
山田和樹がベルリン・ドイツ交響楽団の「シンフォニック・モブ」で ベルリン市民と共演

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は、ドイツ・ベルリンの音楽シーンから6月のコンサートをレポートします。

1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポス...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
ベルリン・ドイツ交響楽団は、アマチュア音楽家が誰でも参加できるフラッシュモブ形式の演奏会「シンフォニック・モブ」を毎年開催している。6月20日、ポツダム広場のソニーセンターで行われた今年の公演に、次期首席指揮者の山田和樹が登場した。
この「シンフォニック・モブ」は、いまでは他の場所でも行われているが、2014年のベルリン・ドイツ響が発祥。今回はオーケストラと合唱を合わせて総勢800人ほどが参加したという。この5月、東京芸術劇場で水野修孝の超大曲《交響的変容》を指揮して反響を呼んだ山田に、ベルリン市民を巻き込んでの野外公演を初めて指揮する意気込みを聞いた。
「いまの時代、こうして人が実際に集まってなにかをやるということ自体に意義を感じています。セキュリティや規制でとかく人が集まりにくい世の中ですが、それを超えて、ポジティヴなエネルギーを生み出せるのは音楽の特別なところだと思います。人が集まる力が戦争など悪いほうへではなく、よいほうへ向かう……。大作曲家たちもきっとそういう思いで名曲を書いてきたはずです」
15時半の開演に合わせて行くと、山田とオーケストラ、合唱がモーツァルト「レクイエム」から「怒りの日」、ビゼー「《アルルの女》組曲」の〈ファランドール〉などを演奏していた。フラッシュモブをもじった「シンフォニック・モブ」だが、ただ突然集まるイヴェントではなく、事前に楽譜を配布し、応募したアマチュア奏者・合唱がプロと一緒に演奏を作り上げる仕組みである。Tシャツ姿で指揮する山田とアマチュア音楽家の共演を聴きながら、ポジティヴなエネルギーが伝わってきた。
危機一髪!ペトレンコ指揮ベルリン・フィルのヴァルトビューネ公演

6月は野外公演が盛んになる季節である。その代表格であるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のヴァルトビューネ公演は、気候変動時代の野外コンサートの難しさを感じさせる一夜となった。
開催日の6月27日の週末は、最高気温38〜40度というベルリンでは超異例となる酷暑の予報が出ていた。そのため、主催者側は持ち込める水の量を増やし、現地でも飲み水を無料で補充できるようにするなど、聴衆に配慮をした。しかし、それでも筆者が会場入りした18時半の時点で38度。森の谷に座る観客が、持参した扇子や紙を一斉にあおる光景はかつて見たことがない。
そんななかでも、ベルリン・フィルは長袖の黒服で臨み、キリル・ペトレンコの指揮も、ヨナス・カウフマンの歌唱も、じつに研ぎ澄まされたもの。ようやく少し気温も下がってきて、後半への期待が高まろうとしていた。
しかし、レスピーギ《ローマの噴水》が終わった直後、楽団インテンダントのアンドレア・ツィーチュマンがマイクを持って現れた。「天候悪化の予報が出ており、20分の休憩時間を5分に短縮させてもらいたい」という内容だった。嫌な予感は現実のものとなる。プログラム最後のレスピーギ《ローマの松》の第1曲が終わった静かな箇所で、雷が光ったのだ。このころから退出する人の姿が目立ち始める。雷がそう遠くない場所で光る度に、もしここで激しい雷雨に襲われた場合、逃げ場のない2万人の聴衆はどうなるのだろうと想像をして、いささか怖くなった。
こんな状況でも、ペトレンコとベルリン・フィルの集中力は途切れることがない。〈ジャニコロの丘〉のクラリネット・ソロのたっぷりとした歌、そして〈アッピア街道の松〉でのたたみかけるような演奏は圧巻だ。最高潮に盛り上がり、カウフマンがアンコールで《カタリ・カタリ》を歌った直後、マイクを持って聴衆に呼びかけた。
「雷雨が近づいています。安全上の理由から、残念ながらこれ以上公演を続けられません。《ベルリンの風》は、どうか帰る支度をしながらお聴きください!」
ひょっとしたら恒例の《ベルリンの風》を演奏しないのではという不安をもった直後だっただけに、安堵が混じり合った喝采が起きる。そして終演後、筆者がバスに乗り込んだわずか数分後に、大雨が降り始めたのだった。20分の休憩時間を5分に短縮した主催者の判断は正しかった。と同時に、一昔前は想像もしなかった酷暑の野外コンサートの難しさに、ドイツでさえ直面しつつあるのを肌で感じた。





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