読みもの
2021.02.26
連載「じっくりショパコン」第3回

ショパン国際ピアノコンクール予備予選から本選までの課題曲と審査方法の全貌を解説!

音楽コンクールの最高峰、ショパン国際ピアノコンクール、略してショパコン。連載「じっくりショパコン」では、2021年に延期となった第18回ショパン国際ピアノコンクールをより楽しむべく、ショパンについて、そしてコンクールについて理解を深めていきます。
第3回は、予備予選から本選までの課題曲と審査方法を一挙解説! コンクールの全貌をつかみましょう。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

ショパン国際ピアノコンクールの会場、ワルシャワ・フィルハーモニーのロビーでコンクールを見守るショパン。
編集部撮影

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こちらの連載、冒頭から「ショパンらしい演奏とはなにか」を審査員に伺うというディープな内容で飛ばしてまいりました。しかし、ここで一度、ショパン国際ピアノコンクールの課題曲や審査の流れなど、全体像についておさらいしたいと思います。

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5年に1度、ポーランドのワルシャワで行なわれ、2020年10月に第18回の開催が予定されていたショパン国際ピアノコンクール。昨年3月に書類&音源選考の通過者が発表されたのち、本大会は1年延期されることとなりました。今年に入って、4月に予定されていた予備予選の延期も発表され、2021年7月に開催するということで準備が進められています。

1932年開催の第2回ショパン国際ピアノコンクール審査員。真ん中の女性はマルグリット・ロン。ゲスト審査員にはモーリス・ラヴェルの名も。

課題曲~あらゆるショパン作品を課され、ショパン弾きとしての実力があらわに

予備予選 164名が演奏

・指定のエチュードから2つ

・指定のノクターンまたはエチュードから1つ

バラード第1番〜第4番、舟歌、幻想曲から1つ

・指定のマズルカから2つ

予備予選(2021年7月12日〜23日)には、書類&音源審査に通過した164名が参加を許可されています。

広義の意味の技術力が試されるショパンのエチュード、ポーランド人であるショパンの精神の理解が試されるマズルカ、そして中規模の作品の構成力や歌心が試されるバラード他で、ショパン弾きとしての素養が、いきなり全体的にチェックされることになります。

この審査に通過したコンテスタントと、すでに発表されている予備予選免除者(指定のコンクールの上位2位までの入賞者)の計80名が、10月の本大会(2021年10月2日〜23日)に出場できることになります。

各ステージは、下記の課題曲、参加人数で行なわれます。

本大会【ステージ1】80名が演奏

・指定のエチュードから2つ

・指定のノクターンまたはエチュードから1つ

バラード、舟歌、幻想曲、スケルツォから1つ

本大会【ステージ2】40名が演奏

バラード、舟歌、幻想曲、スケルツォ、幻想ポロネーズから1つ

※ステージ1でスケルツォを演奏した場合は、それ以外から選ぶ

・指定のワルツから1つ

・アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズポロネーズOp.44、ポロネーズOp.53、ポロネーズOp.26から1つ

・その他ショパンの作品で、演奏時間が30〜40分となるようにする

※時間がオーバーした場合、審査員が演奏を止めることがある

アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズ、ポロネーズOp.44、ポロネーズOp.53、ポロネーズOp.26

本大会【ステージ3】20名が演奏

・ピアノ・ソナタ第2番、ピアノ・ソナタ第3番、24のプレリュードから1つ

・指定の作品番号のマズルカを1セット

・その他ショパンの作品で、演奏時間が45〜55分となるようにする

 ※時間がオーバーした場合、審査員が演奏を止めることがある

ショパン:ピアノ・ソナタ第2、3番

【ファイナル】10名が1曲のみ演奏

・ピアノ協奏曲第1番、第2番のいずれか

序盤では技術的な確かさをはじめ、ショパンらしい小品や中規模の作品の演奏スキルが試され、後半にいくにしたがって、大規模な作品の構成力や晩年の作品の理解力まで求められるという展開。

そして、ファイナルではワルシャワ・フィルとの共演で協奏曲を演奏します。

ショパンの協奏曲は、20歳で書いた2曲しかありません。その華やかさから1番を選ぶ人が多数。過去の優勝者にも1番を弾いた人が圧倒的に多いので、優勝を狙っている人は1番を選びがち、といえるでしょう。

楽譜は複数の版を研究する必要も

また、楽譜は現存するどんな版を利用しても良いとされていますが、2005年以来、推奨はナショナル・エディション(エキエル版)となっています。

ショパンの楽譜には、自筆譜、写譜や初版、後世のピアニストによる版などさまざまなバージョンがあります。さらには、ショパンが弟子のレッスンで残した書き込みという、有力な情報も存在。

そんななかで、ポーランドを代表するショパン研究者のヤン・エキエルが中心となって編纂し、2010年に全巻がそろったのが、このナショナル・エディションなわけです。

ナショナル・エディション(エキエル版)の表紙

細かな指示はもちろん、曲順や音まで違うことがあるので、広く普及しているパデレフスキ版による演奏を聴き慣れていると驚くこともあります。

ここでピアニストに求められるのは、こうしたさまざまな版、ショパンの自筆譜やその他の資料まで研究して、自分が正しいと思うものを確信を持って弾くということ。それが演奏の説得力につながるといえるでしょう。

気になる審査方法は?

審査の方法についても見ていきましょう。

まず、いずれのステージでも、審査員は自分の教え子には点数を入れることができません

ステージ1から3では、審査員は、各コンテスタントに、次のステージに進むべきか否かのYES/NOと、1〜25ポイントの点数をつけます。YESの数が多い順に、得点の平均点を添えたものが並び、名前を明かさない状態で次のステージへの通過者が決定されます。

ただしステージ3のあとは、9番手から12番手について、審査員の過半数がコンテスタントの名前を知りたいとした場合、名前を見たうえで、10名のファイナリストを決定するとのこと。

1937年に開催された第3回ショパン国際ピアノコンクールのステージ3の様子。左側に審査員が座っている。
©Koncern Ilustrowany Kurier Codzienny

ファイナルでは、1点を最高点として1から10までの点数を各コンテスタントに投票。これは、コンクールの最終順位という想定で、これまでのステージの演奏も考慮にいれたうえでつけられる点数です。

そして最終的には6名までに順位が与えられ、彼らはショパンコンクール入賞者として、歴史に名を刻むこととなります。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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