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2023.03.17
音楽ホール 最新事情2023~兵庫県立芸術文化センター

兵庫県立芸術文化センター~「世界一のお客様をお迎えしたい」すべてはそのための活動

兵庫県立芸術文化センターは、世界的な指揮者・佐渡裕が芸術監督を務め、大人気の<プロデュースオペラ>をはじめとしたクラシック音楽の普及と、PACオーケストラ等次世代の育成をミッションにかかげています。お客様と出演者の心理的な距離がとても近いのも魅力。事業部制作担当の木村孝夫さんに、2023年度のラインナップを中心にお話を伺いました。

奥田佳道
奥田佳道 音楽評論家

1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...

兵庫県立芸術文化センターの内観

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大阪梅田、神戸三宮から特急で15分。阪急西宮北口駅前に建つ兵庫県立芸術文化センターで「兵庫芸術文化センター管弦楽団」(通称PACオーケストラ)の定期演奏会を聴くのが好きだ。

もちろん毎回というわけにはいかないが、サイトの告知やリーフレットを眺めては行きたい公演をチェックするようにしている。

PACオーケストラの定期演奏会は金曜土曜日曜の午後3時開演。出かけた際には、阪急西宮北口駅周辺でのランチやお茶も楽しみとなる。

週末にマチネ(お昼のコンサート)3公演。客席を見渡すと、オーケストラ・コンサートをいつも支えているご年配の男性ばかりでなく、主婦層、女性のグループも目につく。コロナ禍前の印象で恐縮だが、土日はファミリー層も多かった。もちろんPACオーケストラの芸術監督・佐渡裕の人気ゆえだろうが、従来のクラシック・ファン、オーケストラ好きに加えて新たな聴衆を創ったことがよく分かる光景だった。

 

PACオーケストラは、佐渡裕芸術監督のもと、兵庫県立芸術文化センターと共に創設された専属オーケストラ(撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター)

ちなみに、このオーケストラは関西を代表するプロフェッショナル・オーケストラであると同時に、次世代の演奏家育成を掲げたインターナショナル・オーケストラ・アカデミーとしての顔ももつ。オーディションによって選ばれ、最長で3年在籍するコアメンバーは若く、多国籍だ。ゆえに演奏には独特の活力があり、華やぎも若々しさもコンサートの楽しみとなる。

PACオーケストラは週末の定期演奏会ばかりでなく、多彩なステージや教育プログラムで活躍。毎年人気の「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」を支えるオーケストラでもある。

ホール、オペラ、オーケストラについて、事業部制作担当の木村孝夫さんに、あらためてお話を伺った。

 お話を伺った事業部制作担当の木村孝夫さん(撮影:飯島隆)

千客万来!今年の「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」は《ドン・ジョヴァンニ》

木村「2023年7月の<プロデュースオペラ>はモーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》で、ダ・ポンテ(モーツァルトのオペラの台本作家)三部作がこれで完結します。ダブルキャストで8公演。お楽しみになさってください」

公演は7月14、15、16、17、19、20、22、23日で、すべて午後2時開演。今をときめく内外の精鋭が顔を揃えた。

木村「世界各地から兵庫にやって来るキャスト、スタッフともに素晴らしく、これぞオペラという舞台をお届けできると確信しておりますが、私たちは熱心なオペラ・ファンやリピーターの声にお応えするとともに、初めてオペラをご覧になる方、初めてこのホールにいらしてくださる方も大切にしたいと考えています。

PACオーケストラの定期演奏会のお客様とはまた違うお客様をお迎えできている、との感触もあります。新しいお客様、これからクラシックを楽しみたいなという方、大歓迎です」

<プロデュースオペラ>の千秋楽の様子。舞台と客席が一体となって公演の成功を祝う(撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター)

阪神・淡路大震災の復興のシンボルとして2005年10月にオープンした兵庫県立芸術文化センターは、その名の通り、兵庫県のホールである。

木村「実は兵庫県立芸術文化センターでは、いかなる事業にも普及的な精神が反映されているのです。ホールとまだ出逢っていない方、存在を知らない方もいらっしゃいます。そうした方々にお声がけをする。そしてオペラやオーケストラなどのパフォーミングアーツを好きになっていただく。佐渡監督が常々言っていることですが『世界一のお客様をお迎えしたい』。すべてはそのための活動でもあります」

夏の《ドン・ジョヴァンニ》に向けたハイライトコンサートを県内各地で

夏の《ドン・ジョヴァンニ》に向けて、オペラの聴きどころや名場面を楽しむハイライトコンサート“ええとこどり”県内ツアー)や、オペラをさらに深く愉しむためのイヴェントも用意された。兵庫県立芸術文化センターは、動く。

木村「はい。兵庫県は広いので、各地のホールと協力してオペラの楽しさをお伝えしています。こうしたアウトリーチ的な活動は、県の施設として当然のことでもあります。それぞれの地域の今を知ることができますし、情報も共有できます。

クラシックの生演奏自体が貴重という場所に出かけてゆき、楽しんでいただく。世界的なオペラを制作すると同時に、とても大切なことです」

県内を巡演するハイライトコンサートのほか、マルチな音楽家・根本卓也さん、ジャーナリストとしても通訳としても素敵な井内美香さんによる<ワンコイン・プレ・レクチャー>(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)も控える。題して<ドン・ジョヴァンニ大解剖!~のちの時代にも愛された名曲の数々 生演奏つき>(5/25)、そして<これであなたもドン・ジョヴァンニの虜~アブナイ男ほど魅力的!? 映像つき>(6/16)。

<プロデュースオペラ>の前夜祭の様子。ホール前の公園で行なわれ、地元の中学生吹奏楽部合同バンドを佐渡裕が指揮したり、オペラの聴きどころ解説や、最後には盆踊りまで!「明日からオペラがはじまるぞ!」というお祭り気分を盛り上げる

スーパーキッズ・オーケストラやPACオーケストラから羽ばたいた若手がキャリアを重ね、またホールに戻ってくる

普及、次世代育成をミッションとし、「世界一のお客様をお迎えしたい」(佐渡裕の言葉)という兵庫県立芸術文化センターは、当然、キッズやファミリーに手を差し伸べるコンサートも数多く開催している。その中身がまた濃い。

たとえば<PAC子どものためのオーケストラ・コンサート>(4/22)

木村「70分のプログラムで3歳のお子さんから入場できます。指揮とお話はPACオーケストラレジデント・コンダクターの岩村力で、今年は<とってんたん>(アコーディオン、クラリネット、サクソフォーン、テューバ、タップダンスから成る音楽隊)がゲスト出演します」

宮川彬良&アンサンブル・ベガの<こどもの日スペシャル>(5/5)もこのホールの財産だ。

木村「ただ聴いて楽しい、だけじゃなくてコンサートを身体で感じる、体験していただくのが大切ですよね。影アナウンスたいけんや、ロビーでの楽器たいけん“わくわくコーナー 楽器を弾いてみよう!”もあります。たくさんの子どもたちにホールを知ってほしいです。

キッズと言えば、佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラの活動も2003年からですから早20年です。ここから羽ばたいたキッズ、そしてPACオーケストラでの活動を終えた若手が、演奏家としてのキャリアをさらに重ねてまたホールに帰ってきてくれるのも嬉しいことですね。

私たちは開かれた劇場でありたいと思っています」

普及、次世代育成をミッションとしている兵庫県立芸術文化センター(写真)は、実体験を大切にしたキッズ、ファミリー向けのコンサートも多彩
兵庫県立芸術文化センター

[運営](公財)兵庫県芸術文化協会

[座席数]KOBELCO 大ホール2001席、阪急  中ホール800席、神戸女学院 小ホール417席

[オープン]2005年

[住所]〒663-8204兵庫県西宮市高松町2-22

[問い合わせ]Tel.0798‐68-0255(チケットオフィス)

https://www.gcenter-hyogo.jp/

奥田佳道
奥田佳道 音楽評論家

1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...

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