『白い巨塔』の主人公・財前五郎の強い権力を象徴するワーグナー《タンホイザー》
お茶の間を楽しませてくれるドラマ番組。実は、大きくストーリーが動くような印象的なシーンにクラシック音楽が流れ、演出に深みを出していることが多くあります。よりドラマチックな展開に引き込んでいくクラシック音楽を紹介します。
初回は山崎豊子『白い巨塔』(新潮文庫刊)を原作にしたドラマから、俳優・唐沢寿明が主人公を演じた2003年の放送でのとあるシーンについて。
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
大学病院で繰り広げられる群像劇
「財前教授の、総回診です」——この声を合図に、先頭の教授と後ろの医師や看護師たちは、大名行列のように各病室を回診していく。
ドラマ『白い巨塔』(フジテレビ系、2003年放送)で見せつけられたのは、おぞましい大学病院の権力構造と、その中に生きる人間の生々しさだった。
主人公は、財前五郎(演:唐沢寿明)。物語の主人公に、根っからの悪役は多くないと思うのだが、彼は違う。
教授になるため、自分の実績や名声にかわる患者を選び、自分に徳をもたらす人間に多額の金銭を積み、「教授」という誉れ高い地位をもぎ取る。しかし、さらなる名誉を求めて正しい治療判断を怠り、患者を死亡させてしまうのである。
彼は癌専門医だ。物語終盤で自らが癌になってしまい、しかも手遅れであることがわかる、という皮肉な展開を迎える。彼が犯した罪と相まって、ようやく彼に哀れみの気持ちを抱いてしまう。
お気に入りはワーグナー
彼にはお気に入りの音楽がある。リヒャルト・ワーグナーの歌劇《タンホイザー》序曲だ。彼はよく、自室で手術のイメージトレーニングを行なう。そのとき、彼はこの作品を口ずさむ。ワーグナーといえば、自身への信奉が極めて強い芸術家だ。そんな姿に、財前は自分を重ねたのだろうか。
リヒャルト・ワーグナーの歌劇《タンホイザー》序曲
印象深いシーンがある。ワルシャワの国際学会に出席した財前。彼は、第二次世界大戦時にユダヤ人がナチスに迫害され送られたアウシュヴィッツ強制収容所を訪れる。財前が犯した罪とこれから訪れる自分の「死」、2つの予感を醸し出すシーンだ。
ナチスの恐るべき指導者であるアドルフ・ヒトラーが好んだワーグナーと、財前五郎。生粋の権力主義者である財前がワーグナーを愛した理由が、図らずともわかる気がしてならないのである。
放映年:2003年
制作:フジテレビ/共同テレビ
脚本:井上由美子
原作:山崎豊子『白い巨塔』(新潮文庫刊)
出演:唐沢寿明/江口洋介/黒木瞳/矢田亜希子/水野真紀/上川隆也/及川光博/片岡孝太郎/伊部雅刀/若村麻由美/西田尚美/野川由美子/かたせ梨乃/伊藤英明/石坂浩二/西田敏行 ほか
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