
ネゼ=セガン指揮METオーケストラ ブルックナー8番でシーズンを締めくくる名演

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はアメリカの音楽シーンから、ニューヨークで行われたコンサートをレポートします。
ヤニック・ネゼ=セガン率いるメトロポリタン歌劇場(MET)の管弦楽団、METオーケストラは、6月のカーネギーホールでの2回のシンフォニー・コンサートで2025〜26年シーズンを締めくくった。
18日のプログラムは、カイヤ・サーリアホ《Lumière et pesanteur》(光と重力)に始まり、マーラー《リュッケルトの詩による5つの歌》と「交響曲第4番」という、声楽をフィーチャーしたMETオーケストラらしいものだった。マーラー両曲でソリストを務めたジョイス・ディドナートは、《リュッケルト》での凝り固まったニュアンス過剰の表現が気になったが、「第4番」ではよりストレートな歌唱で好ましく、いかにも人のよいネゼ=セガンの柔らかに明るくクライマックスを築く指揮に導かれ、シーズン・フィナーレにふさわしい好演となった。
しかしより大きな注目を集めたのは、11日に演奏されたブルックナー「交響曲第8番」のほうだったかもしれない。METの音楽監督に就任して8年となるネゼ=セガンだが、大海原のようにふくよかに捉えられた彼のフレージングは、ブルックナーにある種の緊張感を求める向きには賛否が分かれる可能性があるかもしれない。しかし各セクションの豊かな表現力は、METオーケストラのシンフォニック・シーズンのハイライトと呼ぶにふさわしい好演奏に結実し、全体として抗い難い魅力を放っていた。
来シーズン、METオーケストラはサイモン・ラトルの指揮でブルックナー「交響曲第7番」の演奏を予定しており、今後のシンフォニック・アンサンブルとしての活動にも大いに期待したい。

エリム・チャンがニューヨーク・フィル定期に登場
2027年9月にサンフランシスコ交響楽団の第13代音楽監督就任が発表されたばかりのエリム・チャンが、同発表のタイミングにあわせたかのごとく、ニューヨーク・フィルハーモニックの定期演奏会とパークコンサートにあいついで登場した。
5月末の定期では、冒頭で小出稚子《揺籠と糸引き雨》(2022年)のニューヨーク初演が行われ、チャンはそのデリケートなディテールを精緻かつ繊細に構築し、上々の滑り出しを聴かせた。続くサン=サーンス「チェロ協奏曲第1番」では、今シーズン限りで引退するニューヨーク・フィルの首席チェロ奏者、カーター・ブレイの豊かな音色が際立ち、オーケストラ・メンバーの演奏も、彼の引退へのはなむけとしてふさわしい一体感を示した。チャン自身のアレンジによるプロコフィエフ「《シンデレラ》組曲」でも、彼女の明晰な統率力が感じられた。
6月に開かれた無料のパークコンサートでは、再びカーター・ブレイをソリストにしたサン=サーンス「チェロ協奏曲第1番」からラヴェル《ボレロ》まで、ポピュラーな作品が並び、大きな喝采を浴びた。また、ニューヨーク・フィルの子供のための作曲教室から生まれた作品の演奏では、子供たちを紹介するチャンのトークも堂に入ったものだった。一つ気になったのは、プロコフィエフにしてもラヴェルにしても、旋律が少々スリムで呼吸が浅めというか、ドライに感じられたことだ。
サンフランシスコ響がアジア人を音楽監督に迎えるのは、1970年代の小澤征爾以来のことである。創立115周年を迎える同響にとって、チャンは初の女性音楽監督としても注目されている。その期待に応えてくれることを、切に願いたい(定期:5月30日デーヴィッド・ゲッフェン・ホール、パークコンサート:6月9日ヴァン・コートランド・パーク)。
トランプ大統領の関与で混乱が続くケネディ・センター
最後に、ドナルド・トランプ大統領の気まぐれによって混乱が続くワシントンDCのケネディ・センターについて触れておきたい。6月13日、同センターは連邦判事の命令に従い、昨年12月から掲げられた「ドナルド・J・トランプ」の名称をファサードから外した。ちなみに同センターには、作業完了のために12時間の命令遂行期限の延長が認められていたという。
トランプ大統領主導で同センターは改装のために7月4日以降2年間の閉鎖を予定しているが、連邦判事の命令は改修工事中もセンター運営の継続を求めている。しかし、同大統領関与後に急落したチケット売上、アーティストのあいつぐキャンセルや撤退、スタッフの解雇などにより、名称撤去だけでは修復不可能なダメージがすでに生じているともいわれ、今後の動向が注目されている。





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