~若手演奏家を演奏で導き、音楽を芸術へと昇華~

プレスラー追っかけ記 No.17<推薦盤:その4>

読みもの
2018.11.03

94歳の伝説的ピアニスト、メナヘム・プレスラー。これは、音楽界の至宝と讃えられる彼の2017年の来日を誰よりも待ちわび、その際の公演に合わせて書籍を訳した瀧川淳さんによる、プレスラー追っかけ記です。
再び来日する日を待ちわびて、CDを聴きながら溢れる想いをしたためた瀧川さんからのオススメ盤を紹介します。

瀧川淳 翻訳者・熊本大学準教授・音楽教育学者
瀧川淳
瀧川淳 翻訳者・熊本大学準教授・音楽教育学者
『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』(ウィリアム・ブラウン著)訳者。 音楽教育学者。音楽授業やレッスンで教師が見せるワザの解明を研究のテーマにしている。東京芸術...
公演キャンセル後の瀧川氏コメント

今月は関東の仕事が多く、毎週末帰京していますが、今回の帰京(注:公演週)がもっとも楽しみでした。しかし、今はたんに足取りの重い帰京でしかありません。なぜなら1年ぶりの再会となるはずだったプレスラーさんに逢えないのだから……。1日も早くの回復を祈りつつ、彼が認めた名レクチャーを読み返し、また名録音を聴きながら、再会が果たせるのを待ちたいと思います。

ということで、今回でひとまず“追っかけ記”も小休止。最後の推薦盤は若手と組んだこの名盤2枚ほかです。

(前回からのつづき)

それでは、室内楽奏者としてのプレスラーさんに焦点を当てましょう。

自身が50数年率いたボザール・トリオで、ピアノ三重奏作品のほぼすべてを録音することで、室内楽奏者としての金字塔を打ち立てたプレスラーさん(個人的には室内楽のカラヤンと呼びたい)。

ボザール・トリオ解散後は、主に若手の演奏家たちと共演を続けてアルバムを発売しています。ちなみにソロ・アルバムと異なり、今のところほとんどがライブ録音です。

●《雨の歌》 ライヴ モーツァルト・シューベルト・ブラームス
(ヴァイオリン庄司紗矢香、ドイツ・グラモフォン UCCG-1714/ 2015)

●プレスラー90歳 バースデイ・コンサート・イン・パリ
(エベーヌ四重奏団、プレガルディエン、エラート 2564625964/2014、 2015)

まず、最初に触れなければならないのは、プレスラーさんのピアノ芸術の素晴らしさを日本で不動のものとした、庄司紗矢香さんとの日本公演です。NHKでも何度か放映されたのでご存知の方も多いのではないでしょうか。ライブ録音で、どうやら鎌倉公演と東京公演をつかった編集のようですが、公演と収録曲の演奏順は同じ。

この録音は、祖父と娘ほどに年齢の離れた芸術家の共演です。
モーツァルトではプレスラーさんに問いかけるような庄司さんが、次のシューベルトで一緒に演奏することを楽しみ、そしてブラームスでは2人の偉大な芸術家の音楽へと成長します。この1枚だけでも、ある音楽家が芸術家へと昇華する様(これぞ教えることの真髄!)を聴くことができるでしょう。

NHKの放送をきっかけに、この2人のファンになったという人も多いのでは? ぜひ再放送してほしい……。

このライブ録音の1年前の収録が「プレスラー90歳記念コンサート」です。
CDはエベーヌ四重奏団とのドヴォルザークとシューベルトが収録されていますが、付録DVDにはテノール歌手のプレガルディエンとの歌曲も収録されています。

ドヴォルザークはすばらしく情熱的な演奏で、1楽章が終わったあとに自然と湧き上がる拍手にも納得。その拍手が消えるか消えないかという絶妙のタイミングで始められる、ピアノのゾクゾクするような弱音! そしてシューベルトでは一変してスタイルを大切にしつつも歌心溢れる演奏になっています。有名な「ます」の変奏曲も各変奏のキャラクターが節度を保ちつつも見事に描き出されています。

テクニック、センスともに群を抜く実力派新世代カルテットとの共演で、プレスラーも刺激を受けている様子が演奏から伝わってきます。

最後にご紹介するのは、下記のDVD4枚組です。

Menahem Pressler – The Pianist
(ユーロアーツ 2061618、4DVDs/2016)

これまで紹介したDVDに加えて、2011年にパリで行なわれたソロ・リサイタルが収録されています。リサイタルでは、ベートーヴェンの31番ソナタ、シューベルトの21番ソナタ、そのほかショパンやドビュッシー! の演奏から彼の芸術的なテクニックを目の当たりにすることができるでしょう。

ジルベスターコンサートでのラトルとの共演のほか、パーヴォ・ヤルヴィとのモーツァルト協奏曲、上記エベーヌ四重奏団と共演した90歳記念コンサート等々の映像集。

しかし、ただ見るだけでは彼のテクニックの真髄には到底触れることはできません。やはりDVDを見ながら『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』を通して彼と対話しなければね……。

* * * * * *

さて、『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』発売からちょうど1年ですが、長きにわたった「追っかけ記」もこれで予定回を終了です(今回の来日で再会できていたら「新・追っかけ記」を書く予定でしたが。笑)。

この企画のお話をくださり、最後までサポートしてくださった編集担当の(ま)さんに感謝です。そして読者の皆様、これまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

プレスラーさんが回復され再来日されることを信じて、またそのときにはみなさまにお目にかかりましょう。

メナヘム・プレスラー Menahem Pressler

1923年、ドイツ生まれ。ナチスから逃れて家族とともに移住したパレスチナで音楽教育を受け、1946年、ドビュッシー国際コンクールで優勝して本格的なキャリアをスタートさせる。1955年、ダニエル・ギレ(vn.)、バーナード・グリーンハウス(vc.)とともにボザール・トリオを結成。世界中で名声を博しながら半世紀以上にわたって活動を続け2008年、ピリオドを打つ。その後ソリストとして本格的に活動を始め、2014年には90歳でベルリン・フィルとの初共演を果たし、同年末にはジルベスターコンサートにも出演。ドイツ、フランス国家からは、民間人に与えられる最高位の勲章も授与されている。また教育にも熱心で、これまで数百人もの後進を輩出してきた。世界各国でマスタークラスを展開し、またインディアナ大学ジェイコブズ音楽院では1955年から教えており、現在は卓越教授(ディスティングイッシュト・プロフェッサー)の地位を与えられている。

10月13日(土)※公演中止

メナヘム・プレスラー シューマン・リサイタル with マティアス・ゲルネ

2018年10月13日(土) 19:00 開演(※公演中止)

サントリーホール 大ホール

※この公演は、プレスラーさんの健康上の理由により公演中止になりました

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