レポート
2026.06.17
海外クラシックNEWS~from オーストリア

ヴェルディ幻のオペラ《スティッフェリオ》がアン・デア・ウィーン劇場で上演

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はオーストリアの4月の音楽シーンから、オペラとコンサートをレポートします。

取材・文
平野玲音 Reine Hirano
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平野玲音 Reine Hirano

オーストリア在住のチェリスト・文筆家。「平野玲音の演奏は、ピュアで豊かな音楽性によりウィーンの香りを客席まで運んでくれる。これはテクニック重視の現代の音楽界にあって大...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

アン・デア・ウィーン劇場《スティッフェリオ》から。序曲の間には、スティッフェリオの過去が舞台で紹介される ©Werner Kmetitsch

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スティッフェリオは、かの有名なヴェルディ作のオペラであるにもかかわらず、上演される機会が少ない。プロテスタントのある宗派の長であるスティッフェリオの妻リーナが不倫するという、19世紀のイタリアでは考えられない筋だったため、リハーサル期間中から検閲官に睨まれて、台本が大幅に変更された。

1850年に初演こそはされたものの、ヴェルディはこの変更に激怒して、6年後に作品を撤回し、《スティッフェリオ》の上演は不可能に。20世紀半ばになって、消失したと思われていた古い総譜が発見されて、遅まきながら日の目を見たというわけだ。

ヴァシリー・バルハトフの演出とクリスティアン・シュミットの舞台セットは、モダンな手法を用いつつ、躍動的な回り舞台で作品の奥へ奥へと導いていく、スリリングなものだった。スティッフェリオが過去にトランペット奏者だった設定にして、序曲の長いトランペット・ソロを吹く演技をさせていたのは名案で、牧師も一人の人間だという事実が自然に強調されていた。休憩中に舞台を覆うスクリーンに書かれていたのは、宗教集団アーミッシュの厳格な戒律で、それを読んでから観た後半では、リーナらへの同情を禁じえなかった。

不倫を知ってショックを受けたスティッフェリオは、牧師とは思えないほどリーナを激しく責め立てる。そんな彼が、信者たちに説教しようと聖書を開くと、何という偶然か――そのページは『ヨハネによる福音書』の8章、姦通の罪で捕らえられた女に関する箇所だった。イエスの言葉「あなたたちの中で罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい」を読むスティッフェリオも、(序曲の間に映像で流れたように)この演出では潔白ではない。その因果が巡り巡ってナイフで刺されるラストシーンは、「許すこと」の大切さをより強烈に訴えていた。

ルチアーノ・ガンチ(スティッフェリオ)ジョイス・エル=コーリー(リーナ)フランコ・ヴァッサッロ(スタンカー)、ジェレミー・ローレル指揮ウィーン放送交響楽団アルノルト・シェーンベルク合唱団ほか出演者が一体となり、ヴェルディの真骨頂たる心理描写を聴かせてくれた、濃密な2時間半だった。

ウィーン国立歌劇場にスパイアーズ(バリテノール)登場 ウィーン伝統の歌曲を聴かせる

ウィーン国立歌劇場におけるマイケル・スパイアーズのソロ・コンサートから ©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn

ウィーン国立歌劇場はオペラやバレエだけでなく、世界的な歌手たちによるソロ・コンサートも定期的に開催している。4月28日に、2025/26シーズンにおける当シリーズの最終回に登場したのは、バリテノールのマイケル・スパイアーズ(バリトン歌手であると同時にテノール歌手である、その二面性を際立たせるためなのか、プログラムではバリテノールの「B」と「T」を大文字にして「BariTenor」と表記されている)。

アメリカ生まれのスパイアーズは、2019年にウィーン国立歌劇場デビュー。2024年12月のプフィッツナー《パレストリーナ》再上演で、奥行きのあるタイトルロールを務めていたのはまだ記憶に新しい。フランスのピアニスト、マチュー・ポルドワの伴奏により、ウィーンの伝統の上に立った幾多の歌曲を披露した。

ベートーヴェン《アデライーデ》《遥かなる恋人に寄す》は、ウィーン古典派に合う優美な声とスタイルで、聴衆を気品に満ちた歌曲の旅に誘いだす。次のワーグナー《ヴェーゼンドンク歌曲集》は女声のために書かれた曲で、第1曲〈天使〉には――この声域で可能ならば――より軽やかな高揚感があってもよいと感じられた。そうした意味で第3曲〈温室にて〉は練れており、「Luft(空気)」や「Duft(香り)」を声音で見事に表していた。

スパイアーズの真価がフルに発揮されたのは、後半の1曲目、マーラー《さすらう若人の歌》において。伸びやかさと渋い暗さを併せ持つ声、知的で真摯な音楽作りが曲に合う。第3曲〈僕の胸の中には燃える剣が〉にはオペラティックな迫力があり、第4曲〈恋人の青い目〉の静ひつな悟りの境地を引き立てた。

リヒャルト・シュトラウス《4つの歌曲》op.27では、ポルドワの愛に満ちたピアノの響きも全開に。プログラムの最後に置かれたコルンゴルト《不滅であること》は、第1曲と第5曲が同じであるという点で、最後にピアノが冒頭部分を振り返るベートーヴェン《遥かなる恋人に寄す》と似通っている。このコンサートの「大きな輪」が閉じられて、アンコールにはシューベルト《音楽に寄せて》とコルンゴルト《ウィーンのためのソネット》が演奏された。

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平野玲音 Reine Hirano
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オーストリア在住のチェリスト・文筆家。「平野玲音の演奏は、ピュアで豊かな音楽性によりウィーンの香りを客席まで運んでくれる。これはテクニック重視の現代の音楽界にあって大...

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