ⅶ・Ⅷ》は本公演のために委嘱)

こうして織り交ぜると、パーセルですら新曲に聞こえてくる。ハンフリーズは一度も舞台袖にはけることなく、ひたすら弾き続けた。気候や時間帯も相まって、その姿は神秘的に見えた(6月12日、ウィグモア・ホール)。

原田 真帆 Maho Harada
原田 真帆 Maho Harada ヴァイオリニスト・博士(音楽)

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

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