インタビュー
2022.08.15
ミュージカル『ピピン』は東京・大阪で8月30日(火)〜9月27日(火)

Crystal Kayが語る『ピピン』の魅力! 当たり役で観客をふたたび「見たことのない世界」へ

2019年に上演され好評を博したミュージカル『ピピン』。リーディングプレイヤー役を演じたCrystal Kay(クリスタル・ケイ)さんは、ミュージカル初挑戦ながら読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞、大きな注目を集めました。2022年夏、同役での再出演を前に、このミュージカルとの運命的な出会い、楽曲や物語の魅力をたっぷりと語っていただきました。

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

Photo:各務あゆみ

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名作ミュージカル『ピピン』にCrystal Kayが帰ってくる!

スティーブン·シュワルツ作詞·作曲のミュージカル『ピピン』は、天才振付師ボブ・フォッシーの演出で1972年にブロードウェイで初演。泥沼化するベトナム戦争やドル危機による経済の低迷という不安定な時代を背景に「本当の幸せとは何か」という永遠のテーマを投げかけ、多くの観客の心を掴む。その後2013年に、気鋭の演出家ダイアン・パウルスによるサーカス・アクトを大胆に取り入れたリバイバル版が誕生。トニー賞で4部門を受賞するなど再び大きな話題を集め、2015年の来日公演も好評を博した。

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同リバイバル版に基づく日本語での上演が実現したのは2019年のこと。新演出を手掛けた同じクリエイティブ・チームが集結し、本作でトニー賞最優秀演出賞に輝いたパウルス自らが手掛けた日本語版は、本場のテイストを色濃く残したダンス、サーカスの魅力満載の目眩いステージで日本の聴衆を圧倒。主役のピピンを城田優が好演し、狂言回しを担うリーディングプレイヤーを演じたCrystal Kay(クリスタル・ケイ)はミュージカル初出演ながら読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞し、舞台は大成功を収めたのだった。

そんな『ピピン』待望の再演が決定し2022年の8月~9月にかけて東京と大阪に登場する。前回公演でも絶賛された“当たり役”に再び挑むCrystal Kayにお話を伺った。

ミステリアスなリーディングプレイヤー役を演じるのは運命!?

——若き王子ピピンは、フランスやドイツ、北イタリアの源流であるフランク王国の、歴史に名高いカール大帝(シャルルマーニュ)の息子。この作品は人生の目的を探し求める彼の成長物語でもあるわけですが、そのストーリーは、リーディングプレイヤー率いるサーカス一座の出し物、つまりは“劇中劇”という構成になっているのが面白いですね。リーディングプレイヤーは一座のパワフルな女座長であり、ピピンを導き、その運命を弄ぶ女神のよう。時に“第四の壁”(舞台上の演者と観客をわける一線)を取り払って、観客に直接語りかけたりもする、摩訶不思議なキャラクターです。

Crystal Kay リーディングプレイヤーはとにかく謎の女性……というか女でも男でも、人間ですらないかもしれない(笑)。単なる進行役以上の存在で、出演者にドスのきいた声ではっぱをかけたり、ダメ出ししたり、とても演じ甲斐のあるキャラクターですが、歌やダンスに加えてアクロバティカルな動きも求められる難役。前回はミュージカル初心者で何もわからず、ただベストを尽くすしかないと思って頑張りました。

——この役に抜擢される何年も前、ニューヨークで音楽修行をされていた時に本場の『ピピン』を観られたそうですね。

Crystal Kay はい。ブロードウェイの近くに住んでいたので、劇場にはよく足を運んでいました。私が観たのはちょうどパティーナ・ミラーさんがリーディングプレイヤー役で出演(同役でトニー賞最優秀主演女優賞受賞)されていた夜でした。その時、全身黒ずくめで帽子も被っていたから、劇場の外で彼女に間違われて「写真いいですか?」ってファンに囲まれたんです(笑)。

それから3年後くらいに優(城田優)から「一緒にミュージカルやらない?」ってLINEがきて「いや無理、やったことないし。ちなみに何?」って訊いたら『ピピン』のリーディングプレイヤー役で吃驚! 鳥肌が立ちました。これは運命かもしれないと思った。

——お客さんとして観た『ピピン』はどんな印象でしたか。

Crystal Kay 音楽が素晴らしいと思いました。シームレスにみんな繋がっていて途切れないのが見事で、心を奪われた。そして誰よりもパティーナ・ミラーさん演じるリーディングプレイヤーの存在感が強烈で……身体表現も凄かったけれど表情も。これがブロードウェイなんだと思い知らされました。それとクライマックスの展開にぞっとした、見てはいけないものを目の当たりにしてしまったような怖さがありましたね。

名歌手たちにも愛される『ピピン』を飾る楽曲の数々

——「ミステリアスな陰謀、心温まる笑いとロマンス、奇想天外なイリュージョンに満ちた、永遠に忘れられないドラマが幕を開ける」とリーディングプレイヤーが歌うオープニング·ナンバーの「Magic to Do」から物語に引き込まれます。これから何が始まるんだろうっていうワクワク度がマックスで!

Crystal Kay 難しい曲です、キーも高くていきなり転調するし。リーディングプレイヤーが颯爽と登場してショーの始まりを高らかに告げるナンバーで、お客さんに「見たことのない世界に連れてくよ」って断言するので強力な説得力が必要。全力で集中して役になりきらないと歌えないので、いつも緊張します。

以下、音源は2013年のオリジナル・ブロードウェイ・キャストによる録音

——父カール大帝に認められたいピピンが西ゴート族との戦(いくさ)に同行したいと志願し、一座が戦場の有り様をユーモアと皮肉を交えてショーアップしてみせるシーン。ここでリーディングプレイヤーが歌う「Glory」も壮絶なナンバーです。

Crystal Kay 大好きです! 飛んできた帽子をぱっと受け取る登場の仕方もカッコいいし。それから舞台中央で2人のリード・ダンサーと共にスポットライトを浴び、小粋なジャズにのって戦争や暴力を美化した風刺のきいたダンスを披露する場面(ボブ・フォッシーの「マンソン・トリオ」として有名)も楽しい……官能的で、スタイリッシュで。

——ピピンもひょいと輪をくぐって登場するし、出演者は普通のミュージカル以上に身体能力が問われますよね。見世物小屋みたいに下世話な雰囲気と中世ヨーロッパ的なピピンの世界が絶妙にクロスオーヴァーしています。

Crystal Kay 私がこの作品でいちばん凄いなと思うのはマジカルな舞台なのに、とっても生々しくて現実味があるところ。人が殺されたり、生き返ったりするのに嘘っぽくない。人間の良いところと悪いところ、人生の楽しいところと辛いところを、ない交ぜにして全部みせてくれるかんじ。きっと観ている人はみんなどこかに自分を重ね合わせることができると思うのです。

——それを支えているのも音楽かもしれません。リーディングプレイヤー以外のナンバーもそれぞれに魅力的。ピピンの歌う名曲「Corner of the Sky」は城田さんも自分のソロ·アルバムでとりあげましたが、『ディア・エヴァン・ハンセン』で知られるベン・プラットもドラマ「ザ・ポリティシャン」の中でカヴァーしていましたし、古くはジャクソン5も歌っています。それにマイケル·ジャクソンも「Morning Glow」を3rdアルバム『ミュージック・アンド・ミー』でとりあげていましたし、未亡人のキャサリンが歌う「I Guess I’ll Miss the Man」はダイアナ・ロスのいたザ・スプリームスの歌唱でも知られています。部分的にモータウン·レコードから提供された曲が使用されているのもいいですね。

Crystal Kay 70年代ソウル・ミュージックのテイストに溢れていて、お洒落なんです!

さまざまなアーティストに愛される『ピピン』のナンバー

演じながら自分でも戦慄がはしった——時代とリンクした『ピピン』

——再演となる今回は、ピピン役を昨今、俳優・歌手としても活躍が目覚ましい森崎ウィンさんが演じるのも大注目です。

Crystal Kay 面識はありますが共演は初めて。彼なら最高にフレッシュで初々しいピピン王子になることでしょう。リーディングプレイヤーとして喰い甲斐があります(笑)。

——公演が楽しみです。特に後半の怒濤のような展開。リーディングプレイヤーとして容赦ない感じでぐいぐいと引っ張って行ってくださるのを大いに期待しています。

Crystal Kay 後半はまるで現代のリアリティ番組のように、どんどん舞台裏を観客にもみせます。最後にピピンを追い込む場面では人間の恐ろしさが描かれていて、演じながら自分でも戦慄がはしりました。あそこでは、さすがにリーディングプレイヤーも仮面が剥がれかかって素が見えそうになるんです。その辺りをぜひ、劇場で目撃してください。

——結局ピピンが、穏やかで普通の人生こそが何より得がたく、大切だということに気がつくところ、コロナ禍を経た今の時代だからこそ、よりリアルに感じられます。

Crystal Kay 時代とリンクしていますね。さらに説得力が増した気がします。

——ところでCrystal Kayさんはどんなミュージカル·ナンバーがお好きですか? J-POPの名曲たちをカヴァーした最新アルバム『I SING』も素敵でした。

——いつの日かミュージカル曲集もリリースされることを祈っています。

Crystal Kay ありがとうございます。有名な作品で、まだまだ観ていないものも多いのですが……一度、クラシカル系のコンサートで『ミス・サイゴン』のナンバーを歌って好評をいただきました。ついこの前も『メリー・ポピンズ』の舞台を観て感動して大泣きしたばかり。『サウンド・オブ・ミュージック』も好きです。ナニー(子守り)も、家庭教師も、私らしさを活かした役作りで演じられたら楽しいでしょうね! ご期待ください。

ミュージカル『ピピン』
公演情報
ミュージカル『ピピン』

東急シアターオーブ 8月30日(火)~9月19日(月祝)

 

大阪・オリックス劇場 9月23日(金)~27日(火)

 

出演: 森崎ウィン/Crystal Kay/今井清隆/霧矢大夢/愛加あゆ/岡田亮輔/中尾ミエ 前田美波里(Wキャスト) ほか

作曲: スティーヴン・シュワルツ
脚本: ロジャー・O・ハーソン
演出: ダイアン・パウルス
振付: チェット・ウォーカー
サーカス・クリエーション: ジプシー・シュナイダー

取材・文
東端哲也
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東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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