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2026.09.14
広島県・福山ですごいことが起きている!

リーデンローズ音楽大使、篠崎史紀の「マロさんと音楽であそぼう」が面白過ぎる

一昨年(2024年)に開館30周年を迎え、西日本クラシック界を代表する音楽ホールとしてさらに存在感を高めているリーデンローズ(ふくやま芸術文化ホール、広島県福山市)。

その音楽大使として、元N響コンサートマスターの篠崎史紀(愛称マロさん)が、福山市内で音楽を学ぶこどもたちや、その保護者・指導者に向けておこなっているプログラム「マロさんと音楽であそぼう」を取材した。

音楽家の立場から、「人々の未来のために何ができるか」を考えて行動するその姿は、福山藩第7代当主・阿部正弘の姿にも通じるものがあるのかも――?

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

メインカット撮影:林田直樹

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マロさんが福山藩主・阿部正弘の衣装を着た、深い理由とは?

元N響コンサートマスターの篠崎史紀(愛称マロさん)が、なぜ幕末の福山藩主・阿部正弘の衣装を着てヴァイオリンを!?

しかもここは福山城内の御湯殿という特別な場所。

たまたま顔が似ている(!)というだけではない――そこには深い理由があった。

阿部正弘(1819-57)は、江戸幕府の老中首座という、現在の内閣総理大臣に匹敵するような政治家として、ペリー来航という未曽有の国難に立ち向かった人物であり、前例や因習にとらわれない政策や、未来を考えた人づくりに取り組んだことで知られる

阿部正弘(1819–1857): 江戸時代後期の備後福山藩阿部家第7代藩主。27歳の若さで幕府の老中首座となり、幕末の動乱期に国政を主導した。1853年のペリー来航の際には、従来の幕府専断を改め、朝廷や諸大名に広く意見を求める異例の合議的政策を進めた。日米和親条約の締結という難局を乗り切り、海防強化や洋学導入など柔軟な改革に着手。江戸にあって国政を担いながらも、福山に藩校「誠之館」を創設して身分を問わない人材育成に尽力した。国家の危機に奔走し39歳で早世した、福山が誇る優れた政治家である (画像は誠之館同窓会蔵)

いまの音楽界も、一番大切なことは「未来のために何ができるか」である。

そのためには既存の枠を超えて、次世代のために新しく何を始められるかが問われている。

マロさんが、福山のリーデンローズ音楽大使として就任以来およそ2年間、熱心に取り組んできたことも、まさに同じである。

今回、7月28日に報道陣向けに公開された福山城での“コスプレ”は、そのお披露目の機会であった。

「なぜ福山に来たのか? それはリーデンローズというすごいホール、日本の音楽界を変えたホールと言っても過言ではないホールがあるからです。その音響設計を担当された豊田泰久さん(公益財団法人ふくやま芸術文化財団理事長)が国内外のあちこちに作られたホールは、楽器そのものとして僕たち演奏家を成長させてくれた。これはその恩返しでもあるんです」

阿部正弘の衣装を着てマロさんが鳥越菜々子さん(箏)とともに演奏した宮城道雄「春の海」(1929年作曲、1930年初演)は、瀬戸内海の歴史ある潮待ちの港として知られる鞆の浦のイメージに由来する、福山ゆかりの名曲である。

最初ヨーロッパで有名になり、それを逆輸入した形で日本国内でも名曲として定着した「春の海」は、いまの文化において大切なキーワードのひとつ、「グローカル」(グローバルとローカルを合わせた言葉)そのものだ、とマロさんは言う。

「ちょうど2030年は『春の海』の初演100年にあたるんです。福山から世界に向けてグローカルの最高の例を提示するための、いいチャンスです」

篠崎史紀(しのざき ふみのり)
北九州出身。愛称「マロ」。ウィーン市立音楽院で学び、ヨーロッパで活躍後1988年に帰国。群響、読響のコンサートマスターを経て、97年N響のコンサートマスターに就任。以来「N響の顔」として国内外で活躍。N響特別コンサートマスター就任後、2025年3月惜しまれながらもその任を退く。2024年9月リーデンローズ音楽大使に就任。

音楽によって町全体の未来が大きく変わる可能性

福山城でのお披露目のイベントの数日前には、リーデンローズ内の練習室で「マロさんと音楽であそぼう」も開催された。

これは、地域の音楽教室やジュニア・オーケストラのこどもたちとマロさんが一緒に演奏しながら、音楽についてのさまざまな大切な考え方を伝え、自由に質問にも答えるというもので、その様子を指導者や保護者らもすぐ近くで見学できる。

2025年の夏よりスタートして以来、公募制で計13回開催され、のべ569人が参加している。

2025年夏からリーデンローズ内練習室で開催されている「マロさんと音楽であそぼう」。写真のような室内アンサンブルだけでなく、ジュニア・オーケストラの指揮、ピアノとヴァイオリンの二重奏など、あらゆる形態でこどもたちと一緒に演奏する。

マロさんは言う。

「僕の中では、音楽は人類万人に対して平等なんだ。ベートーヴェンでもドヴォルザークでもバッハでもハイドンでもモーツァルトでも、何の曲でもいいんだけど、子供も大人も、お兄ちゃんお姉ちゃんも、おじいちゃんおばあちゃんも、一緒に取り組むことができる。何かを教える、もしくは教わるじゃなくて、一緒に考えて、体験して、共有する時間、それがこの『マロと音楽であそぼう』なんだよね」

筆者が見学したのは、町の音楽教室に通う小学生から大学生のピアノとマロさんのヴァイオリンが二重奏をやっていく回だったが、それは和気あいあいとしながらもとても刺激的なものだった。

「ここの音が上がっていくところは、遊園地の観覧車やシースルーのエレベーターみたいに、視界が広くなっていくイメージかな」

「ここの響きは濁っちゃいけない。口の中にカレーの味がまだ残っているうちに、チョコアイスをかぶりつきたくないよね?」

「クラスに可愛い女の子はいる?追いかけているアイドルはいる? このアルペッジョは好意的なアルペッジョなんだ」

「きょうだいはいる? その音は、弟や妹を優しく見守っている感じが大事だよ」

「その低音の歩みは、除夜の鐘じゃない、結婚式の鐘のように」

「ここは日の出じゃなくて、夕暮れ。紫色の持っている神様のような感じと、はかなさが欲しい」

「遠距離恋愛で付き合っている彼氏を思っているような左手で弾いて。ここは寂しさが欲しいんだ」

どんなにユニークで、イマジネーションにあふれたマロさんの言葉が、一緒に演奏している場から引き出されてくることか!

曲目は習熟の度合いに配慮してベートーヴェンやドヴォルザークやコレッリらの作品が選ばれたが、こどもたちにとってみれば、自分が弾いているピアノに合わせて、まるで天から降って来たみたいに超一流の、本物のプロのヴァイオリンの演奏に触れることができる。

すぐ近くだからこそ、そのインパクトはさぞかし大きかったはずである。

二重奏の終わりに、必ずマロさんは「またどこかで一緒に弾ければいいね」と言うのも印象的であった。

こうした地道な営みを十年二十年と続けていったら、この町に暮らす若者たちの心と未来に、きっと何か目に見えない、けれど根本的で素晴らしいことが起きる――そんな実感があった。

全国の音楽ファンからも注目される、リーデンローズ「オーケストラ福山定期」

いよいよ秋からはリーデンローズの「オーケストラ福山定期」3シーズン目の続きが始まる。

広島交響楽団と京都市交響楽団という二つのオーケストラを競わせるように招聘し、中学生招待公演を合わせて年間5公演ずつ(計10公演)を主催するこの企画は、本拠地の定期演奏会と同一の内容を音響の良いリーデンローズでおこなうことで演奏のクオリティも向上し、県内外の音楽ファンからも熱い視線を浴びている。

歴史ある福山城や近隣エリアの観光を兼ねて、ぜひ足を運んでみて欲しい。

公演情報
オーケストラ福山定期2026-2027

■2026年10月12日(月・祝)16時 ※発売中

10月12日公演

上岡敏之指揮 京都市交響楽団

ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》前奏曲と愛の死、ブルックナー:交響曲第6番イ長調

ヴッパータール市立歌劇場音楽総監督、新日本フィル音楽監督、コペンハーゲン・フィル首席指揮者等を歴任するなど国内外で活躍する上岡敏之の京響初登場。ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」、ブルックナーの「交響曲第6番」という、後期ロマン派ならではの壮大で本格的な交響世界を堪能できる。

 

■2026年11月23日(月・祝)16時 ※発売中(S席・A席は完売)

11月23日公演

沖澤のどか指揮 京都市交響楽団 五嶋みどり(ヴァイオリン)

バーンスタイン:《キャンディード》序曲、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調、プライス:交響曲第1番ホ短調

沖澤のどかは京響常任指揮者就任以来、女性作曲家の作品を積極的に紹介しているが、アメリカの黒人女性作曲家フローレンス・プライス(1887-1953)の「交響曲第1番」はドヴォルザークの影響の感じられる、美しい旋律にあふれた力強い作品。福山初登場の五嶋みどりとのショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」も大注目。

 

■2027年1月24日(日)15時 ※10月3日(土)発売

1月24日公演

クリスティアン・アルミンク指揮 広島交響楽団 エディクソン・ルイス(コントラバス)

スーク:管弦楽組曲《おとぎ話》、細川俊夫:コントラバス協奏曲、ヤナーチェク:オペラ《死の家から》組曲

広響コンポーザー・イン・レジデンス細川俊夫による初のコントラバス協奏曲を、エル・システマ出身でベルリン・フィルの名手エディクソン・ルイスが演奏。スラヴの伝承による美しく抒情的な旋律が際立つスークの組曲と、ドストエフスキー原作によるヤナーチェク最後のオペラからの組曲も楽しみ。音楽監督アルミンクは広響との相性抜群。

 

■2027年3月7日(日)15時 ※11月14日(土)発売

3月7日公演

川瀬賢太郎指揮 広島交響楽団 小曽根真(ピアノ)

シューマン:交響曲第3番変ホ長調《ライン》、小曽根真:ピアノ協奏曲《もがみ》

川にちなんだ二つの作品を、近年活躍著しい川瀬賢太郎の指揮で楽しむプログラム。ドイツを象徴する川の名を冠したスケール豊かなシューマンの交響曲第3番《ライン》と、ジャズ・ピアニストの小曽根真がジャズや日本の民謡(最上川舟唄)の要素を盛り込んだピアノ協奏曲《もがみ》との興味深い組み合わせ。

 

※オーケストラ福山定期の2026年度後期定期会員券(11月〜3月の3公演(広響2回+京響1回))は11月23日(月・祝)まで発売中

詳しくはこちら

問い合わせ:リーデンローズチケットセンター 084-928-1810

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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