
吹奏楽“バンドの個性”の見つけかた 〜ムネアツ曲やコンクールの現場を語る

楽器をこよなく愛する人たちにとっての夏の一大イベントのひとつが、「吹奏楽コンクール」。コンクールの現場には、いったいどんなドラマがあるのでしょうか。
今回は、吹奏楽コンクールを主催する朝日新聞の東京本社ネットワーク報道本部 吹奏楽・合唱チームリーダーの河原田慎一記者をお迎えし、「吹奏楽“バンドの個性”の見つけかた」をテーマに吹奏楽にまつわるお話を伺いました。

1959年創刊の吹奏楽専門誌。毎月10日発売。吹奏楽の今を追い続けて60年超、学校の吹奏楽部の現場への取材やプロ奏者へのインタビューをはじめ、指導のノウハウ、楽器上達...
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。
吹奏楽コンクールを支える記者が見てきた景色
——まずは、河原田さんのお仕事について教えてください。
河原田 朝日新聞東京本社ネットワーク報道本部で記者をしています。今年度から立ち上がった「吹奏楽・合唱チーム」のリーダーを務めていて、吹奏楽や合唱、ギター・マンドリンのコンクールを主催し、大会を盛り上げる記事を発信しています。東京と大阪で計6人のチームですが、学校への取材や大会現場での取材など、年間を通して活動しています。
——音楽専門のお仕事かと思いきや、それだけではないんですよね。
河原田 実は司法担当が長く、検察や裁判所の取材をしていました。コンクールシーズンになると音楽の取材に集中しますが、それ以外は裁判なども担当しています。
——河原田さんご自身も吹奏楽経験者だそうですね。
河原田 高校で吹奏楽部に入り、テューバを吹いていました。本当は中学から始めたかったんですが、顧問の先生が怖そうで(笑)。大学では音楽学を専攻しました。
会社に入ってからは20年近くブランクがあったのですが、3年前に、地元・京都の一般吹奏楽団へ入りました。コンクールを目指す団体ではなく、駅でのコンサートや「京都ビッグ・バンド・フェスティバル」など地域での演奏活動を楽しんでいました。今年春に東京へ転勤したので、今はお休み中です。
——今は関東で再開を検討中ですか?
河原田 楽器があればぜひ吹きたいですね。ただ、この仕事をしていると夏は本当に忙しくて(笑)。コンクールシーズンはなかなか練習に参加できそうにありません。

語りだすととまらなくなる、ムネアツ吹奏楽
——記者として数え切れないほどの演奏を聴いてきた河原田さんですが、「ムネアツになる吹奏楽曲」を挙げるとしたら?
河原田 課題曲なら、やはり名曲はたくさんあります。福田洋介さんの《さくらのうた》もそうですが、私が一番思い入れがあるのは、少し渋いですけれど、間宮芳生さんの《カタロニアの栄光》ですね。
和田 ああ、同じです! 《ベリーを摘んだらダンスにしよう》もいいですよね。
(一同笑)
間宮芳生:カタロニアの栄光
間宮芳生:ベリーを摘んだらダンスにしよう
河原田 ほかにも岩井直溥さんの《すてきな日々》とか、オリジナル作品なら、やはりアルフレッド・リードは外せません。《アルメニアン・ダンス》パートⅠ・Ⅱ、《春の猟犬》《エル・カミーノ・レアル》……もう、この話だけで終わってしまいそうです(笑)。
岩井直溥:すてきな日々
アルフレッド・リード:《アルメニアン・ダンス》パートⅠ・Ⅱ
アルフレッド・リード:春の猟犬
アルフレッド・リード:エル・カミーノ・レアル
河原田 昨年の全日本吹奏楽コンクールで、岡山学芸館高校吹奏楽部が演奏した《春の猟犬》は本当に胸が熱くなりました。作品そのものの魅力はもちろんですが、演奏の完成度も素晴らしかったですね。
高校時代の恩師は、現役のプロのファゴット奏者でした。吹奏楽だけでなくチャイコフスキーやオペラにも力を入れる先生で、その影響でラヴェル《ダフニスとクロエ》やコダーイ《ハンガリー民謡〈くじゃく〉による変奏曲》のような吹奏楽編曲作品にも惹かれるようになりました。
ラヴェル:ダフニスとクロエ(吹奏楽編曲版)
吹奏楽はクラシック音楽への入口だった
——吹奏楽コンクールでは、さまざまな国や時代の作品に出会えますよね。
関根 私も中学時代はラヴェルの《ダフニスとクロエ》や《スペイン狂詩曲》、R.シュトラウスの《サロメ》と、オーケストラ作品ばかり演奏していました。当時はストーリーも完全には理解できませんでしたが、作品に何か月も向き合うことで、自然と「好きな曲」になっていったんです。
ラヴェル:スペイン狂詩曲(吹奏楽編曲版)
R.シュトラウス: 楽劇《サロメ》より「7つのヴェールの踊り」(吹奏楽編曲版)
河原田 まさに吹奏楽が音楽の世界を広げてくれる入口ですよね。
和田 私たちの世代はレスピーギの《ローマの祭り》やオッフェンバック《パリの喜び》など、オーケストラ作品の編曲をきっかけに原曲を聴き始めた人も多いと思います。
レスピーギ:ローマの祭り(吹奏楽編曲版)
オッフェンバック:パリの喜び(吹奏楽編曲版)
——私もそうでした。中学生の頃、近隣の強豪校が《くじゃく》を演奏していて、それがきっかけでコダーイを知りました。吹奏楽を入口にクラシック音楽へ興味が広がっていく体験をした人は、本当に多いですよね。
和田 クラシックだけではありません。吹奏楽で超人気曲になったTスクエアの《宝島》やジャズのスタンダードナンバーであるデューク・エリントンの《A列車で行こう》、ミュージカル曲も、吹奏楽で初めて出会ったという人は少なくないでしょう。
和泉宏隆/真島俊夫編曲:宝島(吹奏楽編曲版)
デューク・エリントン:A列車で行こう
河原田 グレン・ミラーもそうですよね。本当に挙げ始めたらきりがありません。この話だけでも、ご飯3杯はいけます(笑)。
演奏を聴いて必ず"キラリ"を探す
——数多くの団体を取材してきた中で、演奏を聴くときに意識していることはありますか。
河原田 私の原点は、「どんな演奏にも必ずよいところがある」と思って聴くことです。
たとえば内声の動きが美しい、オーボエのソロがよく歌っている、音のつぶやき方が印象的だった……。どんな団体にも必ず”キラリ”と光る瞬間があります。それを見つけることを、一番大切にしています。
そして、「この記事で紹介したい」と思ったら、演奏が終わるやいなやホールを飛び出して学校を追いかけます(笑)。
関根 あのタイミングで席を立つのは、やっぱり葛藤がありますか?
河原田 ありますね。演奏を記事として残すためには、その瞬間を逃せませんから。「次の団体も聴きたい」と思いながら、それでも取材したい学校を探して、演奏した団体が乗るバスまで走ることもあります。

吹奏楽を通して社会を見つめる
——私たち『バンドジャーナル』は吹奏楽専門誌ですが、河原田さんは新聞記者として吹奏楽を取材されています。視点の違いはありますか。
河原田 新聞は、吹奏楽ファンだけではなく、一般の読者に向けて書くメディアです。だから演奏そのものだけではなく、部活動の地域移行や少子化、教育といった社会課題との接点も意識しています。
吹奏楽の主役は中高生です。彼らに直接話を聞けることには大きな意味があると思っています。音楽を通して子どもたちがどう成長していくのか。その姿を伝えることが、新聞ならではの役割だと考えています。
読者もさまざまで、今まさに楽器を演奏している子どもたちや保護者、社会人になって「昔やっていた」という人、さらに「今年はあの学校がどんな演奏をするのか」と毎年楽しみにしているコアなファンもいます。それぞれに響く記事を届けたいと思っています。
——実際にコンクールを取材して、演奏レベルの向上を感じました。選曲も本当に多彩になり、演奏技術も昔よりずっと高くなっています。一方で、部員数の減少には大きな衝撃を受けました。
私たちの学生時代はA編成が当たり前でしたが、現在ではフル編成で出場できる公立中学校は決して多くありません。今は、「よい演奏を届ける」ことと同じくらい、「子どもたちが音楽と出会える場所を守る」ことが重要なのではないかと感じています。
和田 新聞のような一般メディアが社会課題として取り上げてくださることで、吹奏楽に関わっていない人たちにも現状を知ってもらえる。その意義は本当に大きいと思います。
その一方で、「バンドジャーナル」としては、現場の先生方が試行錯誤して生み出している新しい取り組みや、逆境の中でも輝いている活動を積極的に紹介していきたいですね。
日本が世界に誇れる文化
河原田 コンクールを盛り上げることは朝日新聞社の使命ですが、それ以上に、子どもたちが音楽に触れる機会を守っていきたいと思っています。
少し大きな話になりますが、音楽は社会全体を豊かにする力があります。地域の文化を育て、人をつなぎ、結果として地域そのものを元気にする存在でもあると思っています。
——新聞社に入社されたのはそういう想いがあったからですか。
河原田 実は全然違うんです(笑)。入社当時はジャーナリズムを強く意識していたわけではなく、事件記者として長く働いていました。吹奏楽からもすっかり離れていました。
でも、コロナ禍や部活動改革、少子化などを目の当たりにする中で、「このままでいいのだろうか」という思いが強くなりました。吹奏楽を取り巻く環境は、もっと社会全体で考えるべきテーマだと思っています。
和田 私たちも、地域移行など環境は変わっても、子どもたちが音楽を続けられるしくみを紹介していきたいと思っています。
全国には素晴らしい先生方がいて、それぞれ工夫を重ねています。そうした知恵を共有し、指導者同士、学校同士をつなぐことも、専門誌の役割だと感じています。
河原田 吹奏楽がここまで全国に広がり、地域ごとに文化として根づいている国は世界的にも珍しいと思います。
子どもたちが吹奏楽を入口に音楽と出会い、仲間とつながり、コンクールという舞台で成長していく。この文化は、日本が世界に誇れる財産ではないでしょうか。
コンクールを聴く楽しみに目覚めよう
——吹奏楽コンクールは全国すべての都道府県で予選が行なわれ、支部大会、全国大会へと続く吹奏楽コンクール。実は誰でも客席から鑑賞することができます。
河原田 都道府県大会は、7月から各地で始まります。
ぜひ一日だけでも会場へ足を運んでみてください。本当に胸が熱くなります。子どもたちが緊張しながら全力で演奏する姿を見ているだけで涙が出てきますし、ご家族にとってもかけがえのない発表の場です。
——クラシックだけでなく、映画音楽やジャズ、ポップスまで、本当に幅広い音楽と出会えるのも魅力です。
河原田 特に小編成は今、本当に面白いですよ。
朝日新聞では今年も首都圏や関西を中心に大会を取材し、支部大会や全国大会まで幅広くリポートします。
大会前の展望記事や、大会後の座談会記事なども予定しています。今年は都立高校2校と埼玉県の高校を継続取材していて、成長を追う連載にも取り組んでいます。
──いよいよ吹奏楽の夏が始まりますね!
本記事の内容はポッドキャストでもご視聴いただけます!
「バンドジャーナル」では、支部大会から全国大会まで講評や結果を掲載しています。出演校だけでなく、他校の講評も演奏づくりのヒントになるはずです。
コンクール直前の7月号では「バテ対策」を特集し、8月号では本番直前の「身体と心の高めかた」や、「いい音程」とは何か、について深く掘り下げています。
コンクールを迎える皆さんに、ぜひ読んでいただきたい内容です。
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