バロック:語源は「歪んだ真珠」が有力。 バロック芸術の特徴と成り立ちを一挙にマスター!
楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第84回は「バロック」。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
音楽においては、主に17世紀から18世紀までの様式を指す言葉、バロック。もともと「バロック」という言葉は、音楽だけではなく、建築や絵画などの芸術全般を指す言葉として使われています。
他に、古典派音楽やロマン派音楽などの分類がありますが、「古典」や「ロマン」という言葉からも、こちらはなんとなく意味か想像できるかと思います。しかし、「バロック」と聞いても、いまいちピンときませんよね? 今回は、そのバロックという言葉の意味を探っていきます!
不自然であることは美しい!
バロック期の前には、ルネサンス期(14〜16世紀)と呼ばれる時期がありました。戦争、感染症、宗教の統制による暗黒の時代だった中世から、個性や自由を追い求める時代に生まれ変わったのが、ルネサンスです。
中世以前の古代ギリシア・ローマへの憧れから生まれ、古代の芸術などを手本にしたルネサンスの芸術は、みるみるうちに花開きました!
ここで、目でみて分かる、美術の世界を例にとってみましょう。ルネサンスを代表する画家として、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、そしてラファエロが、その代表として挙げられますが、彼らはまさにルネサンス美術の頂点を作り上げました。
こうしてルネサンス文化は花開きましたが、のちの芸術家は、巨匠の手法を真似しつつ、自分なりのアレンジを加えて作品を作りました。しかし、アレンジも加わり続けると、だんだんと奇抜になってきてしまいます。
その結果、人の体が不自然に曲がり、大胆な構図を用いたような絵が生まれました。
躍動感がありますね! これこそがバロック美術の大きな特徴です。
この「躍動感」「ダイナミックさ」そして「グロテスクさ」というキーワードは、バロックという言葉と深い関わりがあります。バロックの語源にはいくつかの説があるのですが、もっとも有力な説は、ポルトガル語で「いびつな形をした真珠」を意味する、「バロコ(barroco)」からきたものだと言われています。
真珠は、貝の中に入った異物が、貝の分泌液で包み込まれてできますが、これが常にきれいな丸い形とは限りません。生き物が作り出す偶然の産物なので、貝の中に入った異物の形がいびつだと、そのまま真珠も変な形になることがあります。
例えば、歪んだ真珠を使って作られたペンダントに、下の写真のようなものがあります。
©︎The British Museum
使いようのなさそうな、いびつでゴツゴツとした真珠を、大胆にも馬の胴体に使っています。この発想はすごいですね……!
バロック時代には、大胆でありながらこだわり抜かれた装飾の建築、大胆な配置、かつ人間味にあふれた絵画が作られたことから、この時代の芸術をバロックと呼ぶようになりました。
バロック芸術そのものがいびつで、趣味が悪いわけではないので、ご注意を! さて、次は音楽へ目を向けてみましょう!
バロック音楽はドラマティックな音楽!
ルネサンス音楽で主に用いられてきたポリフォニーは、カトリック教会から「いろんな人たちが一度にバラバラに歌うと、歌詞が聞き取れない!」と白い目で見られることがありました。
そこで、一人で歌い、楽器が伴奏するという音楽(モノディ)が生まれました。このモノディの誕生を皮切りに、さまざまな音楽が誕生しました。
オペラとカンタータ
コンチェルト
メインとなる楽器を、一人もしくは複数人で演奏し、それを他の楽器が伴奏するという形のコンチェルトが作曲されるようになりました。モノディと似ていますね!
さらに、メインの楽器の奏者(ソロ)が激しい技巧を披露するような作品も多く書かれ、人気の音楽となりました!
対位法の発達とバロック音楽の終わり
まさにJ. S. バッハのすごさとは、この技術の高さにあるといっても過言ではないでしょう! そんなJ. S. バッハの死をもって、バロック音楽が終わった、とされています。
しかしこの定義はとても難しく、J. S. バッハの生前より、新しい種類の音楽(古典派音楽)が流行していました。初期の古典派音楽は、バロック音楽と比べて、シンプルで軽快な音楽だったのですが、この古典派音楽とJ. S. バッハに関するこんな逸話があります。J. S. バッハ(1685〜1750)の次男C. P. E. バッハ(1714〜1788)が、ベルリン近郊ポツダムに住むフリードリヒ大王に仕えていたときの話です。
ポツダムでは、すでに次の音楽となる古典派音楽への強い関心があり、王に仕える作曲家たちが古典派音楽となる作品を多く書いていました。バッハの次男もそのうちの一人でした。しかし、自分の次男がバロック音楽とは違った、軽快な音楽を書いているということを、J. S. バッハは、あまり良く思っていませんでした。
これを、当時ベルリンでたまたま発見された紺青色(別名「ベルリンブルー」)になぞらえて、古典派音楽に対して「ベルリンブルー、こんなのは褪せた色だ!(s’ist Berlier Blau! s’ verschießt!)」と怒りをあらわにしたと言われています。
J. S. バッハが、フリードリヒ大王に捧げた《音楽の捧げもの》という作品も、当時はすでに新しい音楽が流行していたのにもかかわらず、そんな趣味を否定するかのように、手の込んだ対位法を使って書かれています。まさに、頑固な対位法職人の意地という感じですね……かっこ良すぎます。
C. P. E. バッハ:トリオソナタ H. 570〜第1楽章(1747年作曲)、J. S. バッハ:《音楽の捧げ物》〜6声のリチェルカーレ(1747年作曲)
バロック音楽は、ドラマティックでありながらも、職人技のような技術が使われた、それはもう奥深い世界が広がっている音楽なのです!
バロック音楽を聴いてみよう
1. モンテヴェルディ:歌劇《オルフェオ》〜第2幕より「君は死んでしまった」
2. フックス:《トゥルカリア(トルコ趣味)》〜第3楽章
3. クープラン:オルドル第18巻〜「オリーブ絞り機」
4. ヴィヴァルディ:協奏曲集《和声と創意の試み》第1番「春」〜第1楽章
5. ラモー:歌劇《プラテー》〜第1幕より「教えてよ、ねぇ」
6. ヘンデル:《王宮の花火の音楽》〜序曲
7. J. S. バッハ:カンタータ第147番《心と口と行いと命》〜第6曲「主よ、人の望みと喜びよ」
8. ロワイエ:クラヴサン曲集第1巻〜「めまい」
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