
マツーエフ提唱「グランド・ピアノ・コンクール」 協奏曲で「音楽的対話能力」を競う

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はロシア6月の音楽シーンから、モスクワで行われたコンクールのもようをレポートします。

ロシア国立サンクト・ペテルブルク音楽院正規学部卒業。2008年からサンクトペテルブルク在住。サンクトペテルブルク、モスクワなど現地での演奏活動や取材を通じ、ロシア音楽...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
2016年に、ピアニストのデニス・マツーエフが発案して創設された「グランド・ピアノ・コンクール」。従来のピアノ・コンクールがソロ演奏での審査を踏むのに対して、本コンクールの最大の特徴は、すべての参加者がオーケストラと共演する機会を持つことだ。「実際の演奏現場における音楽的対話能力」があるかどうかを焦点に競い、出場者はコンクールの初期段階からオーケストラと共演する。だから、「育成型プロジェクト」としての性格を強く持つコンクールである。演奏の完成度だけでなく、職業音楽家としての、オーケストラと仕事ができるだけの反応力や演奏中のコミュニケーション能力を審査する点で、とてもユニークであろう。
コンクール創設以来2年周期で開催され、すでに多くの若手ピアニストを輩出してきた。歴代の受賞者のなかには、国際コンクールや世界の主要ホールで活躍する演奏家へと成長した例も多く見られる。コンクール効果(受賞して仕事が来る期間)は2年といわれるなか、その後羽ばたいて、音楽家としてのキャリアを自ら作りあげている人が多い。
このコンクールの第5回が、6月13日から19日まで行われた。ドミトリー・ユロフスキー指揮によるスヴェトラーノフ記念ロシア国立交響楽団との演奏で、ロシア作品を中心とした演目が並ぶ。
6月13日にはチャイコフスキー・コンサートホールにて、コンクール開幕を飾るガラ・コンサートが開催された。ピアニストであり、コンクールの監督を務めるデニス・マツーエフを筆頭に、歴代受賞者たちが共演するというものだった。
ここではショスタコーヴィチ、プーランク、アレクサンドル・チャイコフスキーの作品が演奏された。コンクールの本番でもロシアものが多く取り上げられていることが特徴だ。
第5回ともなると知名度を得てきており、会場は満員だった。ロシアの音楽ファンは新人に対してとても温かい。もちろんすでにキャリアを重ねた音楽家の演奏会にも足を運ぶのだが、それ以上に、コンクールや若手音楽家の演奏会に積極的に出向く傾向が強い。応援しようという気持ちもさることながら、新しい音楽家の誕生を一目見ようという気持ちをもつ聴衆が多いように思われる。今回のコンクールに限らず、どこでもそう感じるので、これはロシアの音楽ファンの特徴なのではないか。

今回は前半に、ショスタコーヴィチ「バレエ《ボルト》」から「マーチ」と「タンゴ」がオーケストラによって序曲的に演奏された。この選曲もおもしろかった。ソ連時代の官僚を風刺した作品で、音楽も嘲笑的なところがあり、とても新鮮であった。
続いて、プーランク「2台のピアノのための協奏曲」を、2024年のグランプリだったレフ・バキーロフ(16歳)と2024年の受賞者エリセイ・ミシン(16歳)が共演して披露した。受賞当時が14歳なので、コンクールが次世代音楽家の発掘に積極的であることがうかがえる。まだあどけなさの残る少年とも呼べる二人からダイナミックな音色が紡ぎ出されると、ときおり会場からは感嘆の息が漏れ聞こえた。オーケストラの音をよく聴いているだけでなく、アイコンタクトをしている様子も微笑ましい。将来のロシア音楽界を支えていく逸材としての、存在感を見せつけていた。
2024年のもう一人のグランプリであったキリル・ロゴヴォイ(19歳)と、2023年のチャイコフスキー・コンクール・ピアノ部門第1位であり、2018年の本コンクールで6つの特別賞を受賞して2021年にグランプリを獲得したセルゲイ・ディヴァチェンコ(22歳)が、アレクサンドル・チャイコフスキーの「2台のピアノと管弦楽のための協奏曲」を演奏した。より安定した演奏で、会場は大満足だった。
最後にマツーエフが登場し、トランペット・ソロのアレクサンドル・ベハレフとともに貫禄のあるショスタコーヴィチ「ピアノ協奏曲第1番」を披露して、会場をさらに沸かせた。このコンクールは若きピアニストたちの出発点であると同時に、ロシア音楽会を盛り立てる火付け役としての機能があるようにも感じた一夜だった。





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