
BBCプロムスの注目公演~P.ヤルヴィ&BBC響、カーチュン・ウォン&ハレ管の熱演

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は英国の8月の音楽シーンから、ロンドンで行われたBBCプロムスのもようをレポートします。

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
先月に引き続き、BBCプロムスの話をしたい。ロイヤル・アルバート・ホールにて7月中旬に開幕、9月初旬まで毎日公演が行われており、筆者は8月もいくつかの公演に足を運んだ。
せっかくなので座席を替えて聴き比べ、結果として天井桟敷の部分にあたるギャラリーという立ち見席がよいのではないかという見解に行き着いた。全体が円形になった会場で、シューボックス型ホールのような反響板がないため音がすべて上に飛んでいくことを考慮すると、なるべく上で聴くほうがよい。最上階はさすがに舞台からの距離があって音の輪郭は少しぼやけるが、地上階よりもよほど各楽器のニュアンスが聞こえてくるので、プロムス名物のアリーナでのスタンディングよりおすすめできる。
本稿では3つの公演で聴いた管弦楽作品についてしたためる。それぞれの公演の協奏曲については、『音楽の友』2026年10月号でのレポートを参照されたい。
8月2日、BBC交響楽団とパーヴォ・ヤルヴィ(指揮)はダニ・ハワードの新作、「金管楽器のための協奏曲《SIGNAL》」とスクリャービン「交響曲第2番」を演奏した。ハワードは1993年香港生まれの作曲家。本作はBBCの委嘱作品で、この夜が世界初演だった。体裁としては管弦楽のための協奏曲と呼ばれるものに近い。フェスティヴァルの空気にふさわしく華々しい曲だった。
スクリャービンの交響曲は規模としてはラフマニノフやシベリウスのそれに似ている。複雑な管弦楽のなかにも抒情性があり、日本の聴衆にも好まれそうな気がした。ヤルヴィの棒は大編成でもしっかり統制を取って器用に進めていく。新曲では楽団と指揮が互いに少しよそいきの感もあったが、レオニダス・カヴァコス(vn)とのチャイコフスキーの協奏曲で温まったあとの交響曲は、充実のアンサンブルだった。
マンチェスターが拠点のハレ管弦楽団とその首席指揮者カーチュン・ウォンのコンビは、ラヴェル《鏡》から「第5曲〈鐘の谷〉」の管弦楽編曲(コリン・マシューズ版)と、ラフマニノフ「交響曲第2番」を熱演した(8月5日)。終始ハレ管とウォンの仲のよさが滲み出ていて、信頼の厚さを思わせる。ラヴェルは原曲を思い出させないほど管弦楽作品として聞こえてきたが、ピアノで聴くより散漫にも感じられた。
ナディア・ブーランジェ「ピアノと管弦楽のための幻想曲」(アレクサンドラ・ダリエスクp)を挟んだあとのラフマニノフは聴衆の熱狂が先立っていて、かの有名な第3楽章が始まる瞬間には会場に期待の空気が充満し、弾き手の気持ちがわかるものとしてはかえって緊張を覚えてしまう。しかしウォンは自信に満ちたタクトをおろし、楽団はそれに身を委ねるようにして無事に出航した。その夜の観客の多くはラフマニノフ目当てであっただろうが、ハレ管とウォンはその期待に充分応えきった。

ジェイムズ・ガフィガン指揮BBC響がウィントン・マルサリスの新作を英国初演
8月13日、ふたたびBBC交響楽団の演奏に触れた。この日はジェイムズ・ガフィガンを指揮に迎えて、ウィントン・マルサリス「オーケストラのための協奏曲」とサミュエル・バーバー「交響曲第1番《単一楽章の交響曲》」をガーシュウィン《ピアノ協奏曲 ヘ調》と組み合わせ、今年のプロムスのテーマであるアメリカ音楽を特集したプログラムを実施。マルサリス作品は共同委嘱新作で、世界初演はケルン放送交響楽団(2025年)、そしてロサンゼルス・フィルハーモニックによる米国初演(2025年)を経て、BBC響がこの日、英国初演を担った。作曲者がトランペット奏者なだけあって金管・打楽器が相当にぎやかな曲だが、よく整理された演奏で、膨大な音数をうまくまとめた。
バーバー作品は先日のスクリャービン作品ともまた違うパンチがあり、曲自体が持つエネルギーの強さが聴く側にも体力を求めてくる。しかも通称が示す通り楽章間を休みなしに続けるので、弾き手もかなりスタミナを要する曲だ。それでもオーケストラは聴き手を捉えて離さない集中力のある演奏で、根気強く聴かせた。
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