読みもの
2020.12.04
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第38話

多才なホフマンが短編小説で描いた、ヴァイオリンづくりを趣味とする男

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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先日、11月のチャレンジ企画の取材でヴァイオリン工房に行って、思い出した話があります。

ドイツ、ロマン派の作家、E.T.A.ホフマンの短編小説「クレスペル顧問官」です。これは、オッフェンバックのオペラ《ホフマン物語》の一部のベースにもなっている作品。

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オペラ《ホフマン物語》の主人公は、詩人であるホフマン本人。人形のオランピア、歌姫アントニア、娼婦ジュリエッタへの失恋を回想し、今思いを寄せる相手、歌姫のステラにも去られてしまうという物語。

その第3幕で、2人目の歌姫のエピソードのベースになっているのが、短編小説「クレスペル顧問官」です(オペラではエッセンスだけが用いられていて、ストーリーは別もの)。

新国立劇場のダイジェスト映像より、オッフェンバックのオペラ《ホフマン物語》(2013年)

小説のほうは、ある男が知り合った、奇妙だけれど人々から親しまれているクレスペル顧問官と、美しい歌声を持つらしいが表にほとんど姿を現さない、娘アントーニエをめぐる物語。

この娘の運命が話のメインではありますが、クレスペル顧問官はヴァイオリンづくりを趣味としている男ということで、楽器についての描写もおもしろいのです。彼は自分のヴァイオリンづくりの研究のため、アマティなどの名器を収集しては、一度だけ弾くと、“何か”を探して解体してしまうという。

先日、取材先の楽器工房で、ヴァイオリンに魅せられた職人さんたちにまつわるお話を聞いていたら、この話を思い出したのでした。

E.T.A.ホフマンは多才な人で、作家、法律家、画家、そして作曲家でもありました。なかでも音楽家としての成功は、彼にとってもっとも大きな夢だったとか。

本名は、エルンスト・テオドール・ヴィルヘルム・ホフマン(E.T.W.ホフマン)。しかし、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトに傾倒するあまり、ヴィルヘルムの部分を「アマデウス」に置き換えたE.T.A.ホフマンを通名としていたそうです。

作家としてのキャリアも、音楽批評から派生して築き上げたもの。彼の文学作品に音楽にまつわるものが散見されるのは、そのためです。

ホフマンが創造した楽長の話「クライスレリアーナ(クライスラー楽長)」が、シューマンのピアノ曲「クライスレリアーナ」のもととなっていることは、よく知られています。

ホフマンの小説は、ホラー要素もありながら、ファンタジーとユーモアにあふれた作品ばかり。読んでみると、同時代のロマン派の音楽との結びつきも感じられます。

ホフマンがスケッチしたヨハネス・クライスラー楽長。ホフマンの分身である不機嫌な作曲家で、彼の小説や音楽評論に登場する。

シューマンのピアノ曲「クライスレリアーナ」

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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