「ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調《テレーゼ》」——ロマン派に向かうターニングポイント
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ロマン派に向かうターニングポイント「ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調《テレーゼ》」
1805年完成の「ピアノソナタ第23番《熱情》」から約4年、ピアノソナタの作曲から遠ざかっていたベートーヴェン。この期間には交響曲が3曲、ヴァイオリン協奏曲など大作を生み出していましたが、久しぶりのピアノソナタは?
小山 嬰ヘ長調という、当時としては異例の調が選ばれています。すべてのソナタの中でも特別な雰囲気があります。
(中略)
平野 《運命》と《田園》で徹底的に使用した、主題を動機的に分解して展開する「動機展開」をこのあと封印するのです。そして新しい手法として1809年から「カンタービレ期」に入り、主題も旋律性豊かなものが目立つようになります。
小山 だからこの《テレーゼ》もリートのような雰囲気を持っているのですね。「新しいものを」というベートーヴェンの強い意志を感じます。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ 限りなき創造の高みへ』(音楽之友社)p60
調号がシャープ6つの嬰ヘ長調は、ベートーヴェンのソナタの中でも、とくに目立った調性です。しかし、一見複雑そうな楽譜の旋律は柔らかく、美しい、まさに「カンタービレ(歌うように)」な作品です。2楽章構成で書かれている点も、構築的なものというよりは、自由なアイディアを展開したい気持ちの表れ、と平野さんは語っています。
副題《テレーゼ》は、この作品の献呈を受けたベートーヴェンのピアノの弟子のひとりテレーゼ・フォン・ブルンスヴィックにちなんでいます。「不滅の恋人」候補に挙げられていた時期もありますが、現在では否定されており、副題も深い意味はなさそうです。
ちなみに明日ご紹介する「ピアノ・ソナタ第25番《カッコウ》」を献呈し、当時ベートーヴェンが恋心を抱いていたテレーゼ・フォン・マルファッティは別のテレーゼですのでお間違いなく!
「ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調《テレーゼ》Op.78
作曲年代:1809年(ベートーヴェン38歳)
出版:1810年 ブライトコップフ&ヘルテル社
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