読みもの
2023.05.25
五月女ケイ子の「ゆるクラ」第10回

作曲家は見た目が9割!? 見た目から紐解く作曲家の人と音楽性~ショパンとリスト編

クラシック音楽に囲まれる家庭環境で育ったイラストレーターの五月女ケイ子さん。「ゆるクラ」は、五月女さんが知りたい音楽に関する素朴な疑問を、ONTOMOナビゲーターの飯尾さんとともに掘り下げていく連載です。五月女さんのイラストとともに、クラシックの知識を深めましょう! 今回からは作曲家の肖像画や写真をもとに、作品や性格を見ていきます。

イラスト・執筆
五月女ケイ子
イラスト・執筆
五月女ケイ子 イラストレーター/脱力劇画家

山口県生まれ横浜育ち。幼い頃から家にクラシックが流れ、ロックは禁止、休日には家族で合唱するという、ちょっと特殊な家庭で育つ。特技はピアノ。大学では映画学を専攻し映画研...

お助けマン
飯尾洋一
お助けマン
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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学校の音楽室や教科書でおなじみの作曲家たちの肖像画。夜中に動き出すと怖がられたり、時には落書きの素材になったりと、子どもたちの間では作曲家の音楽よりも話題の的だった作曲家の顔ですが、顔と音楽って関係あるんでしょうか?

若い頃、実はおじいさんが描いているんじゃと噂され、実際会ったら「意外と普通ですね」と言われ。一体どんな顔なら自分の絵っぽいのかと自問自答していた私は、音楽と顔は関係ないと声高に訴えたいですが、今回はあえて、人生がにじみ出がちな顔に隠された作曲家の本性と音楽の関係性を妄想してみることにしました。

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作品にも生活スタイルにも通ずる繊細そうなショパンのお顔

それでは、まず、“ピアノの詩人”ショパンの顔を見ていきましょう。

左が若いとき。そして、晩年が右。

1836年、26歳のショパン
最晩年の1849年、39歳のショパン

何か虫のいどころでも悪かったのでしょうか。どこか具合も悪そうです。薔薇色の頬の美少年だったショパンの身に何が……!?

「きっとこのとき、本当に体調悪かったんだと思いますよ」と飯尾先生。

そうか。そうですよね。昔から病弱で、晩年もずっと体調を崩していたとしたら、納得の表情です。具合が悪いと何をするにもやる気が出ず、自己評価も低くなりがち。早く元気になって美味しくご飯が食べられる日を待ちわびるのみですが、そんなギリギリの精神状態の中、命を絞り出すように音楽を作っていたかと思うと尊敬しかありません。

一説によると、人は年を重ねるにつれ、より遺伝的な性質が出てくるそう。親に似たくないと思っていたのに、大人になると似てきてショックなんてことも、遺伝的な性質が色濃く出てしまった結果と思われます。ということは、やはりショパンは本質的に神経質で内気な人だったんでしょうか。

「でも、あの音楽は、多少神経質でないと作れませんよね」と先生。

たしかに。あそこまで複雑な和声を散りばめ繊細に変化していく曲は、「このくらいにしとくか」では終わらせない完璧主義者の証しです。眠くなったら「続きは明日!」と寝てしまう私は到底ショパンにはなれません。

ショパンの完璧主義者的性格は私生活でも大いに発揮され、いつも高級な白い鹿の皮の手袋を身につけ、洋服や装飾品、家具や調度品まで一流品で取り揃え、散歩のとき、お出かけのときと、TPOごとにファッションを変えていたそう。また、小さな物音や、床のきしみにも敏感で、生徒との月謝の手渡しは気まずいので、そっとピアノの上に置いておく決まりだったとか。一緒にいたら面倒臭そうですが、でもだからこそ作れる繊細な音楽なのですね。顔と音楽がつながった瞬間でした。

年を取ってもイケおじのリスト

では次に、友人でもあったリストを見てみましょう。若い頃がこちら。

1839年、28歳のリスト

ショパンもイケメンでモテたそうですが、リストはイケメンなうえに、サラサラのセミロングヘアにこだわりを感じさせるモノトーンコーデ。かっこよく見える角度も熟知した決めポーズで、このままブロマイドにして売り出せそうです。お客さん受けを考えた派手なライブ活動も含め、「映え」を知り尽くした自己演出とバランス感覚で、現代でもスターミュージシャンになれるはず。

そして、晩年の頃がこちら。

1858年、47歳のリスト
1870年、59歳のリスト

マオカラーを着こなしたロマンスグレーのイケおじ姿にぐうの音も出ません。懐に隠した手もなんだかセクシーで、このブロマイドも完売確実でしょう。そのうえ面倒見もよく人間性も良かったなんて、どこまで隙がないのか。どこか欠点はないかと調べていたら、リストの名言に辿り着きました。

天才は義務を負っている

自らを天才と知っていたがゆえに、もしかしたら、ある種、義務としてリストはスターを演じていたのかもしれません。天才の義務を全うするためには、時に自分の意思に反して、客を喜ばすことを優先することもあったはず。聖職者に憧れたのは、そんな俗にまみれた自分から逃れたくなったのかも。

ショパンとリストが合コンに参加したら……?

不用意なショパンと、常に完璧なリスト。この画像の2人が参加した合コンを妄想してみましたが、第一印象は、リストが1番人気になりそうですが、一見、陰気そうで、かつ、話しかけないでオーラがすごいショパンが一度ピアノを奏で始めたら、ギャップ萌えする女性が続出しそうです。

リストはもしかしたら、内向的で不器用、でもだからこそ、より作品に思いを込められるショパンの強さに、自分にないものを感じていたかもしれません。そう考えると漫画『ガラスの仮面』の姫川亜弓のような、天才ゆえの苦悩が、寸分の隙もなくイケている写真ににじんできて、切なくなりました。

作曲家の顔が物語る音楽人生。かなり妄想多めでしたが、とても楽しくて、写真を肴に何時間でも音楽を聴いていられそうです。作曲家の顔、次回も研究してみたいと思います。

イラスト・執筆
五月女ケイ子
イラスト・執筆
五月女ケイ子 イラストレーター/脱力劇画家

山口県生まれ横浜育ち。幼い頃から家にクラシックが流れ、ロックは禁止、休日には家族で合唱するという、ちょっと特殊な家庭で育つ。特技はピアノ。大学では映画学を専攻し映画研...

お助けマン
飯尾洋一
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飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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