大河ドラマ『鎌倉殿の13人』新世界を切り開く冬の時代を示すクラシック音楽
映画やドラマをよりドラマチックに盛り上げているクラシック音楽を紹介する連載。
第13回は、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。エバン・コールの手がける音楽の随所に現れるドヴォルザークやヴィヴァルディの音楽は、未来を切り開く若武者・北条義時の姿にどうマッチしているのか?
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
野心のない青年の「新世界」を表すドヴォルザークの音楽
源頼朝の開いた鎌倉幕府の二代執権・北条義時(小栗旬)を主人公に、平安末期からの激動の時代を描くNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。若くまっすぐな瞳を持つ青年・義時が、鎌倉内外の荒波に揉まれながら武家の頂点になっていくさまが描かれる。
「こんなはずではなかった」。若き義時は、そう思ったに違いない。平氏の治める世の中に対し、特に疑問を持つこともなく、穏やかな暮らしに満足していた。しかし、「平氏を滅ぼす」と怨念にも近い意志を持った流人の源頼朝(大泉洋)が突然現れ、不本意にも彼をかくまうことに。
野心の「や」の字も持たない彼が、今後どうして権力者に成り上がっていくのか。それはこの後のストーリーに任せることにする。その変貌の始まりにふさわしいタイミングで、エバン・コールの手がけた音楽からドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》が聴こえたことで、その期待が高まった。頼朝が逃げる手助けをし、初めて「味方」になった瞬間のことだ。
《新世界より》は、ドヴォルザークが故郷のチェコからアメリカに渡り、ニューヨーク・ナショナル音楽院の院長を務めた時期に書かれた。ドヴォルザークにとっての「新世界」とは、アメリカのことだ。急成長する巨大国家、魅力的な黒人の音楽。その地にインスパイアされたドヴォルザークは、ボヘミアならではの語法と融合させ、作品を残した。《新世界より》だけでなく、彼はこの地でチェロ協奏曲や弦楽四重奏曲第12番《アメリカ》などの名曲も同時に残している。
そこで新たな音楽を生み出したドヴォルザークの姿に、義時を重ねる。「平清盛の首をとる」と高らかに叫ぶ頼朝や、「坂東武者の世の頂点に、北条が立つ。そのためには頼朝が必要なのだ」と言い遺した亡き兄・宗時(片岡愛之助)の意志をベースに切り拓かれる「新世界」に、挑む義時。まさに《新世界より》がふさわしいことがわかる。
ヴィヴァルディ〈冬〉でわかる源氏と北条家の歩み
『鎌倉殿の13人』には、ほかにもクラシック音楽が登場する。例えば、ヴィヴァルディの《四季》より〈冬〉第1楽章だ。
寒さに凍える人々の足跡を示すトゥッティの刻みや、悲鳴のようなヴァイオリンソロ。夫が妾をかくまっていることに気づいた北条政子(小池栄子)の声とも重なるし、万が一の戦いに備えて、木曽義仲(青木崇高)が息子の源義高(市川染五郎)を人質として差し出すことを決意するシーンでも映えている。まさか、平安時代末期を描く物語に、ヨーロッパのバロック音楽が似合うとは。源氏にとっても北条家にとっても、ある意味「冬」の時代を歩んでいることがわかる。
エバン・コールの音楽は、クラシック音楽を抜きにしても、物語の奥行きをさらに深めてくれる魅力がある。三谷幸喜の脚本ならではのコミカルさを引き立てることはもちろん、目を背けたくなるようなおどろおどろしい人間模様をよりシリアスにも見せる。ますますヘビーさを増してきた『鎌倉殿の13人』。音楽は物語をいかに引き立てるのか。さらなるクラシック音楽の登場も期待したい。
放送:
総合:毎週日曜 20:00~
BSプレミアム・BS4K:毎週日曜 18:00~
音楽:エバン・コール
脚本:三谷幸喜
主演:小栗旬
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
制作:NHK
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