レポート
2026.05.24
「バーデン=バーデン復活祭音楽祭2026」レポート Festspiele Baden-Baden 2026

バーデン=バーデン復活祭音楽祭が新時代~マケラの活躍と《ローエングリン》新制作

ドイツのバーデン=バーデンで毎年春(復活祭の時期)に開催される「バーデン=バーデン復活祭音楽祭」。2013年からのレジデント・オーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に代わり、今年から複数オーケストラが参加する新体制がスタートしました。3/28~4/6に開催されたフェスティヴァルの模様をお伝えします。

取材・文
来住千保美 Chihomi Kishi
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来住千保美 Chihomi Kishi

音楽学/音楽ジャーナリスト。1991年からドイツのケルン、デュッセルドルフ、現在はミュンヘン在住。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒業、ドイツのケルン大学法学部を経て...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

マケラ人気で外国人の観客が増加したバーデン=バーデン復活祭音楽祭。マケラ指揮コンセルトヘボウ管のコンサートから ©Michael Bode

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ドイツのバーデン=バーデン復活祭音楽祭2026が、3月28日から4月6日まで開催された。2013年から昨年(2025年)まで同フェスティヴァルのレジデント・オーケストラだったベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が、ザルツブルク復活祭音楽祭に戻ったため、同フェスティヴァルは今年から新時代に入った。

今年は、クラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ヨアナ・マルヴィッツ指揮マーラー室内管弦楽団が中心になり、ドイツに二つしかない「国立」オーケストラであるドイツ・ナショナル・ユースオーケストラとドイツ・ナショナル・ジャズオーケストラが加わった(指揮:ジョナサン・ストックハマー)。今年は初めてオペラとシンフォニー・コンサートを合わせて7つのプログラムが演奏されたが、この多彩さを実現できたのは、ベルリン・フィルがレジデント・オーケストラだったときと違ってオーケストラが複数になったことが理由だ。

主催者によると、音楽祭は開催期間中に約1万8,000人を集めたが、その約20パーセントは42に上る外国からの観客だったという。オランダからの来場者が目立って多かったというが、これはロイヤル・コンセルトヘボウ管が出演した影響だろう。

プログラムは室内楽コンサートをふくめ、全部で28にのぼった。メインのオペラ新制作はワーグナー《ローエングリン》(3月28、31日、4月5日、指揮:ヨアナ・マルヴィッツ、演出:ヨハネス・エラート、美術:ヘルベルト・ムーラウアー、衣裳:ゲジーネ・フェルム、他)。シンフォニー・コンサートはクラウス・マケラ指揮のマーラー「交響曲第5番」(4月1日)とブルックナー「交響曲第8番」(4月2日)マルヴィッツ指揮のブリテン《戦争レクイエム》(4月3日)が聴衆に大好評を博した。またチェリストでもあるマケラは、コンセルトヘボウ管のメンバーとチェロ・プア」という室内楽のコンサートも行うという多忙ぶりだった(4月2日、クアハウス)。

ワーグナー《ローエングリン》で閉幕

さて、閉幕日の《ローエングリン》を観た(4月5日)。演出のエラートはシュヴァルツヴァルト地方の出身であり、本人は、「シュヴァルツヴァルト地方の森の神秘性、メルヘンのような風景が今回の《ローエングリン》演出に影響を与えている。……すべては一つだけの貌を持っているのではなく、簡単に白黒がつけられるものではない。その中間にあるグラデーションもさまざまな顔をみせる。……《ローエングリン》の大きなテーマである『不安』と『憧憬』は背中合わせの関係」と語っている。

この言葉の通り、ステージ美術は森が中心であり、ミッドナイト・ブルーの木々と白く光る月が美しい。ローエングリンとエルザの衣裳は純白、オルトルートとテルラムントの衣裳は黒、コーラスの衣裳はブルーで、こちらも視覚的にとても美しい。ステージ上にはブラウン管が置かれ、起こる出来事はすべてブラウン管に映された「夢」、というコンセプトは明確だ。さらに最後は、ゴットフリートが湖や川、遊園地で見かけるような白鳥の船を先導して現れるというユーモアも忘れない(これはリンダーホーフ城の洞窟で白鳥の船に乗って夢を見た、バイエルン国王ルートヴィヒ2世の引用だ)

ローエングリン役ピョートル・ベチャワはもともと美声のリリック・テノールだが、バイロイトでもローエングリン役を歌い、高い評価を受けている。安定した歌唱テクニックが支える甘い声は、ローエングリン役としてとても魅力的である。エルザ役レイチェル・ウィリス=ソレンセンは近年、ワーグナー・ソプラノとして出番も多いが、エルザというよりはブリュンヒルデ向きだろう。フレージングには少々無理があり、この日は音程の悪さが気になった。テルラムント役ウォルフガング・コッホ、オルトルート役ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー、ハインリヒ役クワンチュル・ユンの巧さがステージを充実させていた。

マルヴィッツの指揮はエネルギッシュで、力技が目立つ。もともと室内オーケストラであるマーラー室内管の、長所と美点を活かしきれていなかったのは残念だ。ロマンティックな管弦楽の艶と色彩感を引き出すには、もう少し時間が必要かもしれない。しかしまだ39歳の若さだ。これほどまとめられるのは、卓越した指揮能力をもつからに違いない。

《ローエングリン》から © Martin Sigmund
バーデン=バーデン復活祭音楽祭2026で上演された《ローエングリン》から。森が中心となったステージ美術 ©Martin Sigmund

来年はベートーヴェン没後200年記念プログラム

バーデン=バーデン復活祭音楽祭の来年の開催は、3月20日から29日まで。ベートーヴェン没後200年を記念して、オペラは《フィデリオ》を新制作する(3月20、23、28日、マルヴィッツ指揮マーラー室内管、演出:クシシュトフ・ワリコフスキ、レオノーレ:ヴェラ=ロッテ・ベッカー、フロレスタン:ショーン・パニカー。マルヴィッツと同管はさらにモーツァルト「レクイエムを演奏する(3月26日)マケラ指揮コンセルトヘボウ管のベートーヴェン・コンサートはミサ・ソレムニス(3月22日)交響曲第7番(3月25日)の予定だ。またドイツ・ナショナル・オーケストラは、コルネリウス・マイスターの指揮でショスタコーヴィチ「交響曲第5番」(3月29日)。このほか、ピアニストのアルトゥール&ルーカス・ユッセン兄弟チョ・ソンジンがリサイタルを行う。

取材・文
来住千保美 Chihomi Kishi
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音楽学/音楽ジャーナリスト。1991年からドイツのケルン、デュッセルドルフ、現在はミュンヘン在住。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒業、ドイツのケルン大学法学部を経て...

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