読みもの
2025.02.09
特集「推しの見つけ方」

推し活を始めよう!〜自ら沼にハマりに行くくらいがちょうどいい

気づいたら沼っていた……という推し活ももちろんありますが、日々の癒しや楽しみのために推しを見つけて自らハマっていく推し活もあり! 数々のアーティストに取材をしてきた音楽ライターの高坂はる香さんが、推しと出会うおすすめの方法を紹介します。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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毎日のわくわく、息抜き、癒しを求めて自ら推しの沼へ

結婚して2児の母となった幼なじみと久しぶりに会って話していたときのことです。何かの話の流れで、彼女はこう言いました。

「私、推しを見つけたいんだよね」

私はその発言に、一瞬混乱しました。

推し活というのは、この人いいなと思って見ているうちに気づいたらどハマりしてしまい、活動を追いかけたりサポートしたりすることを言うのではなかったのか? 自ら推し活しようと探すものだったのか? そんな“沼を探して自らあえてはまりにいく”なんていうことがあるのだろうか……!?

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昔から何かの追っかけをするようなところは一切なかった友人です。一体どういうことなのか聞いてみると、曰く、子どもが手から離れてきた今、何か毎日わくわくする出来事がほしい、とくに娘が年頃になってきたので、一緒に応援できる何かがあればより楽しそうだ、と考えるようになったとのこと。たしかに、推しの情報を見ることが日々の息抜きや癒しになり、イベントを楽しみにすることで気分が上がるだろうから、その対象があるのは幸せなことに違いありません。

一方で、子育てや仕事で忙しくしていると、推したくなる魅力的な対象を発見する機会がなかなかないというのも現実。だからこそあえて推し活宣言をして、推せる人を探す。それも一つの方法なのかもしれません。

ライターはそんな、みなさんに日常の喜びを与える“推したくなる相手”との出会いを助ける情報を発信する立場でもあります。とはいえ私自身、推し活をするスタンスから遠い人間なので(何かに憧れて入れ込む神経がしんでいるらしい)、こういうことが人の心を捉えるのか! と、関係者や読者の方の反応を興味深く拝見しているところがあります。

コンクールで初期から応援し続ける

そのなかでやはり大切な「推し」発見の機会となっていると感じるのが、コンクールです。音楽に順位がつくという意味で功罪があるのは間違いないですが、いわば全聴衆が「私にハマる人オーディション」を独自開催し、好きな演奏家を見つける機会ともいえるでしょう。

スターを追うのもよいけれど、自分の感性を揺さぶる才能を自分の耳で見つけ、応援する楽しさはまた特別です。その演奏家がのちに大スターになれば(一抹の寂しさは感じつつも)誇らしいでしょうし、堅実に興味深い活動を続けてくれたらそれもまた推しがいがあるというもの。

ちなみに多くの良心的な演奏家のみなさんは、広く注目される前から応援していた人のことは大切にしてくれるものだと思います。私自身も取材をする立場として、大コンクールの場で初期ステージから注目して声をかけていたピアニストは、その後スターになったとしても、「優勝したから急に寄ってきた大人」とは少し違うスタンスで接してくれている……ような気がする。逆に相手がスターになると、私などが取材しなくてもメディアが放っておかないからと少し離れてしまうこともあったりするのが、“推し活の神経がしんだ人間”の悲しい性ではあるのですが。

ただ、しみじみ、立派になったねぇと心の中でつぶやきながら眺める喜びは永遠に続きます。

ホールのお得なシリーズセット券でいろいろな公演へ行こう

予期せぬ“推せる相手”との出会いは、もちろん普通のコンサートでもあり得ます。とはいえ一度も聴いたことのない演奏家のチケットをカンを頼りにあれこれ買うのは、そうできることではありません。

そこで一つおすすめしたいのは、「裏にいる企画担当者さんのセンスが自分の趣味に合っていそうなホールのシリーズセット券を買ってみる」というもの。担当者さんたちは常に良い演奏家を探しています。近年は、こだわりのある担当者が推したい人を自信を持ってブッキングしてくれるホールも増えてきました。

いつもやたら凝ったいいラインナップだなと感じるホールで、多くの場合料金がお得になっているシリーズのセット券を買ってみると、ハマる出会いがあるかもしれません。

コンクールのジョイントコンサートも生音を聴ける良い機会

2025年はショパン国際ピアノコンクールはじめ、重要なコンクールが目白押しです。

とくにショパンコンクールについては、エントリーしている若者たちによるピアノメーカー主催のジョイントコンサートが多く開催されるはず。これは各メーカーが、若者に本番で腕を磨く機会を提供すること……に加え、自分たちのピアノに親しんでおいてほしいという思惑もあって企画されるわけですが、いずれにしても聴衆からすれば、コンクール中に配信で応援することになるピアニストの生音を確かめておくことができる、貴重な機会です。

最近は演奏の配信だけでなく、バックステージの様子の紹介に凝ったコンクールも増えました。音楽は音そのものから感じ取れば良いものですが、演奏家の哲学やキャラクターを知ることで、受け取るものが増えるところもあるでしょう。

コンクール公式のハイクオリティな配信や、メディアが現地から発信するおまけ情報にも注目して、積極的に“おもしろくて抜け出せなくなりそうな沼“を探し、自らハマりにいくのはいかがでしょう。そして心揺さぶられるモーメントを日常の中に増やしていこうではありませんか。

自ら意図してハマってゆく、むしろそのくらい冷静な推し活のほうが、仕事やお財布事情に支障をきたさず、心おだやかに過ごすためには、ちょうどいいのかも……。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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