イベント
2021.03.18
高崎芸術劇場/特集「ホールよ、輝け!」

ジャンルレスの舞台芸術を贅沢な空間で楽しむ! 群馬の高崎芸術劇場

群馬県高崎市に2019年にオープンした高崎芸術劇場。新たな文化の発信地として、オーケストラやオペラ、ミュージカル、ジャズ、はたまた能までもラインナップに。そのジャンルレスな企画に込められた信念とは?

取材・文
奥田佳道
取材・文
奥田佳道 音楽評論家

1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...

メイン写真:2021年2月13日(土)に開催された須川崇志バンクシアトリオ公演より。クラシックのみならず、ジャズやミュージカルなどの公演にも力を入れている。
写真提供:高崎芸術劇場

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「創造と発信、進化と継承」を掲げる舞台総合芸術のための劇場

東京から新幹線で1時間弱。群馬県高崎市と言えば、クラシック・ファンにとっては「群響(ぐんきょう)こと群馬交響楽団がある街」だ。

高崎市民オーケストラとして第2次大戦後に活動を始めた群響の黎明(れいめい)期とその人間模様を描いた映画『ここに泉あり』(1955年公開、今井正監督)を、懐かしく思い出すご年配の方もいらっしゃることだろう。

その群響が1961年から2019年まで拠点としてきた「群馬音楽センター」も、音楽好きには親しい名前である。

楽の音が息づく街、高崎。「楽の音」の箇所は「文化の薫り」でもかまわないが、いま高崎といえば、2019年9月20日に開館したパフォーミング・アーツの新たな殿堂、高崎芸術劇場だ。抜群の存在感を誇る劇場界のライジングスターというべきか。創造と発信、進化と継承をキャッチに掲げ、高崎芸術劇場TAKASAKI CITY THEATREの幕が上がった(運営は高崎市の公益財団法人 高崎財団)。

高崎駅東口直結のペデストリアンデッキ高架歩道を進むと、ガラス張りの美しい建物が見えてくる。採光を生かした粋で機能的なデザイン。4階まで吹き抜けで空間性満点のエントランススクエアに足を踏み入れた瞬間からドラマが始まる。

JR高崎駅東口に立つ高崎芸術劇場。
ガラス張りで開放的な雰囲気のエントランスにて。お話を伺った事業企画担当部長の栗田弘之さん(左)と事業課課長の串田千明さん。
©️ヒダキトモコ

「高崎って、ある意味特別な街ですよね。県庁所在地じゃないのに群響というプロのオーケストラがあり、群馬音楽センターがある。

高崎芸術劇場は、その音楽センターの60年近い歴史と精神を受け継ぎ、それを進化・発展させる目的でできた舞台総合芸術のための劇場です。高崎という街の新たなシンボルでもあります」

と語るのは、事業企画担当部長の栗田弘之さん。1987年9月から2019年3月まで群響の企画・制作に携わってきた。

かつて群響の事務局にいたが、現在は高崎芸術劇場の事業企画担当部長、栗田弘之さん。
©ヒダキトモコ

「群響で長年仕事をしてきた私にとっても感慨深いです。その喜びをひとことで言えば『これで響きのある空間でオーケストラが聴ける、楽しめる』です。

しかし、群馬音楽センターの歴史や理念を引き継いでいると言いましても、高崎芸術劇場は、いわゆるクラシック音楽専用、オーケストラのためだけのホールではありません。コンセプトはすべての舞台芸術のために。ええ、多目的です。オーケストラも素晴らしい! が正しいですね(笑)」

栗田氏が言う「オーケストラ」の箇所は「オペラ」「バレエ」「ミュージカル」「歌舞伎」「演劇」に置き換えてもかまわない。

「構想の段階からお手伝いをしておりましたので、多目的の劇場ということはわかっていましたが、『オペラやバレエの上演に相応しい空間や機能を備えた劇場。オーケストラの豊かな響きを生かせるホールを作ってほしい』と言い続けてきました。その願いは叶いました」

質感のある響きをもつ大劇場ほか、充実した施設

芸術の女神ミューズも微笑んだであろう高崎芸術劇場を構成するのは、時空を超えた舞台総合芸術と交歓する座席数2027の「大劇場」。ジャンルを超えたパフォーミング・アーツに柔軟に対応する「スタジオシアター」。座席数412、群馬県初の本格的な「音楽ホール」。各種リハーサルやレッスン、ワークショップのための9つの「創造スペース」で、さらに日常から非日常を演出する1階の「シアターレストラン」「シアターカフェ」も併設された。

大劇場で開催された群馬交響楽団の第563回定期演奏会より。

「大劇場の残響は満席で2秒。ただよく響くのではなく、質感のある豊かな響きが自慢です。すでに群馬交響楽団との相乗効果が生まれています。組織は別ですが、群響の事務所も高崎芸術劇場に引っ越しました。今後の私たちの企画や連携に好都合です。

コロナ禍ですべてが中止になる直前(2020年2月)には、パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団の公演も実現しました。N響ヨーロッパツアー前のコンサートですね。

オーケストラがお好きな方、ぜひ高崎芸術劇場の大劇場へいらして下さい。広々としたロビーが皆さまをお出迎えします。大きなホールですが、座席配置にも工夫があってステージは見やすいですし、座り心地もいいとお褒めの言葉をすでにたくさんいただいています」

大劇場の舞台からの客席の眺め。

クラシックやジャズ、能まで、2021シーズンもジャンルレス!

2021年度、大劇場では、東宝ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』、高崎出身の三澤洋史の市民ミュージカル『おにころ』(群響、公募市民合唱団が出演)、日生劇場制作のNISSAY OPERA《ラ・ボエーム》、市内のジュニアオーケストラ、コーラス、バレエ団による高崎ジュニア音楽祭、歌舞伎公演「も」行なわれる。

NISSAY OPERA《ラ・ボエーム》

ちなみに、群響主催の群響定期も、4月から土曜日の午後4時開演となり、これは地元ばかりでなく、東京から出かけるファンにとっても喜ばしい時間帯と言える。

事業課課長の串田千明さんも「まずは、この素晴らしい高崎芸術劇場を多くの市民、音楽ファンに知っていただくことです。オープンしてすぐにコロナ禍に見舞われてしまった訳ですが、ピンチをチャンスと捉え、これまでにない企画をジャンルレスに展開したいと思っています」。

数多くのコンサートに通う、大の音楽ファンでもある事業課課長の串田千明さん。
©ヒダキトモコ

栗田、串田両氏が声を揃えて誇らしげに語るのは、高崎芸術劇場の可能性だ。

「大劇場、音楽ホール、スタジオシアター、創造スペースという劇場自慢のスペックを生かしたいです。

ジャズ、能もできます。能の物語の舞台になるなど高崎は能と縁が深い街なのです。今年生誕100年のピアソラも、高崎芸術劇場でぜひ(笑)。音楽プロデューサーの浦久俊彦さんのご協力を得て『ピアソラ万華鏡という冊子を昨年暮れに制作しました」

2021年に生誕100年となるアストル・ピアソラの生涯やアーティストの証言、研究者の寄稿などを掲載した高崎芸術劇場オリジナル冊子『ピアソラ万華鏡』(A5版24ページ)を無料配布中。

高崎芸術劇場の芸術監督に就任した練達のマエストロ、大友直人による「大友直人Presents T-Shotシリーズ」と「ベテランシリーズ」も動き出した。大友は群響の音楽監督を務めたこともある。

「優れた若手演奏家の動向に詳しい大友さんが推薦する若手のリサイタルを開催しますが、それだけでなく、録音と映像制作も行ないます。高崎芸術劇場から世界の舞台に羽ばたいてほしいと願っています。アーティストのファンも私たちの劇場のファンも増やしたいですね」

時空を超えたパフォーミング・アーツと、早くも「相愛」の高崎芸術劇場。まだの方はぜひ。

「大友直人Presents T-Shotシリーズ」vol.1 監督:佐津川愛美/演奏:荒井里桜

412席の音楽ホールで開催された「徳永二男×群響《四季》」より。
高崎芸術劇場

[運営](公財)高崎財団

[座席数]大劇場 2027席

スタジオシアター 389~568席

音楽ホール 412席

[オープン]2019年

[住所]〒370-0841 群馬県高崎市栄町9-1

[問い合わせ]Tel. 027-321-3900

http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/

取材・文
奥田佳道
取材・文
奥田佳道 音楽評論家

1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...

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