R.シュトラウスのオペラ《薔薇の騎士》が献呈されたプショル家が作るヘレスビール
京都産業大学外国語学部助教。専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究し、ドイツ・カッセル大学で博士号(哲学)を取得。ドイツ音楽と...
オペラ《薔薇の騎士》は、リヒャルト・シュトラウスと詩人H.v.ホーフマンスタールの協力によって生まれた。新興貴族の台頭やハプスブルク帝国の衰退を描いており、第一次世界大戦や8年後の帝国の解体を予見するかのような、当時の社会を映す鏡とも言える作品だ。
《薔薇の騎士》の総譜には、「愛する親族、ミュンヘンのプショル家に捧ぐ」と記されている。
「リヒャルト・シュトラウスの叔父さんが描かれたビール」で紹介したように、R.シュトラウスは幼少期をビール醸造所を営むプショル家で過ごし、その後も支援を受けていたからだ。
彼の創作活動に、プショル家の存在が大きく関わっていることがわかる。
《薔薇の騎士》は、ドレスデン宮廷歌劇場の音楽監督を務めていたシューフの指揮によって1911年に初演され、大成功を収めた。
19世紀末、ビール造りは冷凍機の発明によって一大産業へと発展した。氷で冷やしながら発酵させることで、雑菌の繁殖を心配することなく、一年中ビールを生産できるようになったからだ。そうして作られたビールは、伝統的な褐色のエールビールと区別され、「ヘレスビール(淡い色のビール)」と呼ばれた。当時はガラス製品が普及した時期でもあり、人々は注がれたビールの黄金色に新たな時代の息吹を感じとったに違いない。
そうした中で、プショル社は冷凍技術を積極的に取り入れ、ヘレスビールの輸出で莫大な富を築いていった。現在のラベルには、同社がいかにミュンヘンの経済発展に貢献したか記されている。
中でも、プショルのヘレスビールは色がかなり薄く、麦の優しい味やレモンのような香りを楽しむことができる。
ビール産業は資本家階級の台頭と切り離せない。それは《薔薇の騎士》の物語にも重なるものがあるのではないだろうか。作曲家は時の移ろいというテーマに鑑み、このオペラをプショル家に献呈したのかもしれない。
ミュンヘンでは、ぜひ《薔薇の騎士》を鑑賞し、続けてプショルのビールを飲みたいものだ。
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