
「才能にお墨付きを与える場」エリザベート王妃国際コンクール審査委員長が語る、その本質

エリザベート王妃国際コンクール審査委員長ジル・ルデュール氏に、オンラインインタビューでコンクールの理念や特徴と、そこから生まれる音楽家像について語ってもらいました。「音楽とは人生そのもの」と語るルデュール氏が若い音楽家や日本の聴衆に伝えたいこととは?

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...
エリザベート王妃国際音楽コンクールの使命は「独創的な才能を世に示すこと」
——エリザベート王妃国際コンクールは、長年にわたり世界を代表するコンクールのひとつと見なされてきました。若い音楽家の成長において、どのような役割を果たすべきだとお考えですか。
ルデュール 私たちのもっとも重要な目的は、才能ある若い音楽家が音楽界に紹介される手助けをすることです。今は世界的に知られるための手段は他にもたくさんあります。たとえばYouTubeでも優れた音楽家が多く見つかりますね。
そうした中で、このコンクールが付け加えられるものは、いわば一種の「質の保証(quality stamp)」だと思います。審査員たちは、それぞれ第一線のキャリアをもつレベルの高い音楽家です。ソリストや室内楽奏者、また教育者として活躍している人もいますし、国際的なオーケストラで重要なポジションに就いていることも多い。つまり、同じ音楽家たちから与えられる、いわば「お墨付き」ですね。
また、このコンクールの長い歴史の中で、多くの受賞者を通じて、さまざまな美学に開かれていることを示してきました。よく「コンクールで勝つには定番のレパートリー、いわば“鉄板曲”を弾かなければならない」と言われます。しかし実際には、まったく異なる選択をしながら素晴らしいキャリアを築いた人も多くいます。

ルーヴェン大学およびパリ大学で音楽学を学ぶ。2011年より、ブリュッセルの文化施設フラジェイの総支配人を務める。ベルギーの歌劇場モネ劇場およびベルギー国立管弦楽団に勤務したのち、2006年に国外へ拠点を移し、まずルクセンブルクでルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の運営に携わり、その後フランスへ渡る。フランスでは、2011年までリール国立管弦楽団およびリール・ピアノ・フェスティバルの芸術監督を務めた。
2003年には、若手作曲家を支援する非営利団体「Tactus(ヤング・コンポーザーズ・フォーラム)」を設立。各種文化機関と連携し、オーケストラ作品の創作と演奏の機会を提供している。
若い才能の育成にも力を注いでおり、エリザベート王妃国際コンクールおよびブリュッセル王立音楽院の理事を務めるほか、エリザベート王妃音楽院の芸術評議会メンバーでもある。
2014年には、ベルギーとフランスの文化・芸術交流への貢献により、フランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエ(Chevalier des Arts et des Lettres)を授与された。
——エリザベート王妃国際コンクールの特徴や理念を教えてください。
ルデュール まず、このコンクールは約1ヶ月にわたる長い期間という意味で厳しく、世界規模であるという意味でも厳しく、そして参加するためには膨大なレパートリーを身につけていなければならないという意味でも厳しいものです。
何より重要なのは、「自分自身でできること」を示さなければならないという点です。ファイナリストは全員「ラ・シャペル(エリザベート王妃音楽礼拝堂)」に入ります。ここでは外部との接触は制限され、電話も映像もメディアも使えません。他の参加者と作品について話すこともできるし、指揮者や作曲家に質問することもできますが、最終的には、自分の世界の中で判断して作り上げなければならない。いわば将来プロとして経験するような「人生そのものに近い状況」を作り出しているのです。もう先生がいて「こう弾きなさい」と指示してくれるわけではありません。
さらに特徴的なのは、新作課題曲を審査員も事前に知らないことです。審査員はファイナルが始まる30分前に初めて楽譜を目にし、短時間で理解したうえで演奏を評価します。最終週は、演奏者と審査員がともに作品を発見していく「旅」のような時間でもあります。
エリザベート王妃国際コンクールは、独創的な才能を世に示すことを求めているのです。
コンクールは単に人生を競うものではない
——過去のコンクールの中で、印象的だったことを教えてください。
ルデュール まず、1987年に優勝したピアノのアンドレイ・ニコルスキーです。彼はファイナルでラフマニノフの協奏曲を演奏しました。ある意味では、非常に古典的で、いわばコンクールの“定番”とも言える選択です。素晴らしい演奏でしたが、技術的に完璧だったわけではありません。しかし、音楽性が圧倒的だった。非常に魅力的で、純粋な音楽の瞬間だったのです。私は17歳でしたが、今でも鮮明に覚えています。
もうひとつ、1965年のヴァイオリン部門です。優勝したのはフィリップ・ヒルシュホルンで、彼はその後、演奏活動よりも教育者の道を選びました。一方でジャン・ジャック・カントロフ(第6位)は大きなキャリアを築き、ギドン・クレーメル(第3位)もまた世界的な存在となりました。3人の非常に優れた音楽家が、それぞれまったく異なる道を歩んだのです。そしてそれは、必ずしも当時予想された通りではなかった。
さらに言えば、内田光子もこのコンクールでは優勝していません。1968年に10位でした。しかし、彼女がその後どれほど素晴らしいキャリアを築いたかは言うまでもありません。私は彼女の演奏にすっかり魅了されています。
こうした例から言えるのは、このコンクールは単に「誰が1位か、2位か」を競うものではないということです。むしろ重要なのは、多くの人々が夜ごとに集い、「ある運命が生まれる瞬間」をともに目撃しているという点にあります。
そして、もし私たちがその過程を支え、形づくる手助けができるのであれば、それはひとつの幸福——芸術的な幸福なのだと思います。
音楽は人生そのもの、さまざまな経験を積んでほしい
——このコンクールからどのような音楽家が現れてほしいとお考えですか。
ルデュール 特定のタイプを求めているわけではありません。重要なのは、その音楽家がどれだけ個人的で独創的かということです。技術的に優れた若手はすでに数多く存在します。私たちが見ているのは、その演奏が聴き手の心を動かすかどうかです。
私たちがコンサートに行くのは、すでに知っていると思っていた作品を、新しい目と新しい耳で再発見するためです。それこそがもっとも大切なことなのです。

©Alexandre de Terwangne & Thomas Léonard
——コンクールを目指す若い音楽家に、どのような芸術的な心構えを勧めますか。
ルデュール とても重要な質問です。若い音楽家の皆さんに、ぜひお伝えしたい。どうか、しっかり準備をしてください。仕事量もプレッシャーも、そして競争の厳しさも、決して甘く見てはいけません。世界中の優れた音楽家が集まり、選ばれることを目指しているのです。
私の考えでは、あまり若すぎる年齢で挑戦しすぎないほうがいいと思います。フランス語で言う「バガージュ(蓄積)」が十分にあるとき——つまり、手の中に、頭の中に、そして心の中に、十分なレパートリーと経験を備えるまで待つべきです。
そして、自分の「物語」を語れるようになること。若ければ若いほど、人生経験がまだ少ないからその物語は短くなります。だからこそ、何かを経験する必要があるのです。音楽は人生そのものです。それは感情で感じる芸術であると同時に、非常に理知的なものでもあります。もちろん、努力は必要ですが、それと同時に人生を生きること。本を読み、美術館に行き、文化に触れ、世界の中で生きることです。
ベルギー人としてあたたかく迎え入れられるコンクール
——コンクールの聴衆はどのような人たちですか?
ルデュール このコンクールはベルギーでは特別な存在で、誰もが知っています。実際、普段コンサートホールに行かない人がこのコンクールのときだけは毎晩足を運んだり、普段テレビで音楽番組を見ない人がテレビをつけて、その一員になりたいと思ったり……このコンクールを追っていない人を見つけるほうが難しいでしょう。音楽にとって最高の「大使」ではないでしょうか。
そして、「ベルギー人になるための最高のパスポート」と言えるかもしれません。エリザベート王妃国際コンクールは温かい場でもあります。参加者は「新しいベルギー人」として迎えられ、家族の一員のように扱われます。一度このコンクールに参加すれば、心の中に少しベルギー人の部分が残るでしょう。街でも声をかけられ、人々はあなたの活動を見守っています。つまりこれは、人と人との交流、感情の共有、そして人生を分かち合う、1か月にわたる素晴らしい時間なのです。

©Alexandre de Terwangne & Thomas Léonard
——最後に、視聴者がコンクールをより楽しむためのヒントがあれば教えてください。
ルデュール いいえ、ありません!(笑)私はこれまで何度も日本を訪れ、演奏ツアーも行なってきましたが、日本の聴衆は世界でも最高の聴衆です。日本という国があらゆる芸術について非常に洗練された考え方をしているところが大好きです。
私から言えるのはただひとつ、「ありがとう」です。これほど温かい心でコンクールを見守ってくださっていることに、心から感謝しています。会場でも、そして画面の向こうでも、皆さんに見ていただけることは私たちにとって喜びであり、光栄です。
強いて言うならば、フレッシュな目を持つこと、違う角度から物事を見ることですね。そうすることで、ものごとは突然違って見えるようになり、あなた自身が違いを生み出す存在になるのです。若い音楽家の素晴らしいところは、常に新しい視点をもたらしてくれることです。
そして、私たちがコンクールを通して行なっていること、そしてあなたがジャーナリストとして行なっていることも、人々に新しい見方を提示することにつながっているのだと思います。そう考えると、私は世界の未来に対して、とても希望を持つことができます。
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