
ノセダ&ナショナル響がプッチーニ「三部作」/ロサンゼルス・フィルの意外な次期シェフ

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は5月のアメリカの音楽シーンから、コンサートのレポートとニュースをお届けします。

ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆、日本の戯曲の英訳も手掛け...
ノセダ&ナショナル響が満を持してプッチーニ「三部作」上演
今年2月、トランプ大統領政権がケネディ・センターを大改装するとして、7月4日からの閉鎖を発表した。そのニュースは、大統領の恣意的な行為が芸術分野にまで及んでいる象徴として、各方面に衝撃を与えた。
1971年の開館以来、同センターを本拠地としてきたナショナル交響楽団(NSO)は、マスコミ報道が出るまで閉鎖について知らされていなかったといい、6月になっても代替会場や来シーズンについて何の発表もできずにいる。音楽監督のジャナンドレア・ノセダとの契約も、いまのところ2026-27年までだ。そうした状況の中、NSOは2年ぶりとなるカーネギーホールでの演奏会を、5月3日にノセダ指揮で行った。
演奏されたのは、プッチーニの「三部作」。メトロポリタン歌劇場(MET)のために作曲した3本の1幕オペラから成る本作は、それぞれ舞台設定が大きく異なり、求められるキャストの性質も異なるため、音楽的にもコスト面でも上演が決して容易ではない。METでも2018年の世界初演100周年を記念した公演以来、上演されていない。
2017年の音楽監督就任以来、NSOのレヴェルを急速に引き上げたと評価されるノセダにとって、コーラスまで引き連れての今回の大規模なニューヨーク公演は、満を持してのものであったに違いない。なおNSOのオペラ全曲演奏はノセダ主導のプロジェクトの一つであり、ヴェルディ《オテロ》、バーバー《ヴァネッサ》に続いて今回が第3弾であるという。
はたしてノセダ率いるNSOは、《修道女アンジェリカ》の教会、《外套》の暗いパリの桟橋、そして《ジャンニ・スキッキ》の陽光あふれるフィレンツェまで、プッチーニの巧みなオーケストレーションを色彩豊かに聴かせてくれた。
この日は《外套》に先立ち、通常は2番目に演奏される《修道女アンジェリカ》が最初に演奏された。これについてとくに説明はなかったが、3作を通じてヒロインを歌ったエリカ・グリマルディが、もっともヴェリズモ的な表現が要求される《外套》で早くに疲弊することを避けたかったのかもしれない。理由がどうであれ、グリマルディはアンジェリカの悲痛な叫びから、底辺で喘ぐ《外套》のジョルジェッタ、《スキッキ》のコケティッシュなラウレッタまで、過不足ない歌唱を聴かせた。
そのほかのキャストも、ウィットに富んだスキッキ役のロマン・ブルデンコをはじめ充実していたが、かつてロッシーニなどのベルカント作品で活躍したグレゴリー・クンデが、《外套》のミケーレでドラマティックな歌唱を聴かせてくれたのはとりわけ嬉しかった。
なおワシントンD.C.の連邦地裁は5月29日、ケネディ・センターに追加されたドナルド・トランプ大統領の名前は違法に付けられたとして、2週間以内の撤去を命じた。連邦法によって名称が定められた同センターの名称変更には連邦議会の手続きが必要であり、(トランプ大統領子飼いの)理事会にはその権限がないというのが理由だ。同時にセンターを2年間閉鎖して大規模改修を行う計画も、判断過程が不適切だったとして一時差し止められた。
この訴訟はセンター理事でもある民主党議員によって起こされたものだが、6月2日現在、同センターのファサード(正面外壁)その他からトランプの名前は外されておらず、ウェブサイトでも「トランプ・ケネディ・センター」と表示されたままだ。

サンフランシスコ響とロサンゼルス・フィルの次期シェフが発表
ニューヨーク・フィルハーモニックは、ストラヴィンスキー《火の鳥》組曲を中心としたプログラム(4月30日〜5月2日)、サルサおよびラテン・ジャズのバンドであるスパニッシュ・ハーレム・オーケストラとの共演(5月6日〜9日)など、グスターボ・ドゥダメルがいかにも得意そうなプログラムを連発し、「新時代」のアピールに余念がない。そうした中、サンフランシスコ交響楽団は5月21日に、ロサンゼルス・フィルハーモニックは5月26日に、それぞれ次期音楽監督を発表した。
サンフランシスコ響が2027年からエリム・チャン(39歳)を迎えるというニュースは、同響115年の歴史にあって初の女性(しかもアジア人)という「快挙」であるものの、多様性を求めるここ数年の米国音楽界の動きに沿ったものとして、もはや大きな驚きではないかもしれない。むしろロサンゼルス・フィルが、ドゥダメルの後任として、同じく2027年からダニエル・ハーディング(50歳)を迎えるという発表のほうが意外だった。
ロサンゼルス・フィルと共に、ドゥダメルはラテン系人口が5割近い同地でコミュニティ・リーダーとしての地位を確立した。またドゥダメルの前任のエサ=ペッカ・サロネンも就任当時34歳と若く、最後まで作曲も手がける先鋭とのイメージを貫いた。彼らに比べるとハーディングは、キャリア初期こそ10代の若手として注目されたが、いまや少なくとも米国では伝統的な欧州の中堅指揮者という印象が強く、これまで米国での活躍も限られている。
もっともロサンゼルスはこの秋からサロネンをクリエイティヴ・ディレクターとして迎え、ドゥダメルも桂冠指揮者としてユースオーケストラを含むロサンゼルスとの関係を継続するという。そしてハーディングには、少なくとも就任当初はドゥダメルのような芸術監督のタイトルは与えられないということで、新たな関係性が模索されることになりそうだ。





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