「自作主題による15の変奏曲とフーガ《プロメテウス変奏曲》」——バロック音楽をオマージュした斬新な作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
バロック音楽をオマージュした斬新な作品「自作主題による15の変奏曲とフーガ《プロメテウス変奏曲》」
平野 この曲の主題は、「バレエ《プロメテウスの創造物》」の終楽章である第16曲に使われていたので、《プロメテウス変奏曲》と呼んでいいと思いますが、実はほぼ同時期に、このバレエ曲の前に書かれた《12のコントルダンス》WoO14の第7曲にも出てくるのです。舞曲、バレエ音楽、この変奏曲、そして最後に《英雄》交響曲と、ベートーヴェンは同じ主題を4回使って創作していることになります。従来《エロイカ変奏曲》などと呼ばれていましたが、この変奏曲を作曲したときにはまだ《英雄》は影も形もありませんので、不適切な愛称でした。
(中略)
小山 序奏がついていたり、最終変奏の後にフーガが出てきたりするのも、当時としてはかなり異質、というか初めての試みで斬新です。
(中略)
平野 ベートーヴェンは和声法が主流の時代に、バス変奏のバロック的な手法を用いて新しい変奏曲を創り出したと言えるでしょう。そしてフーガを用いることでバロック時代へのオマージュを行っています。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ「傑作の森」への道のり』(音楽之友社)128ページより
バロック時代に発展した「序曲(序奏)」のあとに、やはりバロックの変奏曲であるシャコンヌやパッサカリアのように、バスの主題を元に次々と新しい対旋律が加わっていく「バス変奏」が展開され、バロック時代の代表的な形式であるフーガで締め括られる。まさにベートーヴェン流バロック時代へのオマージュといえる作品です。
こうしたバロック音楽の要素は、中期から晩年にかけて、ベートーヴェン作品の核のひとつになっていきます。
平野 「ピアノ・ソナタ第28番」Op101以降のソナタでは、ソナタの中にフーガと変奏曲を融合させようとしていました。これは晩年の弦楽四重奏や《第九》でも見られるものです。
小山 様々な試み、自分の新しい創作手法の模索が後期の創作に繋がっていったのでしょうね。
「自作主題による15の変奏曲とフーガ《プロメテウス変奏曲》」Op.35
作曲年代:1802年(ベートーヴェン32歳)
出版:1803年8月
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