連載
2026.07.17
月刊誌『音楽の友』連動企画 フレッシュ・アーティスト・ファイル 【Q&A】

本堂竣哉さん(ピアノ)ーー小説家、考古学者のように音楽をしたい

月刊誌『音楽の友』で、若手演奏家を紹介している連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」。当記事は雑誌のインタビューとはひと味ちがう切り口で、20の質問を通して演奏家たちの素顔を紹介していきます。第20回は、ピアニストの本堂竣哉さんにご登場いただきました。

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

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2003年、北海道北見市出身。2022年に開催された「第9回野島稔・よこすかピアノコンクール」では、本選でJ.S.バッハ《ゴルトベルク変奏曲》を演奏、第1位を獲得したことで大きな注目を集めました。ここではそんな本堂さんの音楽観にとどまらず、文学や映画、そして社会へと注がれる真摯なまなざしと、その思考の深淵に迫ります。

本堂竣哉(ほんどう・しゅんや)
5歳のとき、グレン・グールドのJ.S.バッハ《ゴルトベルク変奏曲》に衝撃を受け、以来バッハの音楽に魅了され続けている。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学音楽学部ピアノ専攻卒業。ピアノを伊藤恵、大平由美子らに師事。
22年5月、第9回野島稔・よこすかピアノコンクール本選にて《ゴルトベルク変奏曲》を演奏、第1位を獲得。22年6月、すみだトリフォニーホール大ホールにて行われたマルタ・アルゲリッチ&辻彩奈公開ワークショップをヴァイオリンとピアノのデュオで受講、アルゲリッチより絶賛を受ける。24年2月、紀尾井ホール『明日への扉』シリーズに出演。
アンドレイ・タルコフスキーとアキ・カウリスマキの映画のファン。ジョン・レノンとオノ・ヨーコが建国した仮想国家ヌートピアの国民。

子どものころの夢をすべて叶えた!?

Q1 好きな食べ物は?

ハンバーグ。最近はインドカレーやビリヤニにもハマっています。昔は得意ではなかったのですが、友人が美味しそうに食べているのを見て、僕も好きになりました。

Q2 苦手な食べ物は?

あまりないですね。以前は酢玉ねぎが苦手でしたが、克服しました。辛いものは得意ではないのですが挑戦し、インドカレーで訓練しています。

Q3 本番前の勝負メシはある?

本番前に食べるのは、コンビニで売っているひとくちサイズのサンドイッチです。一気にお弁当などを食べてしまうと、集中力が切れて眠くなってしまうので、あのサイズ感がちょうどよいですね。

Q4 出身の北海道・北見市(旧・端野町)はどんな場所?

山に囲まれた盆地で、夏は暑く、冬は雪がたくさん降るところです。見渡すかぎりに、お米やじゃがいも、玉ねぎの畑が広がっていて、スキー場も近所にありました。隣町へ行くには文字どおり山を越えなければならないほど、自然に囲まれた場所です。

Q5 小学生のころ、好きだった教科は?

社会(歴史)です。 とくに鎌倉時代が好きで、当時は『方丈記』に惹かれていました。古典が得意だったわけではないのですが、感性的に通じ合うものを感じていました。

Q6 小さいころの夢は?

じつは小さいころから「将来の夢」を聞かれるのが苦手で…… まだなれるかもわからないものについて答えるのが嫌で…… 。でもピアニスト以外のものを答えると、みんなが「ピアニストじゃないの?」って聞いてくるので、建前で「ピアニスト」と答えていました(笑)。

小学校高学年くらいのころ、親から「ピアニストになるのは難しいよ。なにかほかにやりたいことはないの?」と聞かれたとき、ここでは正直に「小説家か、考古学者か、音楽家」と答えたのですが、「どれも同じくらい大変だね(笑)」といわれましたね。ですが、いまになって考えてみるとピアノを弾き、音楽をするという仕事は、半分が「小説家」で、もう半分が「考古学者」のようだなと。私は子どものころの夢をすべて叶えているのかもしれません。

Q7 自身をどんな性格だと思う?

「こういう性格」と言葉にするのは難しいですが、作品を通じて「この人は絶対に僕と似ている!」と感じる人物が、ベートーヴェン、ジョン・レノン、小説家の大江健三郎です。

自分がやりたいことに対して、周りが見えなくなるほど一気にのめり込んでしまうところが似ているかなと思います。内に隠す「熱血さ」のような部分で、深く共鳴します。

将来の夢の話の流れで、「いまもピアニストでありたいとは 1ミリも思っていないのです」と本堂さん。「音楽をしたいから、音楽をしている」という感覚だと話す

自然な気持ちで音楽と向き合う

Q8 好きな作曲家は?

J.S.バッハとベートーヴェンです。

ベートーヴェンは、「Q7」で答えたように自分と似ている感覚があって好きです。いっぽうバッハは、「天体を見て、宇宙の広大さに圧倒される」という感じです。

Q9 今後、挑戦してみたい作品は?

いつかベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲と、J.S.バッハの作品すべてを演奏したいです。

Q10 憧れのアーティストは?

グレン・グールドと、小林道夫先生です。

グールドは私にとってずっと特別な存在です。最近は自宅で音源を流すことは減りましたが、時折ふと聴き返すと「これだ」と思わされる。グールドが好きすぎて、小学生のころ、グールドから電話がかかってくる夢をみたことがあります。日本語で「これからそっちに行きます」といわれました(笑)。

小林先生は人格者で、憧れの存在。先生の演奏する姿を見ていると、余計な力が入っていないのに、驚くほど豊かな音が生まれてきます。

そのお姿を見て、僕も本当の脱力を知りました。いまは小林先生を見て、自分の演奏スタイルをゼロから作り直している最中です。

Q11 練習前のルーティンはある?

基本はないですね。その日に弾きたいものを弾く。そうでないと練習が嫌になってしまいますから(笑)。

たまに『ハノン』の1番から20番を弾いてから練習をすると、パラパラのチャーハンのように指が動くようになってよいですね。「20番」までというのがポイントです。

長期休みのときは、練習を始めるときにJ.S.バッハ《平均律クラヴィーア曲集》を必ず6曲弾くようにしていたことがあります。毎日味噌汁を飲むように、コンスタントに続けることで、心が浄化され「よし、やるぞ」という気持ちになれます。

Q12 練習を「つらい」と感じることはある?

いつもつらいですよ(笑)。

ただ、最近は考えかたが少し変わって、練習が楽しくなってきました。ずっと私の心に残っている教育者の言葉があります(エドヴィン・フィッシャーだったと記憶しているのですが……)。その教育者は、生徒に対して「練習」という言葉を使わず、こう問いかけるそうです。

「今日はもう、音楽をしましたか?」

この「音楽をしましたか?」という言葉がとても好きで。「今日も音楽をしよう」という気持ちでピアノに向かうと、義務ではなく、とても自然な気持ちで音楽と向き合える気がします。

演奏する際の脱力について、「私を東京藝術大学に導いてくれた先生が教えてくれた素敵な表現があります『スープにパセリを落とすように、鍵盤に指を落とす』。ピアノを弾くときは、腕や指の力でコントロールするのではなく、自然に、音そのものに歌わせることがなにより大切なのだと感じています」(本堂)

文学と映画への深いまなざし

Q13 自身の世界観を変えた「言葉」はありますか?

大江健三郎の小説『燃えあがる緑の木』に出てくる、「一瞬よりはいくらか長く続く間」という言葉です。

作中、ある登場人物が死を恐れる少年に向かって、人が人生の最後に思いだすのは、永遠に近い時間に対する、かつて目にした「一瞬よりはいくらか長く続く間」の景色なのではないかと語りかけます。それは、たとえば信号を待つ間、シュガーメイプルの紅葉や茂りを眺める時間のような……。

この言葉を知ってから、私も日々の生活の中で、その「一瞬よりはいくらか長く続く間」の景色を心に留めておこうと思うようになりました。

Q14  お気に入りの本は?

大江健三郎の『燃えあがる緑の木』と、『二百年の子供』です。

『二百年の子供』は、子どもたちが百年前の過去と百年後の未来を旅する物語です。作中で父親が”私らはいまを生きているようでも、いわばさ、いまに溶けこんでる未来を生きている。「いま」にふくまれる未来を見ようと思い立ってね”と語るのですね。

この「いまに溶けこんでる未来」という表現に、深く感動しました。

Q15 文章を書く上で大江健三郎から受けた影響は?

推敲へのこだわりでしょうか。大江氏は、最初に原稿をバーっと書いて、それを執筆時の3倍以上の時間をかけて直していくそうです。

私も実際にやってみると、最初に書いた文章がいかに拙いかがよくわかりました。ピアノの練習と同じで、整理して、書き直していく作業を重ねていくことで、文章はよくなっていきますね。自分の語りたいことをどういう構造、文体、経緯で書くのかを考える時間は楽しいです。

Q16 趣味はある?

古い映画を観ることです。

Q17 好きな映画を教えて。

とくに好きな映画は、『枯れ葉』(監督:アキ・カウリスマキ)、『ノスタルジア』(監督:アンドレイ・タルコフスキー)、『ミツバチのささやき』(監督:ヴィクトル・エリセ)、『ひなぎく』(監督:ヴェラ・ヒティロヴァ)です。

『枯れ葉』は、日常の愛おしさ、いまこの瞬間が大切であると教えてくれます。『ノスタルジア』は、最初に観たとき、映画はここまでの次元の芸術作品になるのかと…… グレン・グールドの弾く《ゴルトベルク変奏曲》を聴いたときと同じくらいの衝撃を受けました。『ミツバチのささやき』は子どもの感覚世界が描かれていますが、とくにオルゴール時計を開けて閉じるシーンが好きですね。『ひなぎく』は、じつは共産主義体制への批判が描かれているところがすごく恐ろしい、すさまじい映画です。

Q18 会ってみたい作曲家は?

ブラームス。彼はきっとあたたかい人、ですが同時に深い寂しさも抱えて生きた人だと思うのです。僕もその寂しさがすごくわかる。もし会えるなら、抱きしめたいですね。

Q19 これまで音楽を続けてこられた理由は?

幸運だったからだと思います。小林道夫先生をはじめ、すばらしい先生がたに恵まれました。

かつてお世話になった楽理科の先生が、「研究をしていると、対象の向こう側から『よし、お前に任せたぞ』と握手をしてくれるような瞬間がある」とおっしゃっていました。

《ゴルトベルク変奏曲》を演奏して「野島稔・よこすかピアノコンクール」で第1位をいただけたこと、記念公演も同じ曲を演奏させていただけたこと、そして小林先生と出会えたことは、《ゴルトベルク》から握手してもらえたからこそだと感じています。僕はやっぱりこの曲と生きていくのだなと感じます。

Q20 20年後どうなっていたいですか。

自分がどうなっているかよりも、「世界がどうなっているか」のほうが心配です。なぜなら、5年前からは想像もつかなかったほど、世界情勢は急速に悪化しています。この先なにが起こるのか、恐ろしくてたまりません。

心から願うのは、「自由に音楽をして、自由に発言ができ、ミサイルが飛んでこない世界であってほしい」ということ。かろうじて発言ができるいまのうちに、平和への願いや社会への違和感を発信し続けることが、不条理な力に対するささやかな抵抗だと思っています。

7月の《ゴルトベルク変奏曲》のリサイタルでは、自身でプログラムノートを執筆
本堂竣哉さんInformation
本堂竣哉(ピアノ)×ベーゼンドルファー Model 25

日時・会場:7月23日19時・TOPPANホール

曲目:J.S.バッハ《ゴルトベルク変奏曲》

問合せ:TOPPANホール チケットセンター 03-5840-2222

 

月刊誌『音楽の友』Information

『音楽の友』2026年7月号(6月18日発売)の連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」では、本堂竣哉さんのインタヴュー記事を掲載。ぜひ併せてご覧ください!

「音楽の友」2026年7月号記事詳細はこちら

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