連載
2026.08.22
万里生クラシック! vol. 13 最終回

田代万里生×塩田明弘対談【後編】オペラ出身の2人が見たミュージカル界の「これまで」と「これから」

ミュージカルを中心に多彩な活動を続ける田代万里生さんが、愛するクラシック音楽を語る「万里生クラシック」。最終回は、日本を代表するミュージカルの専門指揮者で音楽監督の塩田明弘さんが登場。後編では、音大で声楽と指揮を学び、オペラの副指揮者としてキャリアを重ねたのち、ミュージカルの世界に入った塩田さんと、ミュージカルの人気の秘密や、業界の変遷、人生を変えた舞台について語り合います。

田代万里生
田代万里生 ミュージカル俳優

東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。埼玉県立大宮光陵高等学校音楽科声楽専攻(テノール)卒業。音楽の教員免許(中学・高校)資格を取得。絶対音感の持ち主でもある。...

進行・まとめ
弓山なおみ
進行・まとめ
弓山なおみ ライター/コラムニスト

フランス留学後、ファッション誌『エル・ジャポン』編集部に入社。その後『ハーパース バザー』を経て、『エル・ジャポン』に復帰。カルチャー・ディレクターとして、長年、映画...

カメラマン:各務あゆみ

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二人から見たミュージカル界の変化

田代 ミュージカル界に入った僕が塩田さんと再会したのは、2010年の『ウーマン・イン・ホワイト』。すでに塩田さんは指揮者・音楽監督として大活躍中でした。

塩田 当時はオペラ出身の人がミュージカルに来るケースは少なかったから、万里生くんが来てくれて嬉しかった。役者としては、2000年の『エリザベート』で東京藝大在学中に抜擢された、井上芳雄くんという先例はあったけど。

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田代 芳雄さんがデビューされてから、僕がこの世界に入る10年間、クラシック出身の若手男性俳優はあまりいなかったんです。あの頃は周囲も、「音大生がミュージカルなんて!」という時代でしたから。あと、僕が芳雄さんと違うのは、自発的にミュージカル界に飛び込んだ芳雄さんと、クラシックの世界しか知らないなか、他薦で何も知らずにミュージカル界に飛び込んだ僕、という点。だから、いろいろなカルチャーショックがありました。

塩田 あの頃から万里生くんは、「クラシックとオペラの交流がしたい」と言っていて、その思いに共感していました。僕自身、この世界に入った頃は、ミュージカルのオーケストラはアルバイト感覚の人が多かったし、ポスターに指揮者の名前はなかったんです。でもだからこそ、「素晴らしいオーケストラにしよう」と思ったし、いつかは音楽監督になりたいと夢見ていた。そのうえ、万里生くんは真面目で誠実。すごく心強かったです。

左:塩田明弘(しおた・あきひろ)
ミュージカル指揮者として初の文化庁派遣芸術家在外研修員となり、NYブロードウェイにおいて研讚を積み、東宝、ホリプロ、宝塚歌劇団などのミュージカルやコンサートの音楽監督・指揮を中心に活動。韓国EMKミュージカル『ファントム』では音楽スーパーバイザーを務めた。主な作品に『ジキル&ハイド』、『ケインとアベル』、『トッツィー』、『ラ・カージュ・オ・フォール』、『四月は君の嘘』、『チャーリーとチョコレート工場』、『マリー・アントワネット』、『レ・ミゼラブル』、『ミス・サイゴン』、『エリザベート』、『モーツァルト!』、『レベッカ』、『ラ・マンチャの男』、『デスノートTHE MUSICAL』など、レパートリーは70作品以上にのぼる。最近ではTVやラジオにも多数出演している。第9回読売演劇大賞優秀スタッフ賞、平成23年度日本演劇興行協会賞を指揮者として初受賞。書籍「知識ゼロからのミュージカル入門」(幻冬舎)著。トーク配信番組「塩ちゃんの劇場で待ってまっせ」メインホスト。2025年2月、一時休館となった帝国劇場の集大成コンサート『THE BEST New HISTORY COMING』にて音楽監督・指揮を務めた。

右:田代万里生(たしろ・まりお)
東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。埼玉県立大宮光陵高等学校音楽科声楽専攻(テノール)卒業。音楽の教員免許(中学・高校)資格を取得。絶対音感の持ち主でもある。3歳から母よりピアノを学び、7歳でヴァイオリン、13歳でトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。ピアノを三宅民規、御邊典一、川上昌裕、吉岡裕子、声楽を直野資、市原多朗、岡山廣幸、野口幸子に師事。13歳のとき、藤原歌劇団公演オペラ《マクベス》のフリーアンス王子役に抜擢。大学在学中の2003年東京室内歌劇場公演オペラ《欲望という名の電車》日本初演で本格的にオペラデビュー。その後09年『マルグリット』でミュージカルデビューを果たす。
近年の主な出演作に『レッドブック~私は私を語るひと~』『キャプテン・アメイジング』『イノック・アーデン』『ラブ・ネバー・ダイ』『モダン・ミリー』『カム フロム アウェイ』『アナスタシア』『マチルダ』『マタ・ハリ』『マリー・アントワネット』『エリザベート』等。第39回菊田一夫演劇賞受賞。ミュージカルデビュー15周年記念アルバム「YOU ARE HERE」発売中。9月『アニオー姫』、12月より『ジャック・ザ・リッパー』出演予定。

——そこから16年を経て、この世界の状況はまったく変わりましたね。

塩田 そう。オーケストラのメンバーも、ミュージカルを目指して現場に来る若い人たちが増えた。実力のあるメンバーが、自然に集まってくるようになったのは嬉しいですね。

田代 俳優としての見られ方も、昔とはまったく違います。クラシック畑からくる俳優も増えたし、最初から「ミュージカルに出演したい」と思って、音大・芸大に進む学生も珍しくありません。

塩田 作品の制作本数も、本当に増えました。昔は「年に数本の大作」だったのが、今は新作・再演がひしめき合う。このスピード感の中でクオリティを保つのは大変だけど、そのぶん、現場のレベルも着実に上がってます。

——ミュージカル人気が高まった理由を、お二人はどう思いますか?

塩田  一番大きいのは、露出の増加です。俳優や指揮者、演出家が舞台以外にもさまざまな媒体に出て、「ミュージカルって、こういう人たちがこんな作品をやっているんだ」と、多くの人が知るきっかけが増えた。

田代  SNSとか、メディア環境の変化は大きいですよね。僕が大学時代は、海外ミュージカルの録音を聴きたければ、タワーレコードなどに通って輸入盤を探し、CDを購入するしかなくて。家に帰ってドキドキしながら再生したら、「思ってたのと違う……」ってこともありました(笑)。

今は、作品名や歌い手の名前を検索すれば、動画も音源もすぐに見つかるので、劇場に行く前から作品世界に触れられる。それに、映画やCMで楽曲が使われることが増えたのは、ミュージカルの大きな追い風になっています。

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