林田直樹の越境見聞録 File.07 カニサレス・フラメンコ・クインテット 来日公演2018

フラメンコのスター、カニサレスが伝える伝統とコミュニケーション「歌詞はわからなくとも心配ない!」

インタビュー
2018.09.27

林田直樹の越境見聞録の第7回は、現在来日公演中のスペインのギタリスト、フアン・マヌエル・カニサレスにインタビュー。
ロックやジャズ、クラシックとジャンルを超え、演奏家としても作曲家としても活躍しながら、軸にはスペインの伝統音楽であるフラメンコがある。フラメンコの奥義とは何か? ポイントを挙げていただいた。

ナビゲーター
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
林田直樹
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林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
フアン・マヌエル・カニサレス Juan Manuel Cañizares
フアン・マヌエル・カニサレス(Juan Manuel Cañizares)。1966年、スペイン東部カタルーニャ生まれ。

フラメンコの枠を超えたスター、カニサレス

スペイン・ギター界のスーパースター、カニサレス。パコ・デ・ルシア亡き後、真の後継者としてフラメンコ・ギターの枠を超えて活躍している。

カニサレスがクラシック音楽ファンに大きな注目を浴びたきっかけは3つある。

1つは、2011年にサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と「アランフェス協奏曲」を、フラメンコ・ギタリストとして初共演したこと。

もう1つは、2013年にゴールデンウィークに開催されている「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」で来日して全11公演に出演し、熱狂的な反応を受けたこと。

そして3つ目は、スペインのクラシック作曲家のグラナドス、アルベニス、ファリャのピアノやオーケストラのための音楽を、近年ギターに編曲・演奏し、次々と録音して話題となったこと。

ギタリストの鈴木大介さんによれば、カニサレスの演奏は、クラシックのピアノ演奏以上に、作曲者の楽譜に対して、厳格に再現しようとする取り組みなのだという。

それまで、ロックやジャズなどさまざまなジャンルともコラボレーションしてきたカニサレスだが、スペイン固有の民族音楽であるフラメンコの伝統を常に意識し、そこに立ち返ろうとする姿勢は変わらない。

コミュニケーションの芸術、フラメンコ

カニサレスに何度かインタビューするなかで、フラメンコの伝統について、いくつか興味深いことを教えてもらったので、それをここではご紹介したいと思う。

1. リズムは哲学である

いいリズムを作るにはどうしたらいいか、ということを常にカニサレスは意識しているのだという。彼の発言を引こう。

「自分のなかでも次々に疑問が湧いてくるのです。それは哲学なのです。同じリズムなのに気持ちが変わるのはなぜなのか? どう刻むべきなのか? いつもいつも考えています。リズムがよく見えるときと、リズムがぼやけて見えないときもある。リズムは感情に左右されるし、生き物という要素さえあります」

2. 歌詞はわからなくてもいい

フラメンコは音楽と踊りと歌が三位一体になり、相互に作用しあいながら、観客ともコミュニケーションをとりつつ、生きているものである。

カニサレスによれば、フラメンコにおける歌詞は、歌う内容は毎回即興的に変わっていくものでもあり、別に意味がわからなくとも恐れる必要はないのだという。

「フラメンコにおいて、歌詞の重要性は、それほどではないとも言えます。自分はギタリストとしては、歌手の息遣いや感情こそを全身で受け取るので、何を歌っているかわからないことは多々あるのです。

フラメンコ歌手の歌い方は独特で、スペイン人が聴いても何を歌っているかわからないことが多い。私でも書きとるのは難しい。フラメンコの歌はポップスやオペラとは違います。歌詞を歌うのではなく、自分の生きざまを表現するのです。

フラメンコの歌詞は、文学とは対極にあるものです。オペラでは歌詞の内容を追うことは物語を知るうえで重要ですが、フラメンコでは、洞窟の何もない野蛮なところで、感情だけがあふれほとばしるような世界なので、自分が何を感じるかということに集中してほしいのです」

事実、カニサレスは取材のときに、「さあ、君は“にせスペイン語”をしゃべっていいから、一緒にそれらしく会話しようじゃないか」と言って、なりきりスペイン語ごっこをして遊ばせていただいた。

3. アイコンタクトの重要性

ギタリストの鈴木大介さんもおっしゃっておられたが、演奏中も、インタビュー中でも、カニサレスの視線の力は素晴らしく魅惑的だ。一度見られたら、目を決してそらせられない。目と目を合わせて、びりびりとしたものを感じる瞬間が楽しくさえなってくる。

彼のステージを見ていても、アーティストどうしのアイコンタクト、気配の感じ取り、心の交流が活発に行なわれているのがわかる。

フラメンコはコミュニケーションの芸術でもある。

カニサレスによれば、コミュニケーションをするときに何よりも大切なことは、相手の演奏を、相手の話を、「よく聴く」ということに尽きるのだという。よく聴くことなしには、絶対にコミュニケーションは成立しない。それは音楽に限らず、すべての次元において言えることではないか、ともおっしゃっておられた。

いまの時代、もっとも不足しがちなコミュニケーションの本質に触れるという意味でも、ぜひカニサレスの音楽にご注目されてみてはいかがだろうか。

ところで、最近のカニサレスは新しいギター協奏曲を作曲中だという。それについてのコメントを最後にご紹介しよう。

「《地中海協奏曲》というタイトルで、来年がちょうど没後20周年のホアキン・ロドリーゴに捧げる作品です。今回はオーケストレーションも自分で手掛けています。アランフェス協奏曲などでギター音楽に貢献してきたロドリーゴへの感謝を込めています。

マエストロ大野和士に依頼されて作曲中で、今年の11月にバルセロナ交響楽団と一緒に演奏して、来年は日本でも演奏する予定です」

スペイン日本外交関係樹立150周年
カニサレス・フラメンコ・クインテット 来日公演2018

日時: 9月28日(金)18:30開場/19:00開演

会場: 船橋市民文化ホール(千葉)

 

日時: 9月29日(土) 15:00開場/16:00開演

会場: めぐろパーシモンホール 大ホール(東京)

 

日時: 9月30日(日) 14:15開場/15:00開演

会場: 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール(埼玉)

 

企画制作: プランクトン

にせスペイン語でいかにもそれらしくコミュニケーションを楽しむ筆者とカニサレス。
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