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2026.04.30
桑原志織が第2位入賞した由緒あるコンクール あなたもお気に入りのピアニストに投票しよう!

ブゾーニ・コンクールの予選が11月に日本へ!その歴史とコンクールの意義を問う革新性

ブゾーニ国際ピアノコンクールは、ミケランジェリが創設に深く関わった世界最古の一つに挙げられるコンクール。このコンクールの大きな特徴は、世界各地で公開の予選が行なわれること。それが今年からスケールアップして、この11月には日本でも開催されることに! コンクールが誇る長い歴史と、聴衆も投票できるシステムに象徴される革新性について、2019年に第2位入賞した桑原志織さんのコメントとともに紹介します。

伊熊よし子
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

前回(2025年)のブゾーニ国際ピアノコンクール、優勝したイーファン・ウーによるグランドフィナーレの舞台から

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ミケランジェリが創設に深く関わり、錚々たる入賞者を輩出してきたブゾーニ・コンクール

イタリア出身でドイツを中心に世界中で活躍したフェルッチョ・ブゾーニ(1866~1924)は、作曲家、編曲家、ピアニスト、指揮者、教育者という多様な顔を持ち、生涯にオリジナル作品を303曲作曲したとされる。自筆譜の多くが第二次世界大戦で散逸して演奏される機会にあまり恵まれないが、J.S.バッハ「シャコンヌ」の編曲は人気が高い。

フェルッチョ・ブゾーニ(1866~1924)
イタリア生まれのドイツの作曲家、ピアニスト、理論家、教育者。8歳でピアニストとしてデビューし、10歳で自作を披露した神童であり、ヘルシンキ、モスクワ、ボストンの音楽院でピアノを教授しながらバッハの鍵盤作品を研究し、それはのちにブゾーニ版バッハ譜となった。バッハ作品の変奏を組みこんだ「ヴァイオリン・ソナタ第2番」でみずからの作曲家としての方向を見定めたブゾーニは、07年に著した『新音楽美学構想』で従来の調性や形式によらない新しい音楽を提唱。ピアノのための《エレジー》や「ソナチネ第2番」で実践する。また、同じ様式でバッハの《フーガの技法》の追創作としての《対位法的幻想曲》を完成させた。10年代後半は,彼が「若き古典性」とよんだ主知的で簡潔、透明感のある作風に傾倒した。20年以降は、ベルリン芸術アカデミーの音楽マスター・クラスを受けもち、多くの後進を育てた

そのブゾーニの没後25周年にあたる1949年、当時ボルツァーノ音楽院の院長を務めていたチェーザレ・ノルディオが、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに宛ててこんな手紙を送った。

「ブゾーニの没後25周年を記念して、この偉大な芸術家の名を偲び、称える意味で大規模な国際コンクールを開催することに関して、どうお考えでしょうか」

イタリアの伝説的ピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ。氏はブゾーニ国際ピアノコンクールの創設に深く関わり、第2位の賞金として多額の資金を提供した

これが発端となり、フェルッチョ・ブゾーニ国際ピアノコンクールは1949年9月12日に創設された。クラウディオ・アラウ、ヴィルヘルム・バックハウス、アルフレット・コルトー、ヴァルター・ギーゼキング、ディヌ・リパッティ、アルトゥール・ルービンシュタイン、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリら錚々たる名誉委員会のもと、第1回の第4位には当時18歳のアルフレッド・ブレンデルが選ばれた。

以来、イェルク・デームス、マルタ・アルゲリッチ、ギャリック・オールソン、リチャード・グード、リーリャ・ジルベルシュテイン、アレクサンダー・コブリンをはじめとする優勝&入賞者が名を連ね、2002年からは隔年開催となる。

聴衆も審査に参加できる! 画期的な予選「グローカル・ピアノ・フェスティバル」

第1回から77年を経た今年、2020年から世界各地で行なわれてきた予選「グローカル・ピアノ・プロジェクト」が、さらなる進化を遂げる。

左がミラノ、上がイスタンブールで2024年に行なわれた「グローカル・ピアノ・プロジェクト」の様子(「グローカル」とは、「グローバル」と「ローカル」を組み合わせた造語)。今年からは「グローカル・ピアノ・フェスティバル」と名称を変えてスケールアップ!

「グローカル・ピアノ・フェスティバル」と名称を変え、北米・ヨーロッパ・アジアの10都市にある著名なプロモーターやコンサート会場のシーズン・プログラムに組み込まれる。

厳選された120名のピアニストが世界10か所の「ピアノ・マラソン」で演奏し、日本では東京のトッパンホールが会場となって、演奏はオンラインでも視聴することができる。画期的なのは、演奏を聴いた聴衆が選んだ候補者を2027年の本選へ送り出すことができるというシステムだ。

この時点での課題曲はなく、すべてピアニスト自身の裁量に委ねられ、芸術的個性を自由に表現することができる。参加申し込みの締め切りは2026年5月13日、年齢制限は30歳

この第66回ブゾーニ国際ピアノコンクールの本選は、2027年8月25日から9月5日までイタリア・ボルツァーノで行なわれる。ここでの課題曲には、ブゾーニ作品のソロも含まれている。ソロ演奏2ラウンド、弦楽四重奏団との共演による室内楽演奏、そしてグランドフィナーレには3名が選ばれ、ハイドン管弦楽団とピアノ協奏曲を演奏する。

前回(2025年)のブゾーニ国際ピアノコンクールで優勝したイーファン・ウーYifan Wu。隣でたたえるのは前々回(2023年)の優勝者アルセニー・ムン。ちなみに前々回は山﨑亮汰が第3位に入賞している

第2位入賞の桑原志織が語る ブゾーニ・コンクールの魅力

2019年に参加し、第2位入賞に輝いた桑原志織は、ブゾーニ国際ピアノコンクールをこう述懐する。

「1年目が予選で、2年目が本選というスタイルです。私のときは審査員がダン・タイ・ソン、ティル・フェルナー、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、アンヌ・ケフェレック、タチアナ・ゼリクマンらそうそうたるメンバーで構成されていました。コンクール後のフェアウェル・パーティで審査員の方たちにお話を伺う機会があり、フェルナーやゼリクマンが詳細なメモを見ながらとてもこまかく感想や意見をくださったのが感動的で、印象に残っています」

2019年のブゾーニ国際ピアノコンクールにおけるグランドフィナーレで、聴衆から喝采を受ける桑原志織

ボルツァーノはフィレンツェの北方に位置し、東アルプスのドロミテ山群の麓にある。風光明媚な土地も桑原志織の記憶に刻まれている。

「山に囲まれたとても美しい街で、空気が澄んでいて食べ物もおいしく、練習場所もしっかり確保されていて、十分に練習してからステージに臨むことができました」

ブゾーニ国際ピアノコンクールの本選が開催されるボルツァーノは、ドロミテ山群の麓に位置する美しい街だ ©Azienda di Soggiorno Bolzano ・S.Buono
ボルツァーノの中心地、ヴァルター広場 ©Azienda di Soggiorno Bolzano ・S.Buono

「各国から参加したピアニストたちはみんなすばらしい人ばかりで、すぐに仲良くなれ、彼らがみな相手をリスペクトしている姿勢に触れて、人間的な面でも学ぶことが多かったですね。日本人を代表している立場で、ふるまいに気をつけるようになりました。ブゾーニのオリジナル作品を演奏できたのも貴重な経験でした」

11月にトッパンホールで予選が開催 お気に入りのピアニストに投票しよう!

予選の「グローカル・ピアノ・フェスティバル」からオンラインで演奏を視聴することができ、「世界のピアニストのいま!」をリアルに体験することができるブゾーニ国際ピアノコンクール。参加者も自身の演奏を世界中の人に発信することができ、今後のキャリアの礎となること間違いなしだ。

聴衆はオンラインまたはライヴで演奏を聴き、自分も一票を投じることができる。さあ、どんなピアニストが登場してくるだろうか、あなたの応援したい人は? 本選に送り出したい人は? 2年間の楽しみがいま幕を開ける!!

2026年11月16日・17日東京のトッパンホール(写真)で「グローカル・ピアノ・フェスティバル」が開催。計12名の候補者が演奏を行ない、ここで収録された動画はコンクールのウェブサイトで公開される予定。視聴者は、その中からお気に入りのピアニストに投票することができる。ここを含め世界10都市で開かれる「グローカル・ピアノ・フェスティバル」(2026年10月26日〜12月15日)でもっとも多い票を獲得したピアニストが、他の候補者とともにボルツァーノにおける本選(2027年8月25日〜9月5日)へ出場する
伊熊よし子
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

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