プレスラー追っかけ記 No.15<推薦盤:その2>
94歳の伝説的ピアニスト、メナヘム・プレスラー。これは、音楽界の至宝と讃えられる彼の2017年の来日を誰よりも待ちわび、その際の公演に合わせて書籍を訳した瀧川淳さんによる、プレスラー追っかけ記です。
この秋、再び来日をするプレスラーを待ちわびて、CDを聴きながら溢れる想いをしたためた瀧川さんからのオススメ盤を紹介します。
『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』(ウィリアム・ブラウン著)訳者。 音楽教育学者。音楽授業やレッスンで教師が見せるワザの解明を研究のテーマにしている。東京芸術...
(前回からのつづき)
モーツァルトの協奏曲アルバムもあります。
●モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番、第27番(キンボー・イシイ指揮マクデブルク・フィルハーモニー管弦楽団、CAvi Music、4260085533879、2017)
●モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番(2014)、第27番(2012)(パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団)
どちらも同じ曲目の録音(パーヴォ・ヤルヴィ指揮は映像のみ)ですし、最近のライブでも演奏しているようですから、相当に思い入れある作品なのでしょう。
23番の演奏は、このほかにもサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルとのジルベスター・コンサート2014(DVD)があります。
またベルリン・フィルがインターネット上で有料公開している「デジタル・コンサート・ホール」では、セミヨン・ビシュコフの指揮でモーツァルトの17番を演奏しています。
ちなみに、その演奏を聴いたラトルが、プレスラーさんと共演できたビシュコフを羨ましがり、プレスラーさんと共演を約束したことがジルベスター・コンサートにつながった話は有名です。
プレスラーさんの演奏に対する厳しくも愛を感じる姿勢はどの演奏からも感じられるので、私がこれらの録音を聴くときには、オーケストラとの対話の違いを楽しみます。
最新のものはキンボー・イシイ指揮マクデブルク・フィルとの共演です。このオケも指揮者も私はこのアルバムで初めて聴いたのですが、プレスラーさんへの最上の愛情でもって寄り添いピアノを支えているのが印象的です。プレスラーさんが紡ぎ出すフレーズがいかに弦楽器的であるか! それはそれを模倣するオーケストラが証明してくれます。ちなみにマグデブルクは、プレスラーさんの生まれ故郷。彼にとっても感慨深い共演であったことは想像に難くありません。
一方、ヤルヴィ(現・N響首席指揮者)との共演では、オケの持つしなやかさと煌びやかさに指揮者の個性が相まって明るく躍動感あふれる解釈となり、そこにプレスラーさんの磨き抜かれた音の泉が湧き溢れて自由に羽ばたく演奏です。
しかし一番のオススメは、ビシュコフとの17番でしょう。曲の持つ気品さと少女のような可愛らしさをプレスラーさんのピアノも、オーケストラも余すところなく表現し、すばらしくワクワクさせる演奏です。そしてモーツァルトにはスケール(音階)のパッセージが多いですが、一つひとつの音の粒はまさに1点の曇りもない真円の真珠のようです。
(つづく)
1923年、ドイツ生まれ。ナチスから逃れて家族とともに移住したパレスチナで音楽教育を受け、1946年、ドビュッシー国際コンクールで優勝して本格的なキャリアをスタートさせる。1955年、ダニエル・ギレ(vn.)、バーナード・グリーンハウス(vc.)とともにボザール・トリオを結成。世界中で名声を博しながら半世紀以上にわたって活動を続け2008年、ピリオドを打つ。その後ソリストとして本格的に活動を始め、2014年には90歳でベルリン・フィルとの初共演を果たし、同年末にはジルベスターコンサートにも出演。ドイツ、フランス国家からは、民間人に与えられる最高位の勲章も授与されている。また教育にも熱心で、これまで数百人もの後進を輩出してきた。世界各国でマスタークラスを展開し、またインディアナ大学ジェイコブズ音楽院では1955年から教えており、現在は卓越教授(ディスティングイッシュト・プロフェッサー)の地位を与えられている。
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