
課題山積の「吹奏楽部の地域展開」を企業や行政など多様な立場から考える

吹奏楽業界で近年、大きな課題とされている「部活動の地域展開」は、文科省の予算が圧倒的に不足していると言われるなか、現場の閉塞感が高まっている。吹奏楽部をどのように地域展開させるのか、そのアイデアを異なる業界の人たちと交流することで考えようというイベントが5月行われた。

埼玉県出身。DTPや自転車など専門誌の編集部を経て、音楽之友社に入社。2015〜2022年3月に編集部のWeb担当として、Webマガジン「ONTOMO」やオンラインシ...
部活動は2026年度からの6年間で「改革実行」へ
大阪市の京橋駅近くにあるオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」。NTT西日本の本社ビルの敷地内に2022年に創設され、世の中をもっとよくしたいと考える人々が集い共創する場として、ワークショップやモノづくり、入居する会員の事業が行われている。
この「新たな出会いフロア」と呼ばれる1階で、5月15日、「部活動(吹奏楽)の地域展開を考える ― 地域と企業がともに描く、これからの“文化の支え方” 」と題するイベントが開催された。
文科省が主導する部活動改革の一環。教員不足の原因のひとつとされる教員の長時間労働を是正するための「教員の働き方改革」に端を発し、「部活動のガイドライン」で活動時間などの制限について目安が提示されたうえ、公立中学校の部活動を教員に負担させないために、運営主体を地域(民間)に「展開」しようと各自治体が中心となって進められている。
すでに「改革推進期間」の3年間を終えて、2026年度から6年間の「改革実行期間」に入った。現状、休日については、過疎地域を中心に多くの地域で実施されはじめているが、平日に関してはさらに課題山積で、ごく一部の地域での実施に留まっている。
減少が危惧されている吹奏楽部の課題
吹奏楽部は、もっとも地域展開が難しい部活動とされている。
なぜなら、楽器や楽譜といった「備品」や、音出しが可能な「練習場所」は、学校部活動の練習環境だからこそ毎日のように使用できるものだからだ。学校の音楽室は、体育館のように独立した建物でない場合がほとんどなので、地域クラブの運営者が利用する場合は、セキュリティの問題を解決しなければならない。
また、吹奏楽にはおもに12種類の楽器があって、本来それらの指導ができる「専門人材」も必要だが、これまでは教員の献身的な努力を中心に、先輩が後輩を教える伝統的なスタイル、場合によっては外部講師を招くということで、何とか成り立たせてきた。
そのほか、コンクールや演奏会での「楽器運搬」費などもあり、活動費は運動部よりも高額になりがちだ。これまでは自治体からの補助金などで工面できていた部分があるが、地域展開して国や自治体の予算が不足している現状のままであれば、習い事の月謝と変わらない金額を受益者(保護者)が負担することになるだろう。そうすると、子どもが入部できるかどうかは親の判断にも左右されて、吹奏楽ができる子どもが限られてしまう。
こうした課題が横たわる吹奏楽部の地域展開だが、だからと言って、このままでよいという話にはならないだろう。急激な少子化により、1つの学校では合奏できる人数に満たない地域も増えているうえ、教員不足を解消するには働き改革が急務だからだ。

未来のクラブ活動の姿を民間の事業が提案!
さて、こうした課題に対して、QUINTBRIDGEのイベントでは民間企業、行政、学校の立場から、さまざまな解決案が提示された。筆者は後日に記録動画を拝見したのだが、どの登壇者もプレゼンテーションの熱量が高くて面白く、ポジティブに未来を捉えた発表だったことは、まず言っておきたい。
民間からは4人が登壇し、画期的なテクノロジーやサービスが紹介された。
まずは「離れていてもtonari(隣り)で過ごそう」というキャッチコピーで他のシステムと一線を画す遠隔コミュニケーションシステム「tonari」。床から天井までを映す大型スクリーン、タイムラグを感じることない通信技術、そしてカメラを意識せずに目線を合わせて等身大の相手と話ができるスクリーン内蔵型カメラを備える。吹奏楽の現場であれば、リモートでの指導や合奏が自然に行えるのではないかと期待が膨らんだ。導入コストの高さが課題だが、普及するのであれば、生徒の移動や楽器運搬の問題が解決でき、地域格差の是正につながるだろう。
NTT西日本グループからは、全国20以上の自治体と連携して社会実装を進めている自動運転EVバスが紹介された。山口県周南市では、2024年度から実証実験がはじまり、すでにNavya Mobility製の自動運転EVバスが街を走っていて、満車のことも多いという。バスやタクシーのドライバーの高齢化や不足を改善するだけでなく、生徒の移動手段として利用できる日も近いかもしれない。
そのほか、服部管楽器が学校にある「休眠楽器」を修理して格安にレンタルすることを検討していること、また、就活支援と企業の人事コンサルティングを行うHUB@LIFEが、「仕事ができる人に吹奏楽経験者が多い」と企業にアピールし、スポンサーになってもらいつつ学生とつなぐ場としてコンサートを開催していることを紹介した。

地域クラブを大人のバンドの下部組織に
学校や地域の現場からは、すでに動き出している事例として、まず西宮市立中学校の教員・吹奏楽部顧問が、外部に受け皿となる組織をつくった例が紹介された。
大人の吹奏楽団の下部組織に中学生対象のジュニアバンドをいくつかの地域につくり、当初から指導者を用意して演奏会など本番の予定も組み、活動をパッケージにして提示。これにより、生徒や保護者の活動への不安が軽減できたとのこと。
「どこかのジュニアバンドが縮小しても、バンドを統合したり、小学5年生から社会人まで入れる大人のバンドが受け皿になって、子どもたちの活動は守られる」と語った。前述したような吹奏楽ならではの課題はあるものの、指導者など大人たちのつながりによって支えられる好例となるかもしれない。
学校を「まち」に ! 地域住民にも活動の場をつくる北海道安平町
自治体からは、北海道安平町教育委員会の教育長である井内聖氏がオンラインで登壇。安平町は人口は7000人ほど、小学校1校、中学校1校のほか、小中一貫の義務教育学校が1校あるが、子どもも大人も減り、スポーツ・文化に取り組む機会も減っている。この機会を支援するため、学校内に「まち」をつくった経緯や現状を語った。
安平町立中学校の部活動は令和7年度までですべて廃止にして、地域クラブの練習場所、時間、送迎、活動費については教育委員会が主導して調整を図った。地域おこし協力隊と総合型スポーツクラブが、スポーツ・文化活動の運営をサポートし、希望する指導者や教職員の兼職兼業によって指導者を確保。中学生だけでは成り立たないので、小学生から大人まで多世代のために環境構築を進めた。
このプロセスで、令和5年4月に義務教育学校として新設される予定だった安平町立早来学園をどのようにつくり、地域に開放するかが議論された。
この学校の空間デザインを担当したのが、デジタルアートのクリエイティブで知られるチームラボだ。顔認証によるセキュリティを導入するなど、テクノロジーを活用して、大中2つの体育館や図書館、家庭科室のほか、音楽室、美術室、技術室といった学校施設を、公民館のように地域とシェアし、ほぼ毎日9時から21時まで地域の人が簡単に利用できるようにした。

たとえば、平日の日中に学校内で、シニアの健康教室、子育て支援、料理教室などが開かれ、0歳から90歳が集うなか、休み時間には学校の子どもたちも本を借りに来る。昼休みに図書館で弦楽四重奏のコンサートを開き、シニアやお母さんと赤ちゃんといった地域住民に加え、先生、生徒が自由に集まり、食いつくように演奏を聴く――そんな自然に交流が生まれる光景も映像で紹介され、孤立や分断のない「まち」の姿の一つだと感銘を受けた。
吹奏楽部は今年度から地域クラブになり、この学校内で活動している。中心となる外部講師だけでなく、各楽器の講師も協力して指導にあたり、オンラインレッスンも活用している。今年は小学生1名を含む15名が所属。遠くから通う子どももいるため、平日16〜17時は自主練習、17〜19時で合奏などの全体練習を行い、保護者の理解も得ながら順調に活動しているそうだ。
ここに至るまでには、現場との意見の相違もあったそうだが、井内氏は「10年後のスポーツ・文化環境は、どうなっているだろうか」と関係者に問いかけ、「残すために」必要な形を模索していった。井内氏は、予測できない未来をどう予測するのか、「無理・難しい」の先にあるものは何か、それが吹奏楽がなくなるという未来であれば、私たちはそれを受け入れるのか――そう訴え、理解を得ようと努めたそうだ。
現状を変えることはエネルギーがいるが、まわりの変化が激しいなかで、何も行動しないことは逆にリスクになり得る。多くの地域住民が学校になごやかに集い、中学生だけでない多世代で多様なクラブ活動が行われている安平町の映像からは、この判断によって町全体の幸福度も高まったのではと感じられた。

財源を確保しながら、民間の力で魅力ある地域展開を
昭和の時代から続いてきた日本の部活動文化は、学校教育の一環としてその意義を評価されてきた。文科省の「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」(2025年12月)にもあるように、地域クラブになったとしても、その教育的意義は守っていくことが望まれている。
ただ、日本のスポーツ・文化や教育への投資が諸外国と比べても少なく、地域展開についても予算が不足している状況のなか、この改革の負担を現場の運営者や指導者、保護者に強いれば、スポーツ・文化は衰退してしまう(すでに小中学生の吹奏楽団体・人口は、明らかに減少している)。
公教育の一環として子どもの「機会均等」を守るためには、今回QUINTBRIDGEで発表されたような民間のアイデアを活用できるように、まず行政がしっかりと財源を確保しなくてはならないだろう。それが地域全体も活性化するような「魅力ある地域展開」に導くことになるのではと考えさせられる機会だった。
関連する記事
-
読みものONTOMOクイズ4:バッハの自筆譜だと思われていた楽譜を実際に書いたのは誰?
-
レポート全国の音高生が一堂に!21校、116名が参加した真夏の合同オーケストラ
-
イベントサラダ音楽祭2026~音楽の喜びが響き合い 街、人、世代をつなぐ
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest














