レポート
2026.10.14
9月16日「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」演奏会シリーズ 第3回「内面としてのロマン派:シューベルト」

文化財の土浦亀城邸で聴く《建築家が聴いた音楽》は、聴き手を別世界へと運ぶ

建築家・土屋亀城(1897–1996)がどのような音楽を、どのような感覚で聴いていたのか。「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」は、昭和初期の住宅建築を代表する土浦亀城邸で、音楽作品を演奏し、対話によって思考を深める、全6回の対話型演奏会シリーズ。
9月16日(水)にひらかれたシリーズ第3回「内面としてのロマン派:シューベルト」の模様をレポートします。

伊熊よし子
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

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昭和初期の名作住宅で出会う、新たな音楽体験

東京・青山通りに面した一角に、建築家の土浦亀城・信子の自邸として1935年に建てられた、戦前日本のモダニズム住宅を未来へ繋ぐ意味で品川区上大崎長者丸から移築された建物が存在する。土浦邸は現在ポーラ青山ビルディングの敷地の南側に位置し、文化財として復元され、一般公開も行われている。

その土浦邸で、「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」と題した親密なコンサートが2026年5月から開催されている。土浦亀城はバッハから20世紀音楽にいたる幅広いジャンルの音楽を好み、聴き続けた人物。その思いに寄り添うよう、多種多様なプログラムが組まれている。

第3回の9月16日には「内面としてのロマン派:シューベルト」と題し、片野耕喜(テノール)、小川加恵(ピアノ)、久保田慶一(総合監修・ナビゲーター)により、シューベルトの歌曲とピアノフォルテの演奏が行われた。

コンサートは「野ばら」「鱒」で幕開け。「水車小屋の娘」「冬の旅」から選ばれた曲も登場し、ピアノ五重奏曲「鱒」のピアノフォルテによる演奏もあり、ナビゲーターの懇切丁寧な解説に続いて次々とシューベルトの名旋律が紡がれていく。土浦邸の居間は、天井まで窓が大きくとられ、外には街路樹が姿を見せる。かぐわしく説得力のある片野耕喜の歌声に、小川加恵の奏でるシューベルト時代の1790年後半の5オクターブ61鍵のピアノフォルテ(クリス・マネのレプリカ)の古雅な響きが絶妙に調和し、聴き手は窓の外で揺れる木の葉を眺めながら、別世界へと運ばれる。なんという至福の時だろうか。仕事のストレスや日常をしばし忘れ、聴き手の心は天空へと飛翔していく。

休憩時間にはピアノフォルテ(クリス・マネはベルギーのピアノ製作家で、歴史的な鍵盤楽器の復元も手掛ける)の周りに聴衆が集まり、奏者から音色を変えるモデラートストップなどの機構について話を聞くことができた。

後半はシューベルトにシューマンの「詩人の恋」が加わり、テノールの幾重にも変容し、詩の内容を突き詰めていく姿勢に貫かれた歌声は洞察力を深め、ピアノフォルテの演奏も音色とアーティキュレーションが複雑さを増し、その時代のサロンで聴いているよう。

久保田氏が「土浦邸の内的な空間において、シューベルトやシューマンと詩人たちが醸し出すロマン主義の音楽と詩の内面を味わってほしい。聴き手の内面が広がり、新たな自己の発見につながるのではないか」と語っていたが、まさに新しい音楽の聴き方に出会う感覚を抱き、想像性と創造性が広がった。

公演データ
「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」演奏会シリーズ 第3回「内面としてのロマン派:シューベルト」

日時:2026年9月16日(水)

①昼の部 14:00開演

②夜の部 19:00開演

会場:土浦亀城邸  土浦亀城邸について

曲目:

F.シューベルト:歌曲「君がここにいたことを」(F.リュッケルト)

同:歌曲「ガニュメート」(J.W.v.ゲーテ)

同:歌曲「鱒」(C.F.D.シューバルト)

R.シューマン:『詩人の恋』より「君の目に見入ると」(H.ハイネ)他

出演:

久保田慶一(総合監修・ナビゲーター)

片野耕喜(テノール)

小川加恵(フォルテピアノ)

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伊熊よし子
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

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