プレイリスト
2020.11.01
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第19回

「わたしは神を信頼する」BWV188——三位一体後第21主日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

フランス新古典主義の画家ジョゼフ=マリー・ヴィアン作「役人の息子をいやすイエス・キリスト」(1752年)。

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皆さま、おはようございます。本日は、1728年ないし翌29年の三位一体後第21主日(日曜日)に、ライプツィヒの教会で演奏されたと考えられているカンタータ第188番「わたしは神を信頼する」をお聴きいただきます。

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この日に朗読された聖書は、「ヨハネ福音書」の第4章47〜54節「役人の息子をいやす」です。

新約聖書でイエスはさまざまな奇跡を行ないますが、とくに病気の人を癒し、亡くなった人を生き返らせるなどのエピソードは印象的ですね。聖書の同様の箇所を読んでいますと、こうした奇跡において大切なことは、信仰があるか否かだということがわかります。

バッハのカンタータもそのことを歌っています。《マタイ受難曲》のアリアや合唱曲の歌詞を書いたピカンダーが作詞を担当しました。なおこの曲は「われはわが依り頼みを」や「我は堅き信頼を」などの邦題でも知られています。

04:47この人は、イエスがユダヤからガリラヤに来られたと聞き、イエスのもとに行き、カファルナウムまで下って来て息子をいやしてくださるように頼んだ。息子が死にかかっていたからである。 04:48イエスは役人に、「あなたがたは、しるしや不思議な業を見なければ、決して信じない」と言われた。 04:49役人は、「主よ、子供が死なないうちに、おいでください」と言った。 04:50イエスは言われた。「帰りなさい。あなたの息子は生きる。」その人は、イエスの言われた言葉を信じて帰って行った。 04:51ところが、下って行く途中、僕たちが迎えに来て、その子が生きていることを告げた。 04:52そこで、息子の病気が良くなった時刻を尋ねると、僕たちは、「きのうの午後一時に熱が下がりました」と言った。 04:53それは、イエスが「あなたの息子は生きる」と言われたのと同じ時刻であることを、この父親は知った。そして、彼もその家族もこぞって信じた。 04:54これは、イエスがユダヤからガリラヤに来てなされた、二回目のしるしである。

新共同訳聖書より「ヨハネによる福音書」4章47〜54節

バッハのカンタータの編成はソプラノ、アルト、テノール、バスに合唱、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ(狩のオーボエ)、オルガン、弦楽と通奏低音です。

実を言いますと、この曲はバッハの自筆譜が断片的にしか残されておらず、しかも各地に分散していたのですが、近年の研究でそれらをつなぎ合わせることで演奏できるようになりました。それでも、第1曲のシンフォニアは途中までしかありません。ところが、これはチェンバロ協奏曲ニ短調BWV1052の第3楽章と同じ音楽なのです。そこで、今日では協奏曲の楽章をもとに復元して演奏されています。

このように、バッハはしばしば、過去に作曲した自分の音楽を他の作品に仕立て直していました。これを楽曲転用(パロディ)の技法といいます。

1曲目は情熱的なシンフォニア(器楽だけで演奏される前奏)。前述のようにチェンバロ協奏曲ニ短調の第3楽章ですが、チェンバロの代わりにオルガンがソロを担当しています。

続いてテノール(アリア)がへ長調の明るい響きと舞曲風リズムで「わたしは真実の神の裁きを信頼しています。私の希望は揺らぐことがありません。すべてが砕けて倒れても、神だけはつねに最上のもの」と歌います。

すると今度はバス(レチタティーヴォ)が「神はどんな人にも心を配る。どれほどの苦境に中にある人でも。神の御心には、決して消えることのない愛がひそんでいる。だからたとえ神が私の死を望んだとしても、私は神を信頼し、望みを置く」と述べ、アルト(アリア)が再びオルガンの神々しい楽音とともに神への想いを歌います。「はかりがたい手段で主は民を導いてくださる。私たち自身の十字架と責め苦も、私たちにとって善きものであり、主の御名の讃美に通じるもの」。

そして弦楽器の劇的で衝撃的なパッセージに続いて、ソプラノ(レチタティーヴォ)が「現世の権力は消えていくもの。誰が地位や権威など信頼するというのか。でも神は永遠に変わらない。誰もが神を頼りにするものは幸いである」と告げ、最後に合唱がコラール「私は愛すべき神を信頼している」の第1節を歌って曲を閉じます。「不安と苦難の時にも。神はいかなる時にも悲嘆と恐れ、苦悩から救ってくださる。私の不幸を幸福へと変える、そのすべては神の両手のなかにある」。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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